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世代交代ではなく、目指すは若手とベテランの融合。問われる「代表レベル」基準の再構築。

森田泰史スポーツライター
井手口の得点を喜ぶ乾、本田、長友。団結を象徴するシーンだ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

11月の欧州遠征は、ブラジル、ベルギーに2連敗する結果に終わった。

この遠征で期待されたような成果が得られたのかと言えば、そうではないだろう。日本代表にとっての収穫を列挙するのは難しい。だが、見えてきたことは間違いなく、ある。

■騒がれた世代交代

8月31日のロシア・ワールドカップ(W杯)出場を決めた一戦。埼玉スタジアムのオーストラリア戦で得点を記録したのは浅野拓磨、井手口陽介だった。

若い2選手が勝利を手繰り寄せる大仕事をやってのけたことで、「世代交代」が騒がれた。巷では本田圭佑不要論が巻き起こり、日本中がニューカマーの誕生を歓迎した。

だが今回の欧州遠征で分かったのは、若手とベテランを融合させる必要があるということだ。W杯本大会は、準備期間を含めれば1カ月を超える長丁場になる。そこで求められるのは、11選手ではなく、23選手全員の総和である。

■日本が世界に誇るべき団結力

ブラジル戦の先発メンバーの平均年齢は28歳だった。ベルギー戦では、長澤和輝がスタメンに抜擢された影響もあり、平均年齢は27,27歳まで下がっている。

ただ、前述したように、大切なのは23選手の総合力だ。日本の場合、「盲点」となるのは、長年代表を背負ってきた選手にベテランが多いという事実である。

川島永嗣、長友佑都、長谷部誠らは本大会でも主力になる可能性が高い。柱となる選手が、出場しない選手の心情を含めたチームの細部に気を配るのは現実的には不可能だろう。

中田英寿は以前、1998年フランス大会に臨んだメンバーについて「好き勝手にやらせてもらっていた」と振り返り、年上の選手に支えられる代わりに得た自由で攻撃に専念できたと認めていた。2002年日韓W杯では、中山雅史、秋田豊の存在が“Bチーム”を活気づけ、ベスト16進出を果たした。

ジーコJAPANはアジア杯を制したメンバーから三浦淳宏、藤田俊哉を外してドイツW杯に挑み、惨敗した。2010年の南アフリカ大会では、楢崎正剛、川口能活が周囲からサポートした。直前でスタメンから外れた中村俊輔が出ている選手にペットボトルを渡す姿は観る者の心を打った。

■代表レベルの基準

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、今回の遠征に本田、香川真司、岡崎慎司を呼ばなかった。この決断は少なからずファン、メディアを驚かせた。だがブラジル、ベルギーに完敗したことで、我々は「代表レベル」の基準再構築に迫られている。

代表に必要なのは、どの選手なのか。心・技・体が揃い、なおかつ主力としても控え選手としてもチームに何らかの+αをもたらせる。そんな23人の戦士が要る。

「戦術」「技術」「フィジカル」の差を語るのは簡単だ。なぜなら、ブラジル戦とベルギー戦において、その違いは明らかだったからだ。そして、その結果から指揮官叩きに走るのも容易である。目に見えた結果によって、船頭に責任を問うだけだ。

しかしながら、ロシアW杯でベスト16以上を望むのなら、ファン、メディアが質を上げなければいけない。本当の意味で代表に貢献できる選手を、これから厳しく見定めていく必要がある。

選手たちは本番7カ月前にアウェーの地で「世界」を体感した。自戒を込めて、言いたい。今度は我々の番だ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

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