なでしこジャパンに必要な「繋ぎ役」。真剣勝負で生まれた勝利への欲と訪れた変化
アジア連覇に、王手だ。なでしこジャパンがタイトル獲得に向けて邁進している。
準決勝で中国に3-1と快勝したなでしこは、決勝でオーストラリアと対戦する。グループBの最終節で1-1と引き分けたオーストラリアとの再戦にアジア女王の冠が懸かる。
■繋ぎ役
なでしこは中国をまったく寄せ付けなかった。岩渕真奈のゴールで先制すると、途中出場の横山久美が2発を叩き込み、中国の反撃を1点に抑えて鮮やかに勝利した。グループステージの戦い方から打って変わって、蛹が羽化したかのように大きな変化が見て取れた。どうやら、オーストラリア戦で得た自信は本物だったようだ。
勝因は精神面の成長だけではない。なでしこに足りなかったものが、確実に補完されてきている。直近の2大会(E-1選手権とアルガルベカップ)を見て気になっていた部分。それは現在のなでしこに、「自分中心」の選手が多いということだ。「自分中心」という表現が少々強く感じれば、「自分発信」に置き換えてもいい。要は、周囲の味方やゲームの流れを「繋ぐ」選手、コネクトプレーヤーが少ないのである。
アジア杯、2019年フランス・ワールドカップが控える中で選手たちは鎬を削ってきた。アピールしなければいけない状況で「自分が、自分が」というプレーが出てくるのは、当然のことだろう。ボールを保持している場面で、誰もがパスを呼び込もうとする。自分に出せ。そういうメッセージだ。ただ、「世界」を見据えた時には二手先、三手先を読んだプレーが必要になってくる。良い意味で、ピッチ上で空気を読める選手、気を配れる選手が欲しいところだった。
だが今大会で、まさに味方と味方を繋ぐプレーを見せてくれている選手がいる。宇津木瑠美だ。宇津木は攻守両面で非常に効いている。守備面ではセカンドボールへの予測が早く、攻撃面では機を見て積極的に縦パスを入れている。その働きが、チームに抜群の安定感をもたらしている。
繋ぎ役ーーーそれこそ、以前澤穂希が担っていた役割ではなかったか。澤は圧倒的な存在でありながら、守備と攻撃を繋ぎ、チームメート同士を繋ぎ、果てにはピッチ内・ピッチ外の選手を繋いだ。現在のなでしこが、澤の不在を感じているのは確かだ。だが、それは澤穂希という才能の欠如を惜しんでいるからなのだろうか。澤のような性質を備えた選手が、いないのではないか。そして、その課題こそ、世界を見据えた時に克服する価値があると思うのである。
■本気の舞台で生まれた欲
「変化」は、今大会のなでしこのひとつのキーワードに思える。
第一に、高倉監督は今大会前に川澄奈穂美をおよそ2年ぶりに代表に呼び戻した。まだフィットしていない印象が否めない川澄だが、それでも中国戦ではゴール前に顔を出して横山がPKを誘発したシュートを引き出した。韓国戦で唯一の決定機といえた菅澤優衣香のヘディングシュートの場面、そのCKを蹴ったのも川澄だった。要所要所でクオリティを示した。
そしてグループステージ最終戦、準決勝では宇津木をスタメンに組み込んだ。準決勝においては阪口が外され宇津木がスタメンに名を連ねた。この意味は大きい。「阪口+誰々」ではなく、「宇津木+誰々」になった。序列の変化。阪口は高倉政権で絶対的な存在になりつつあった。そこに競争が生まれたのである。無論、「阪口+宇津木」という選択肢もある。このバリエーションがチームを活性化させるのは間違いない。
また、横山は中国戦で途中出場ながら2得点を挙げ、気を吐いた。岩渕真奈がエースとして持ち上げられるなか、確かな得点力を証明。海外トップリーグで切磋琢磨している彼女たちの力は伊達ではない。指揮官は彼女のような選手たちを無視できないだろう。そういった選手を起用した場合、何が起こるかを全員が目撃したからだ。
グループB最終戦、オーストラリア戦では、「弱者の兵法」を採った。格上のオーストラリアを相手に、いつものポゼッションを放棄して、多少ラフでも早めにボールを前線に送り出して、対峙するチームの攻撃スタート位置を低くした。高い位置からのボール奪取とカウンターという策を封じて、肩透かしを喰らわせ勝ち点1を奪取した。
なでしこに変化をもたらしたものとは、何か。それは勝利への欲だったのではないかという気がするのだ。この2年、なでしこはどこかぬるま湯に浸かっているようなところがあった。真剣勝負の場がなく、世界との距離感を明確に測れなかった。高倉監督自身にも、幾度か選択の場面で迷いが見られた。
しかし、このアジア杯が分水嶺となった。勝利を求められる本気の舞台で、なでしこはひとつステップを上がった。まだ決勝のオーストラリア戦が残されている。もちろん、目指すは優勝だ。だがそれ以上に、この変化が本物なのかどうかを見極めたい。