イニエスタが迎える「第二の青春」。正義感の強い男が見せる覚悟。
今季好調を維持するバルセロナで、エルネスト・バルベルデ監督にとって欠かせない選手がいる。アンドレス・イニエスタだ。
彼はまるで若返ったかのように、生き生きとしたプレーを見せている。
■ルチョ政権で出場機会が激減
「ベテラン」と称される域に達した選手たちの待遇は、時に指揮官にとって悩みの種となる。ルイス・エンリケ前監督とイニエスタの関係が、まさにそれだった。
ルチョ(ルイス・エンリケの愛称)は30歳を超えたイニエスタのプレータイムを調整することにより、彼のコンディションを整えようとした。
2013-14シーズン(リーガ35試合出場/出場時間2481分)に比べ、ルチョ政権では2014-15シーズン(24試合/1590分)、2015-16シーズン(28試合/2244分)、2016-17シーズン(23試合/1302分)と、出番は減っていった。
ルチョなりにイニエスタを気遣ったつもりだろうが、これは逆効果だった。正義感の強い男は、自身がバルセロナで本当に価値のある選手なのかを見定めることになる。
■欲していた全幅の信頼
昨年、早くからクラブにより契約延長の話を持ち込まれていたイニエスタだが、すんなりと首を縦には振らなかった。「自分が重要な存在かどうか」「いろいろな面から評価しなければならない」と考える時間が必要だと強調した。
12歳からカンテラで過ごしてきた選手が、これほどまでに考え抜いていたところに、イニエスタの心の闇が見え隠れする。だがチングリ(バルベルデの愛称)の就任が追い風になった。
チングリはルチョとは違った。昨年夏にネイマールがパリ・サンジェルマン移籍を決断するという「突発的な出来事」の影響もあったかもしれないが、指揮官はイニエスタを中核に据えると決めた。
事実、イニエスタはここまでリーガで26試合のうち20試合に出場している。出場時間は1344分。今季リーガで30試合以上に出場すれば、それは4年ぶりのことになる。
チングリとの「フィーリング」を確信したイニエスタは、昨年10月6日にバルセロナとの契約を延長した。生涯契約。バルトメウ会長が「バルサの選手としては初めて」と明かしたように、異例の待遇だった。
■クライフの言葉
故ヨハン・クライフは、かつてイニエスタをこう評していた。
「イニエスタは、技術こそがフットボールの基礎なのだと示してくれている。フィジカルではなく、技術。フィジカルは重要だが、技術は必需品だ」
「シーソーの原理だ。技術を軽視すれば、フィジカルを重視することになる。だが、フットボールは陸上競技ではない。スピードのある選手、体力のある選手が重宝される訳ではない。フィジカルだけが評価基準だったら、イニエスタのような選手は死んでしまうだろう」
バルセロナの創造主が語る通り、イニエスタの技術は錆びることなく、年齢を重ねるごとにワインのように熟成している。
■「誰も僕を引退に追い込むことはできない」
近年アルダ・トゥラン(現バシャクシェヒル)、アンドレ・ゴメス、デニス・スアレスと次々に中盤を補強したバルセロナだが、イニエスタのポジションを奪える選手はいなかった。
そして今冬、バルセロナは固定額1億2000万ユーロ(約156億円)+ボーナス4000万ユーロ(約52億円)の移籍金を支払い、リヴァプールからフィリペ・コウチーニョを獲得した。
「誰も僕を引退に追い込むことはできない」。コウチーニョ獲得に際して、イニエスタはそう話していた。イニエスタにしては、珍しく強気の発言だった。
主将が垣間見せた意地。それは今後もバルセロナを背負っていくという強い覚悟だったのかもしれない。