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ロシアW杯を制したフランス。CB型4バック、可変トリプルボランチ、プレス重視のCFという戦術的要素。

森田泰史スポーツライター
優勝したフランス(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

フランスが、世界の頂点に立った。ワールドカップでの優勝は20年ぶりのことだった。

フランスはロシアW杯でオーストラリア、ペルー、デンマーク、アルゼンチン、ウルグアイ、ベルギー、クロアチアと対戦した。

グループステージ最終戦のデンマーク戦こそメンバーを落として引き分けたが、アジアの1チーム、南米の3チーム、欧州の2チームを倒しての戴冠に、異論を挟む者はいないだろう。

■スタープレーヤー不在

フランスに、本当の意味でスタープレーヤーはいなかった。この意味するところは大きい。確かにアルゼンチン戦のキリアン・ムバッペは強烈だった。アントワーヌ・グリーズマンは要所で得点とアシストにより、デシャン監督とフランス国民の期待に応えた。

だが何より、オリヴィエ・ジルーが大会を通じて無得点に終わっている。これまでの大会では、ロナウド(ブラジル)、ダビド・ビジャ(スペイン)、ミロスラフ・クローゼ(ドイツ)など、優勝するチームに必ずと言っていいほど決定力のあるストライカーがいた。

2006年のドイツW杯におけるイタリアは例外的に守備のチームとして頂点に立ったが、あれはまさしく「カテナチオ」の勝利だった。その時でさえ、アレッサンドロ・デル・ピエロやフランチェスコ・トッティがノーゴールで大会を終えたかと言えば、そうではない。

ただ、ジルーのフランス代表での成績は81試合31得点と立派なものだ。ティエリ・アンリ(51得点)、ミシェル・プラティニ(41得点)、ダビド・トレゼゲ(34得点)に次いで、ジルーはフランス代表史上4番目の得点者である。

ジルーに著しく決定力が欠けているわけではない。しかしながら、ロシアW杯においては、プレスを重視するCFがフランスには求められた。

■フランスの守備

フランスの組織力は大会を通じて光っていた。アルゼンチン戦(4-3)こそ打ち合いの展開になったものの、ウルグアイ戦(2-0)、ベルギー戦(1-0)では完封勝利を収めている。ルイス・スアレスやロメル・ルカクなど、名立たるCFが完璧に抑えられた。

それはフランスが「守備から入る」チームだったからに他ならない。全員が守備をする。そのコンセプトを、デシャン監督は選手たちに徹底させた。前述のジルーも、プライオリティが得点より守備にあるが如く、前線からボールを追い回し、時には最終ラインまで戻って相手の攻撃を食い止めた。

また、大会前のあるアクシデントが、フランスに幸運をもたらす。災いが転じて、福と為した。

そのアクシデントとは、ジブリル・シディベ(モナコ)、ローラン・コシールニー(アーセナル)のケガである。2選手の負傷により、デシャン監督はベンジャミン・パバールとルカ・エルナンデスのサイドバック起用を決める。シディベが23名の招集リストに入った一方で、コシールニーは欠場せざるを得なかった。

パバールは所属するシュトゥットガルトで、ルカ・エルナンデスはアトレティコ・マドリーで、センターバックでプレーしている。つまり、CB型の4選手が最終ラインに並ぶことになったのである。

コシールニーがいたら、彼とヴァラン、右利きの2選手がCBに並ぶことになっていた。すると、フランスの攻撃は自然と左サイドに傾く。展開力が落ち、カウンターの刃は鋭さを失っていたはずだ。

右サイドにムバッペが待ち構えるフランスにとって、左利きのCBであるユムティティの存在は確実にプラスに働いた。

■ポゼッション率

今大会のフランスのポゼッション率は、過去20年優勝したチームの中で最低のものだった。

各チームのポゼッション率はフランス(2018年大会/48,6%)、ドイツ(2014年大会/60,7%)、スペイン(2010年大会/65,2%)、イタリア(2006年大会/48,6%)、ブラジル(2002年大会/48,9%)、フランス(1998年大会/53,8%)である。

フランスが、2006年W杯時のイタリアと同率というのは、特筆に値する。

そして、フランスの大会を通じての総パス本数は3057本だった。スペインは1試合(ロシア戦)でこの約3分の1のパス本数である1137本を記録している。しかし、彼らはそのロシアに敗れて姿を消した。

■可変のトリプルボランチ

前々回の大会では、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、ダビド・シルバ、セスク・ファブレガスと、四人の創造主がスペインを支えた。前回大会ではトニ・クロース、メスト・エジルと技術に優れた選手がドイツの中盤に君臨した。

しかし、ロシアW杯は違った。

エンゴロ・カンテとポール・ポグバ。さらに、ここにブレーズ・マテュイディが加わり、フランスはトリプルボランチのような形で中盤を構成した。

カンテ(出場時間595分/総走行距離68,5Km)、ポグバ(出場時間539分/総走行距離58,1Km)、マテュイディ(出場時間352分/総走行距離37,9Km)と、3選手はよく走った。なお、カンテのボール奪取数は61回。これは大会トップの数字である。

シャビやクロースのように、中盤を司るわけではない。だが、カンテ、ポグバ、マテュイディが的確なポジションを取るフランスに対して、対戦相手はミドルゾーンに「空き」を見つけられなかった。

可変のトリプルボランチ。ポゼッション率を上げるためではなく、守備を第一としたシステムで、フランスが王座に就いたのだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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