レアル・マドリーで問われる“BBC”の価値。攻撃の実権は「装飾過多」と揶揄されたイスコの手に。
決断の時が迫っているのかもしれない。屋台骨を崩す突貫工事になったとしても、だ。
第7節エスパニョール戦で本拠地サンティアゴ・ベルナベウでの勝利を取り戻したレアル・マドリーだが、首位バルセロナとの勝ち点差は依然として7ポイントのままだ。リーガエスパニョーラ連覇の道は序盤から険しいものとなっている。
ジネディーヌ・ジダン監督にとって、悩ましいのはシーズンがスタートしたばかりであるにも関わらず、ベストメンバーが組めていないことだ。カリム・ベンゼマ、ガレス・ベイル、クリスティアーノ・ロナウドの「BBC」は、今季リーガで一度も共存していない。
■「BBC」の連携力は高まらず
「BBC」の神話が崩れ始めたのは、昨季の終盤戦である。この3選手は4月23日のリーガ第33節バルセロナ戦以降、一度も組んでいないのだ。
2013年夏以降、ベンゼマ、ベイル、C・ロナウドが共存したのは159試合中74試合だ。全体の46.5%で、5割にも満たない数字だ。これでは看板3トップとしては掲げられない。
過去、序盤の公式戦12試合で、今季ほど結果を残せていないシーズンはなかった。
初めて組んだ2013-14シーズン、彼らはチームの31得点中20得点を記録して、得点率64.5%を占めた。14-15シーズンには、42得点中32得点で76.1%と驚異的な数字を残す。15-16シーズンは、27得点中21得点で、77.7%。全体の得点数も少なかったが、「BBC」への依存度は顕著であった。
だが16-17シーズン、44得点中11得点で32.3%と強力3トップの存在感に陰りが見える。17-18シーズンも同じ線を辿り、28得点中9得点で34.6%。C・ロナウドの出場停止に、ベンゼマとベイルの負傷、「BBC」事体が組めなくなった背景はある。しかし、チームを構成する上でジダン監督が新たな策を練らなければなくなったのは事実だろう(データはスペイン紙『マルカ』より抜粋)。
■4-4-2のトップ下で輝くイスコ
そして現在マドリーには、新たな風が吹いている。その攻撃陣を牽引しているのは、イスコだ。先のエスパニョール戦で2得点を挙げた彼の、2017年に入ってからの成長ぶりは凄まじい。
イスコは2017年に入り、ここまで41試合出場で16得点を記録。2015年(54試合5得点)、2016年(45試合5得点)と比較すると、確実に決定力を上げているのが分かる。彼のキャリアハイはマラガからマドリーへの移籍を果たした2013年で、2クラブで53試合に出場して17得点を記録している。今年はそれを上回る勢いなのだ。
1980年代後半から1990年代前半にゾーンプレスを駆使してイタリアを席巻したアリーゴ・サッキ氏は以前、イスコを「中途半端な選手」だと形容したことがある。サッキ氏に限らず、昨季途中までのイスコに対する評価は曖昧なものだった。スピードに欠け、決定力がない。優れたテクニックでさえ、「装飾過多」であると揶揄された。
そんなイスコに変化が訪れたのは、昨季終盤のリーガ第32節スポルティング・ヒホン戦と第34節デポルティボ戦だ。イスコはこの2試合の活躍で、チャンピオンズリーグ(CL)準決勝・決勝での先発を勝ち取った。そしてCLでは準決勝セカンドレグのアトレティコ・マドリー戦で値千金のゴールを決め、見事マドリーを決勝に導いてみせた。
ジダン監督はイスコの成長を歓迎した。「BBC」主体の4-3-3を取りやめ、イスコをトップ下に組み込んだ4-4-2を採用。中盤を厚くしてポゼッションを高めたマドリーは、欧州屈指の守備を誇るユヴェントスを4-1で退け、前人未到のCL連覇を達成した。
■ペレス会長の見えない圧力
フロレンティーノ・ペレス会長は、2013年夏に1億ユーロ(約130億円)といわれる移籍金でベイルを買い叩いて以降、歴代の指揮官に「BBC」の絶対起用を暗に望んできた。カルロ・アンチェロッティ監督、ラファエル・ベニテス監督は背負わされた「十字架」の重みに耐え切れず、短期でマドリッドを去ることになった。
ジダン監督も例外ではなく、ここまではローテーションを優先しない限り、コンディションが万全であれば「BBC」を積極的に起用してきた。だが、これほどまでに3選手を揃えて場数をこなせなくなると、彼らを土台にしたチーム作りには大きな危険が伴うのもまた事実。その歪が、バルセロナとの勝ち点7差という結果に表れている。
ペレス会長が「BBC外し」を容易に許容するとは考え難い。しかし早めに決断を下して方向性を変えてチームを構成しなければ、シーズン終盤にそのツケは必ず回ってくることになる。