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イニエスタの新天地は神戸で決まりか。スペイン中で愛される人間性と周囲への影響力。

森田泰史スポーツライター
味方にパスを出すイニエスタ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

バルセロナのアンドレス・イニエスタが、ヴィッセル神戸に加入する可能性が高まっている。

今月11日に34歳を迎えたイニエスタだが、力が格段に落ちたわけではない。確かに一時ほどのスピードや相手DFを剥がす際のキレはないが、まだまだ一線でプレーできるだろう。6月に控えるロシア・ワールドカップにおいても、スペイン代表の当確組のひとりだ。

そのイニエスタが、Jリーグに来る。そうなれば、鹿島アントラーズのジーコ、ジュビロ磐田のドゥンガに匹敵するインパクトがあるのは間違いないはずだ。

■日本行きの報道

きっかけはスペイン『カデナ・セール』の報道だったろうか。年俸2500万ユーロ(約32億円)の3年契約で、イニエスタが神戸加入で合意したというものだ。

「イニエスタは楽天の三木谷浩史社長が保有権を有するヴィッセルでプレーする」(『アス』)、「中国に振り回されたイニエスタが日本に向かう」(『マルカ』)、「イニエスタ、日本サッカー界入りで決着か」(『ムンド・デポルティボ』)、「イニエスタが行き先を中国から日本に変更」(『スポルト』)と主要メディアがこれを追った。

それまで中国スーパーリーグの重慶力帆行きが濃厚だといわれていたイニエスタだが、日本という選択肢の浮上は周囲からすれば寝耳に水だった。だがスペイン『RAC1』によると、重慶力帆はイニエスタ獲得をあきらめていないという。

神戸の三浦淳寛スポーツディレクターは先日、驚きとともにイニエスタ加入のニュースを受け取ったと認めていた。ただ、三木谷社長は楽天がバルセロナのスポンサーになる前からジェラール・ピケらと食事を共にするなど、バルセロナ関係者との関係は深い。水面下で交渉が行われている可能性は十分にある。

カタール、アメリカ、オーストラリアと各国のクラブがバルセロナで黄金時代を築いた選手を狙っている。イニエスタ本人は先のビジャレアル戦後に「詳細を詰めているところ」「みんなが知るのは僕が発表する時」と話すにとどまっている。移籍先の決定と公表に慎重な姿勢だが、どうやら選択肢は日本と中国に絞られたようだ。

■イニエスタの人間性

イニエスタ級のプレーヤーが来ることに対して、当然、日本では期待が高まっている。期待が重圧に変化するケースもあり得るが、イニエスタに関しては心配がないように思う。

それはイニエスタの選手としての質というより、人間性に拠る。彼ほどスペイン国内で愛されている選手はいない。今季最後のコパ・デル・レイ出場となった決勝のセビージャ戦では、バルセロナが大量リードしている展開でありながら、交代の際にバルセロナとセビージャのサポーターから万雷の拍手を受けた。

バルセロナ退団を発表した後の試合では、敵地リアソールの観衆から交代時に大きな拍手を受けた。デポルティボはその試合で2部降格が決まった。それほど厳しい状況に置かれながら、イニエスタのこれまでの功績を称えたのだ。

唯一、イニエスタに敵意を剥き出しにするのが、アスレティック・ビルバオのファンである。2010年9月25日に行われた一戦、フェルナンド・アモレビエタのタックルを受けたイニエスタが倒れると、主審はアモレビエタに一発退場を命じた。あのプレーがシミュレーションだったと今もなお主張するアスレティックのファンは、本拠地サン・マメスをイニエスタが訪れるたびにブーイングを浴びせる。

だがアスレティックのファンは例外だ。2010年の南アフリカ・ワールドカップ決勝で、オランダとの120分の激闘に終止符を打ったのはイニエスタの得点だった。イニエスタは、そのゴールを前年に突然亡くなった故ダニ・ハルケ(エスパニョール)に捧げた。「ダニ、いつも君と共に」。ユニフォームを脱ぎ、そう書かれたTシャツを見せた彼の振る舞いに、誰もが深く共感し、感動した。

なお、この試合で解説を務めていた元スペイン代表監督ホセ・アントニオ・カマーチョの「イニエスタ・デ・ミ・ビダ!」(嗚呼、私のイニエスタよ!)という言葉は流行語になる勢いでスペイン中を駆け巡った。いまも名言としてスペインのフットボールファンの心に残っている。

その類まれな人間性で、地域間の価値観の差が激しいスペインを虜にした。それがイニエスタという選手だ。彼が与える影響は計り知れない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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