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バルサが覇権争いのクラシコ制す マドリーを沈めた新たな「メッシ・システム」

森田泰史スポーツライター
メッシが圧巻の2ゴールで勝負を決めた(写真:ロイター/アフロ)

ビッグマッチでは、新たな歴史や語り草となるプレーが生まれるのが常だ。今回のクラシコにおいて、バルセロナの「メッシ・システム」がそれに当たるかもしれない。

チャンピオンズリーグ準々決勝でユヴェントスに敗れたバルセロナと、バイエルン・ミュンヘンを下してベスト4に進んだマドリー。その明らかな勢いの差が現れるかのように、マドリーは28分に先制する。CKのこぼれ球を拾ったマルセロが再び中央に折り返し、ファーサイドでセルヒオ・ラモスがボレーで合わせる。ポストを叩いたボールをカセミロが押し込み、サンティアゴ・ベルナベウに歓喜を届けた。

■メッシのトップ下と変則的4-4-2に2-4-4

先制を許したバルセロナだが、慌てる素振りは見せなかった。ルイス・エンリケ監督が欧州王者相手に講じた策が、徐々にピッチ上で効果を表していたからだ。

これがベンチに座る最後のクラシコとなる指揮官は、敵地ベルナベウの一戦でメッシをトップ下に据えるという妙案を駆使した。バルセロナはルイス・スアレスとパコ・アルカセルを2トップに置いた変則的4-4-2を敷く。

しかしながら指揮官の新たな戦術のからくりは、攻撃時にジョルディ・アルバとセルジ・ロベルトがWGとして最前線に位置する2-4-4のシステムにあった。これによってバルセロナは両サイドを目一杯使うことを可能とし、アタッキングサードに枚数を割くだけでなく中央のメッシにスペースを与える相乗効果を生み出した。

そして、バルセロナに同点弾がもたらされる。決めたのはそう、メッシである。中盤からするすると上がってきたメッシはイバン・ラキティッチからのパスを易々と前向きで受け、スピードに乗ったままDFを1人かわしてフィニッシュ。得意の左足でGKケイロール・ナバスを破っている。

■マドリーに脅威を与えたメッシの後方からの走り込み

通常の4-3-3であれば、メッシはあの場面で中盤の選手(ラキティッチ)からスピーディーに前向きでボールを受けることは不可能だっただろう。これまでのシステムでは、メッシは攻撃時右サイドに張るか、あるいはペナルティエリア角付近でDFを背負いながらパスを受けるプレーに終始していた。

しかしメッシがトップ下に入ることで、バルセロナはアルゼンチン代表FWを最も怖いエリアで、自由かつ有効に活用できた。ダイヤモンド型の中盤でメッシが両脇に「参謀役」として携えたのは、メッシと長い間共にプレーしてきたラキティッチと、自らも非凡な創造性を備えるイニエスタである。

マドリーDF陣がスアレスとアルカセルのマークを受け渡している隙を突き、メッシが後方からバイタルエリア目掛けて走り込む。そのメッシに、絶妙なタイミングでラキティッチやイニエスタからボールが預けられる。その瞬間が、マドリーにとって最大の脅威となっていた。

■議論を呼ぶであろうセルヒオ・ラモスの退場

73分のラキティッチの勝ち越しゴールにも、メッシが関与している。途中交代のアンドレ・ゴメスのパスがバイタルエリアに侵入したメッシに向かう。これはマドリー守備陣がブロックしたが、セカンドボールに反応したラキティッチがワンフェイントから左足を一閃。GKナバスはノーチャンスだった。

一方のマドリーは77分のセルヒオ・ラモスの退場が響いた。だが彼のレッドカードを誘発したのもまた...メッシだった。メッシは前半から再三ミドルゾーンでカセミロとやり合い、イエローカードを受けていたブラジル代表MFを退場に追いやろうと幾度となくドリブルを仕掛けていた。

70分にマテオ・コバチッチとの交代でカセミロがピッチから退くと、ターゲット変更と言わんばかりに、マドリーの主将を退場に追い込んだ。ハーフウェイライン辺りでボールをもらったメッシは素早く反転してカウンターのスイッチを入れようと試みる。それを防ごうとしたS・ラモスが激しいスライディングタックルを浴びせ、エルナンデス・エルナンデス主審から一発退場を命じられることとなった。

一発レッドには「厳しい判定」との声も挙がった。だがS・ラモスのスライディングは両足を揃えた蟹バサミのような格好でのタックルで、一歩間違えればメッシに重傷を負わせかねない類のものだった。退場になっても文句を言えない、リスクを負ったタックルだったのは確かだ。

■10人のマドリーが意地を見せるも、主役はやはりメッシ

数的不利となったマドリーだが、ベルナベウの後押しもあってここから盛り返す。86分には、カリム・ベンゼマに代わって投入されたハメス・ロドリゲスが再びスコアを振り出しに戻した。左サイドを上がったマルセロのクロスに左足を合わせ、マドリーの背番号10がネットを揺らした。

しかし、この日の主役はバルセロナの背番号10以外にいなかった。アディショナルタイムに突入した92分、セルジから始まったカウンターで、逆サイドのアンドレまでボールが届けられる。オーバーラップしてきたアルバが、アンドレからパスを受けてクロスを入れる。

「後方から走り込んできた」のは、メッシだ。アルバからのマイナスのパスを予期していたメッシは中盤からペナルティエリア内まで走って左足によりダイレクトのシュートを放つ。メッシにとって記念すべきバルセロナ通算500得点目は、今季のリーガエスパニョーラ優勝争い、また近年の覇権争いに再び火を点ける劇的な逆転ゴールとなったのである。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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