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クラシコの明暗を分けたバルサの「中盤の流動性」。逆三角形のインテリジェンス。

森田泰史スポーツライター
鍵を握った中盤の攻防(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

2人のスタープレーヤーを欠いたクラシコにおいて、威厳が損なわれることはなかった。

リオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウド。この10年間、世界一を競ってきた2選手がいないクラシコは実に3957日ぶりだった。2007年12月23日まで記憶を遡らなければならない。

2007-08シーズン、レアル・マドリーはラモン・カルデロン会長とベルント・シュスター監督を、バルセロナはジョアン・ラポルタ会長とフランク・ライカールト監督を船頭に据え、リーガエスパニョーラの覇権争いを繰り広げていた。ジュリオ・バプティスタのゴールで、1-0の勝利を収めたマドリーがその時点でバルセロナに勝ち点7差を付け、07-08シーズンの優勝を飾った。あのクラシコでプレーした選手で今回の試合に出場したのは、セルヒオ・ラモスだけだ。

それ以降、両者は幾度となく名勝負を演じてきた。2016-17シーズンのクラシコでは、「メッシ・システム」が生まれた。ルイス・エンリケ監督(現スペイン代表)は攻撃時に2-4-4を採るオフェンシブな布陣で、レアル・マドリーを撃墜した。

2017-18シーズンにはスペイン・スーパーカップの対戦でジダン前監督が「10対10」の戦術を敷き、リーガ前期のクラシコではバルセロナがそれを打ち破った。メッシのポジショニングの妙、そしてパウリーニョを含めフリーマンが2人になるというメカニズムが機能した。

■ポジションチェンジで的を外す

ジダン前監督は、「10対10」の戦術を敷いた。メッシを封じるための策を打ったのだ。だがロペテギ監督は、そういった施策を講じなかった。

メッシが不在だったという背景はある。バルセロナの4-3-3に対して、4-4-2というシステムで臨んだマドリー。ただ、多様性を含みながら試合を進めたのはバルセロナだった。

バルセロナは可変型4-4-2を敷き、ラフィーニャが中盤に下がってくることで、MFを4枚にしてパスコースを増やした。メッシの代役に選ばれたラフィーニャは、地味に効いていたと言える。ロペテギ監督のプランとしては、トップ下のイスコを、アンカーのブスケッツにぶつけたいところだった。だが、バルセロナが巧妙な手口でマドリーのプレスを無効化する。バルセロナはブスケッツ、アルトゥール、ラキティッチが継続的ににポジションチェンジを行い、ブスケッツを頂点とした、トライアングルをつくった。

アルトゥールとラキティッチがダブルボランチで、ブスケッツがトップ下という普段とは逆型の三角形だ。コウチーニョの先制点の場面では、ラキティッチが中盤でブスケッツに縦パスを入れ、ブスケッツが落としたボールをラキティッチが前方のスペースにフィード。これに抜け出したアルバからのクロスを、コウチーニョが左足で合わせてネットを揺らした。

メッシを欠いたバルセロナは個人技ではなく、コレクティブな機能性で状況を打開した。その意味は小さくなかった。そして、前半のうちにクラシコ初導入となったVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の力を借りて追加点を奪取。ペナルティーエリア内でヴァランに倒されたスアレスがPKを獲得し、自身で沈めて2-0とした。

■3バックで起点が2つに

マドリーは後半からヴァランに代えてL・バスケスを投入。カセミロが最終ラインに入り、3-5-2が施行された。システムの変更で、ビルドアップの際にモドリッチ、クロースと起点が2つになる。これにより、バルセロナはプレスの的を絞れなくなった。

すると後半開始から5分足らずで、マドリーがゴールをこじ開ける。イスコが右サイドを破り、そこから送られたクロスボールがこぼれ球に。虎視眈々と狙っていたマルセロがそれを蹴り込んだ。今季リーガにおける14得点のすべて、マドリーの得点の100%がペナルティーエリア内で生まれたものだ。前例に違わず、「得意な形」でゴールを陥れている。

しかし、すぐさまバルベルデ監督が動く。ラフィーニャを下げセメドを投入して、機動性と走力に優れるセルジ・ロベルトを中盤に組み込んだ。バルセロナの中盤のプレッシングが強化され、後半の半分を過ぎたところでセルジのクロスからスアレスがヘディングシュートを放ち、マドリーを突き放す得点が生まれた。加えて、スアレスがハットトリックを達成。途中出場のビダルが5点目を決めて、ゴールショーを締めくくった。

バルセロナはポゼッション率(54%/46%)、パス本数(534本/465本)、パス成功率(87%/84%)でレアル・マドリーを上回った。1点目のシーンでは、1分32秒の間に30本のパスを繋いで、得点を記録した。

さらに、セルジ、ピケ、アルバ、ブスケッツ、ラフィーニャと5人のカンテラーノがスタメンに名を連ねた。プレーの質、育成寮である「ラ・マシア」の誇り、バルセロニスタを納得させるだけの材料を揃えての勝利だった。

対して、マドリーはセビージャ戦、アトレティコ・マドリー戦、アラベス戦、レバンテ戦、バルセロナ戦とリーガで5戦未勝利が続いている。ロペテギ監督解任の可能性が取り沙汰され、ジョゼ・モウリーニョ監督、アントニオ・コンテ監督などの名前が候補として浮上する。

メッシとC・ロナウドのいないクラシコが終わり、「スペインの2強」と謳われてきた2チームの明暗は、スコア以上にはっきりと分かれている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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