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乾貴士がメキシコに移籍する可能性は限りなく低い?エイバルの補強方針と今夏ここまでの獲得選手

森田泰史スポーツライター
昨季良い連携を見せたルナが去り、左サイドでの乾の責任も増す(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

7月に入り、欧州では移籍市場が本格的に動き出した。だが不測の事態が起きない限り、2017-18シーズン、乾貴士はエイバルでスペイン移籍3年目を迎えるだろう。

■乾がメキシコに?一部メディアで伝えられた移籍の可能性

16-17シーズン、乾はスペインで確かな足跡を残した。現FC東京FW大久保嘉人がマジョルカ時代に記録したリーガエスパニョーラ日本人最多出場記録39試合をシーズン中に塗り替え、その記録を55試合にまで伸ばしている。

同シーズンのリーガで28試合に出場して3得点を挙げた乾に、メキシコのモンテレイが関心を寄せていると一部メディアでは伝えられた。だが日本代表MFを高く評価する「主要人物」が残留することで、乾もエイバルに残ることが濃厚だ。

エイバルは今年4月にホセ・ルイス・メンディリバル監督と1年の契約延長で合意した。17-18シーズン終了まで、メンディリバル監督はエイバルで指揮を執る。また、5月31日に行われた会長選では、昨年5月23日に会長職に就いたアマイア・ゴロスティサ氏が再選を果たしている。

これに伴い、乾をエイバルに連れてきたフラン・ガラガルサSD(スポーツディレクター)の残留も決定的となっている。ガラガルサSDは今年6月にエイバルとの契約が満了。しかしながら「ゴロスティサ会長なら問題ない」と以前話していた通り、今後もエイバルのSDとして働く意欲を示している。

■補強方針を支える2つの柱

ガラガルサSDは、エイバルの“奇跡の昇格劇”を経験している貴重な人材だ。いや、彼の手腕こそがエイバルを栄光に導いたと言ってもいい。ガラガルサ氏がクラブで働き始めた当初、 エイバルはリーガ2部B(実質3部)に属していた。2012年、2部Bを2位で終えた末に激しいプレーオフ戦を制して2部昇格。その勢いを持続させ、2013年には2部で優勝して1部への昇格を果たした。

だがガラガルサSDはトップチームを1部に昇格させる過程で、Bチームの撤廃など断腸の思いでいくつかの決断を下さなければいけなかった。その中で敏腕SDにある信念が生まれる。それは現在も「2つの柱」としてエイバルを支える補強方針となっている。

「働ける選手」

「ハングリー精神のある選手」

エイバルの人口は2万7000人。元々、労働者階級の街である。拠点を置くバスクには、アスレティック・ビルバオ、レアル・ソシエダという二大横綱がいる。若くて優秀な選手を青田買いしようにも、彼らは自ずとそちらに流れて行ってしまう。

だからこそハングリー精神を持ち、働ける選手がエイバルには必要なのだ。16-17シーズン所属選手の獲得した際に必要となった移籍金は合計で840万ユーロ(約10億7500万円)程度だった。

クラブレコードの移籍金は、昨年夏、FWナノ・メサ獲得のためテネリフェに支払った320万ユーロ(約4億1000万円)だ。それでもリーガでトップ10フィニッシュを成し遂げたことは、エイバルにとって小さくない成功である。

加えてエイバルはベテラン選手の“再生工場”としても機能している。ペドロ・レオン、アントニオ・ルナ、アドリアン・ゴンサレスらはヘタフェ、エルチェ、ベローナなど残留争いをするチームで苦しい思いをした後、エイバルで輝きを取り戻した。P・レオンは正確なプレースキックを武器に絶対的なエースとなった。エイバルでの活躍で他クラブの関心を引き付けたルナはレバンテ、アドリアンは父親であるミチェルが監督を務めるマラガに今夏移籍した。

■エイバルの今夏ここまでの選手獲得・放出

エイバルはこの夏センターバック2選手、左サイドバック、サイドアタッカー、トップ下、ストライカー(CF)の補強を検討している。

ガラガルサSDはまず、30万ユーロ(約3800万円)で2部アルコルコンからMFイバン・アレホを獲得。彼が今夏の補強第一号となった。P・レオンとポジションを争うべく、22歳のサイドアタッカーが加わっている。

一方で、移籍市場にはアクシデントも付き物だ。5月の段階で75万ユーロ(9600万円)をバレンシアに支払い、16-17シーズンにレンタル加入していたGKジョエル・ロドリゲスを完全移籍で獲得していたエイバルだが、ジョエルは6月に自主トレーニング中にひざの半月板を損傷し、6カ月の離脱を余儀なくされてしまった。そこで、エイバルは70万ユーロ(8700万円)でアルコルコンからGKマルコ・ディミトロビッチを獲得した。

左SBとトップ下の補強は、前述したルナとアドリアンの移籍によって生じた穴を埋めるためのものだ。左SB獲得は決まっていないものの、トップ下にはCFとしてもプレー可能なチャルレス・ディアスをマラガから獲得目前としている。

CBに関しては、ニューカッスルからの興味が伝えられるDFフロリアン・ルジューヌの退団が近づいている。さらにDFマウロ・ドス・サントスも出場機会を求めて移籍を志願。このポジションでは、先のU-21欧州選手権に出場し、最終ラインからチームを支えたスポルティング・ヒホンDFホルヘ・メレに関心を寄せている。

■乾のライバル到着は...

乾の新たなライバルは到着するのか。

気になるところだ。

アレホ、チャルレスは複数ポジションをこなせる選手で、メンディリバル監督がプレシーズンで左サイドハーフとして試す可能性はある。ただ、彼らが際立ったパフォーマンスを見せない限り、乾が指揮官のファーストチョイスであることに変わりはないだろう。

ほかにもディエゴ・カペル(アンデルレヒト)、ブルギ(レアル・マドリー)、アダマ・トラオレ(ミドルズブラ)ら強力なアタッカーへの関心が伝えられてはいる。だが乾は開幕前にP・レオンとベベが加わった16-17シーズンでも、レギュラーの座を明け渡すことはなかった。

乾のこの2シーズンの活躍はフロックではない。それをよく知るメンディリバル監督とガラガルサSDが、わざわざ左サイドを強化するために攻撃的な選手を加えるとは考え難い。

エイバルは今月12日にプレシーズン入りする。17日に親善試合レアル・ウニオン戦、19日にバラカルド戦を行った後、20 日から31日までオーストリア遠征に向かう。そこで乾が良い仕上がりを見せれば、2年連続開幕スタメンが見えてくるはずだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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