メッシが「10対10」の戦術を無効化。クラシコを決した、ポジショニングの妙と2人のフリーマン。
スコアほどの差はなかった。だがクラシコを制したバルセロナが、リーガエスパニョーラ制覇に向けて大きな一歩を踏んだのは確かだろう。
リーガ第17節、レアル・マドリーは本拠地サンティアゴ・ベルナベウにバルセロナを迎えた。今回のクラシコでは世界180カ国に映像を届けるため30台のカメラが設置され、6億5000万人から7億人の視聴者が見込まれていた。
■ジダンが繰り返した「10対10」の戦術
マドリーは今季序盤に行われたスペイン・スーパーカップでバルセロナに2連勝した。スーパー杯第2戦では、ジダン監督がコバチッチにメッシのマンマークを命じて「10対10」の戦術を敷いた。
ジダン監督は、公式戦における今季3度目のクラシコ(リーガでは初のクラシコ)で、再びその戦術を繰り返した。コバチッチはキックオフ直後からメッシにへばりつき、バルセロナのエースの自由を奪おうとした。
コバチッチとカセミロをダブルボランチに据えたマドリーは、4-4-2で前線からプレスを掛け、バルセロナを雁字搦めにする。前半はマドリーペースで進み、C・ロナウド、ベンゼマが決定機を迎え、先制点を奪取してもおかしくなかった。
■メッシのポジショニング
10対10の戦術。だがそれは、諸刃の剣だった。
後半、バルセロナはメッシのポジションを変える。前半こそ中盤に引いてボールを受けるケースが多かったメッシだが、彼が我慢して最前線に留まることで、コバチッチがマドリーの最終ラインに吸収される。
そして、マドリーは中盤の3枚(カセミロ、クロース、モドリッチ)がバルセロナの中盤4枚(ブスケッツ、イニエスタ、ラキティッチ、パウリーニョ)にプレスに行く羽目になり、後手を踏む。バルセロナのボール保持率が上がり、高い位置でのポゼッションが可能になった。
バルセロナの1点目のシーンで、コバチッチはメッシのマークを優先させ、ラキティッチにプレスに行かなかった。悠々とドリブルで中盤を横断したラキティッチは右サイドのS・ロベルトに展開して、そこからのクロスをスアレスがフィニッシュした。
2点目の場面では、カセミロのボールをブスケッツがつつき、それを奪ったピケがメッシにパスをしてそのまま前線へ上がる。ラモスとヴァランの注意がピケに引き付けられ、スアレスが相手右SB(カルバハル)の背後のスペースを突いてフリーになった。
その瞬間を見逃さずにメッシからスルーパスが通る。スアレスのシュートは相手守護神とポストに阻まれたが、こぼれ球に反応したパウリーニョのヘディングがカルバハルのハンドを誘い、レッドカードとPK奪取で試合が決まった。
コバチッチがマンマークに気を取られるあまりプレスに参加しなかったこと、意識が攻撃に傾いたカセミロのボールロストからカウンターを喰らったこと、この2失点はマドリーの戦術の欠陥を象徴するものだったと言える。
■フリーマンが2人に
パウリーニョの存在は、メッシに恩恵をもたらした。この夏、4000万ユーロ(約52億円)という高額な移籍金で加入して、多くの批判に晒された男は、ビッグマッチで再び自身の価値を証明している。
前線でポストプレーをこなしたかと思えば、中盤でプレッシングをかけ、はたまた2列目の飛び出しでゴールを狙った。ピッチを所狭しと駆け巡り、イニエスタやメッシの「壁役」を担った。
マドリーからすれば、フリーマンのように動くメッシとパウリーニョは捕まえづらかった。流動的にポジションを変えながらボールを受ける2選手と、それに呼応するようにポゼッションを高めるバルセロナを相手に、前半のようにプレスの的を絞れなくなった。
試合の経過につれ、「どこで」密集させるかが不明瞭になっていた。前半のプレッシングで疲労が祟ったのも、ひとつの大きな要因だったかもしれない。
■策士策に溺れる
ストップ・ザ・メッシを至上命題としてクラシコに臨んだジダン監督だが、策士策に溺れる、とはこのことだろう。
バルセロナはポゼッション率(54%:46%)、パス本数(676本:574本)、シュート数(17本:11本)と全ての面でマドリーを上回った。リーガ開幕後、公式戦25試合で無敗を維持したまま、クリスマス休暇に入る。
首位バルセロナと4位マドリー(未消化1試合)の勝ち点差は14ポイントにまで開いた。クラシコでの3-0の勝利は、バルセロナに冬の王者の称号を与え、奪冠への道筋を浮かび上がらせている。