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なでしこジャパンの世代交代は成功したか。フランスW杯に向けての強化を考える。

森田泰史スポーツライター
オーストラリア戦では相手のエースであるカーを止められず(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

2019年6月に開催されるフランス・ワールドカップまで、準備期間が残り1年を切った。

果たして、なでしこジャパンは進むべき道を進んでいるのだろうか。リオデジャネイロ五輪ではメダルが期待されたが、まさかの予選敗退。本選出場権を逃すと、それまでチームの中核を担っていた選手たちが一気に抜けた。

永里優季は新体制発足直後こそ招集されていたが、最近は呼ばれていない。川澄奈穂美は今年3月に復帰するまで、およそ2年間代表から遠ざかった。岩清水梓や宮間あやに関して言えば、高倉麻子監督から一度も声を掛けられていない。

リオ五輪予選の主力で、かつ現在レギュラー級の選手は熊谷紗希、鮫島彩、中島依美、有吉佐織、宇津木瑠美、阪口夢穂のみだ。つまり、メンバーが「ごっそりと」入れ替わったのである。高倉監督は自分の色を打ち出したかったのかもしれない。ただ、現在のなでしこに色が付いているかと言えば、疑問だ。

本来であれば、世代交代は少しずつ、緩やかに進行していくものだ。ベテランが若手に経験を伝え、戦い方を継承し、その過程で新チームの個性を打ち出していくのが理想だろう。

■世代別代表の成功

高倉監督はAFC U-16女子選手権優勝(2013年)、U-17女子ワールドカップ優勝(2014年)、AFC U-19女子選手権優勝(2015年)と世代別代表で結果を残した。

長谷川唯、清水梨紗、市瀬菜々らは高倉監督と共に若い頃からアジアや世界のチームと戦ってきた。高倉ジャパンを象徴する選手だと言える彼女たちには、若い頃から世界で戦ってきたという自負があるはずだ。一方で、時にその自信が足枷になる。先に行われたトーナメント・オブ・ネーションズを、なでしこは3戦全敗で終えている。アメリカ、ブラジル、オーストラリアを相手に、90分を見れば上回った試合はひとつもなかった。負けるべくして、負けたのだ。

それにもかかわらず、試合後の選手たちの言動を見ていると、どこか飄々としているというか、危機感が感じられない。「勝てた試合だった」「やれると思った」で今回の遠征を片付けてはならない。世界との距離感が、うまく掴めていないのではないか。そんな気がしてしまうのである。

「個」で通用しない部分を、組織で補う。その考え方こそが、なでしこの真骨頂だった。しかしながら、意図されたコンビネーション、チームプレーというのは、現代表にあまり見られない。これが、「自分たちは個人でも世界の強豪相手に戦える」という発想のもとにあるとしたら、危ない。

■現実の認識

3月のアルガルベカップでは、オランダ、デンマーク、アイスランド、カナダと対戦して、最終的に6位で大会を終えている。2018年に入り、FIFAランク10位以内の欧米のチームを相手に一度も勝利を収められていない。

この状況で、自分たちが今のままで列強国と対等に渡り合えると考えるなら、それは単なる「驕り」である。現実から目を背けているだけだ。ただ、現時点で、協会内の評価は芳しくないようだ。この結果の責任を誰が取るのか。その所在を明確にする必要がある。

アルガルベ杯の4試合のスタメンの平均年齢は25.06歳だった。トーナメント・オブ・ネーションズの3試合においては、24.43歳。「若いチーム」と言えば、聞こえはいい。しかし、一歩間違えれば経験不足が仇となる。

フランスが優勝した男子のW杯をきっかけに、世界は「弱者の兵法」を採り入れたサッカーにシフトしていくだろう。女子サッカーにも、その流れは確実にくる。

なでしこの攻略法としては、横に揺さぶりをかけ、縦に長いボールを入れればいい。前線にスピードと高さのあるFWがいれば文句なしだ。今後、強豪国はこれを徹底してやってくるはずだ。

サイズの問題は依然として克服されていない。何より、今もってなお、なでしこの「勝ちパターン」に持っていく絵が見えない。10カ月後には、本番が始まる。テストをしている余裕は、いよいよなくなってきている。

■積み上げと徹底

では、世界のトップチームと争うために、具体的にどうすればいいか。以前、永里亜紗乃に聞いた話を思い出した。

「U-17の代表の時に、監督からセットプレーのキッカーを任されていました。その時に言われていたのは、左のコーナーキックを右足で、右のコーナーキックを左足で蹴る、ということでした。つまり、ゴールに向かうボールを送るということですね」

「触っても1点、触らなくても1点。そういうボールが求められていました」

A代表においては、宮間がプレースキッカーを務めていた。宮間もまた、左右両足を使ってセットプレーを蹴っていた。あれは宮間という選手の特徴によるものだとばかり思っていたが、その実は違ったのだ。

佐々木則夫前監督とコーチングスタッフの工夫と徹底が、下地にあった。

そこまでしなければ列強国に勝てないのか、と思えてくる。だが、その「徹底」が、奇跡のような勝利を手繰り寄せていた。

あの頃と現在では、チームの土台が異なる。しかし、そこには必ずヒントがある。それを自分たちなりに消化できれば、アジアのチームが相手でも、世界の強豪が相手でも、勝機は見えてくるはずだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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