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ペップの金言は何処に。バルサの黄金時代を支えた、カンテラーノ登用。

森田泰史スポーツライター
グアルディオラ監督の指示を聞くメッシ、ブスケッツ、イニエスタら(写真:ロイター/アフロ)

ジョゼップ・グアルディオラ現マンチェスター・シティ監督は、2010年2月に当時指揮を執っていたバルセロナで声高に語った。

「バルサのカンテラがレアル・マドリー、ビジャレアル、エスパニョールのものより格段に優れているわけじゃない。バルサではそういった選手がトップで起用される。そこで違いが生まれるんだ」

グアルディオラ政権でアシスタントコーチを務めた故ティト・ビラノバは、積極的にカンテラーノを起用して数多のタイトルを獲得した指揮官と同じ路線を辿った。2012年11月25日に行われたリーガエスパニョーラ第13節レバンテ戦では、スタメン全員がカンテラーノだった。

GKビクトール・バルデス、DFマルティン・モントーヤ、ジェラール・ピケ、カルレス・プジョル、ジョルディ・アルバ、MFセルヒオ・ブスケッツ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、FWペドロ・ロドリゲス、セスク・ファブレガス、リオネル・メッシ。自家栽培の11人が躍動した試合で、バルセロナはレバンテを4-0と一蹴している。

■カンテラーノの登用が減る現実

クラブ史に刻まれる試合から、5年が経過した。バルセロナを取り巻く状況は大きく変わりつつある。

昨季開幕時、バルセロナがトップチームに抱えたカンテラーノはわずか8人だった。これはグアルディオラ監督が就任する前年(2007-08シーズン)以来、最低の数字である。

ルイス・エンリケ前監督がカンテラを軽視していたわけではない。だが2016年夏には、モントーヤ、マルク・バルトラらカンテラで長く過ごした選手をはじめ実に7人のカンテラーノがチームを後にした。

今年の夏も、その傾向は変わらなかった。ジョルディ・エムボウラ(モナコ)、エリック・ガルシア(マンチェスター・シティ)といった若い選手たちを引き抜かれ、マーロン・サントスをレンタルでニースに放出してしまった。

その一方で、バルセロナは近年補強に大金を投じている。2014年夏から2017年夏までの補強費は4億1500万ユーロ(約551億円)である。先に挙げたレバンテ戦のスタメンの獲得費総額は5500万ユーロ(約73億円)だった。財政の観点から見ても、カンテラ軽視がクラブを圧迫しているのは明らかだ。

■期待のカンテラーノがコパで躍動

バルベルデ監督はコパ・デル・レイ4回戦レアル・ムルシア戦で4人のカンテラーノをデビューさせた。ファーストレグでマルク・ククレジャ、ホセ・アルナイス、セカンドレグでオリオル・ブスケッツ、ダビド・コスタスが檜舞台に立った。

指揮官に猛アピールしたのはアルナイスだ。アルナイスはデビューから2試合連続で得点を記録。これは、リュドヴィク・ジュリ以来の快挙だ。2004年夏にモナコからバルセロナに移籍したジュリは、2004-05シーズンに移籍後2試合で連続ゴールを決めた。アンドレス・イニエスタ、リオネル・メッシらが達成できなかった記録を、アルナイスは達成している。

また、セカンドレグで輝きを放ったのはカルレス・アレニャだ。バルセロナは異例の対応でアレニャをカンテラに入団させた過去がある。当時7歳だったアレニャは、本来であればプレベンハミン(6歳~7歳)のカテゴリーに属するはずだった。

カンテラのカテゴリーをベンハミン(8歳~9歳)からとしていたバルセロナだが、エスパニョールに引き抜かれることを恐れてアレニャを7歳で入団させている。彼は12年に渡りバルセロナのプレースタイルを叩き込まれており、ピッチに立てばベテランの風格を漂わせる。

醸成された自家栽培製品はバルセロニスタの心をくすぐる。バルセロナはカンテラーノ登用で黄金時代を築いた。今一度、ペップの言葉を深く噛み締める必要があるかもしれない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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