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ジダンが突き付けたデ・ヘア不要論。欧州王者レアル・マドリーが敷く現有戦力維持路線。

森田泰史スポーツライター
ベイルに指示を送るジダン監督。選手からの信頼も厚い(写真:ロイター/アフロ)

ビッグクラブの補強には、常に注目が集まる。だがレアル・マドリーは今年、静かな夏を過ごすことになるかもしれない。

その大きな要因には、チャンピオンズリーグ(CL)連覇、リーガエスパニョーラ制覇の2タイトル獲得がある。奪冠そのものに意味があったわけではない。2冠はとりわけ、ジネディーヌ・ジダン監督に補強に口を出す権利を与えた。

■ペレス会長の補強策と「陰の人事権者」

マドリーにおいて、補強を決定する際に重要な役割を担うのがフロレンティーノ・ぺレス会長だ。第一次政権で銀河系軍団を構成してノベナ(クラブ史上9度目のCL制覇)を果たしたぺレス会長は、第二次政権でもFWクリスティアーノ・ロナウド、カリム・ベンゼマ、ガレス・ベイルらを次々に獲得。この4年で3度欧州の頂点に立ち、改めてその豪腕ぶりを発揮した。

現マドリーで、そのぺレス会長を納得させられる人物。それがジダン監督だ。ジダン監督は昨季のCL制覇と今季の2冠で文字通り「陰の人事権者」となった。指揮官はすでにぺレス会長に一定のリクエストを与えているようだ。

フランス人指揮官はGKケイロール・ナバスとFWアルバロ・モラタの残留を求める一方で、MFハメス・ロドリゲスの退団を容認している。

■デ・ヘアは不要。モラタは残留望まれながら移籍へ

K・ナバスの残留で、影響を受けるのがマンチェスター・ユナイテッドGKダビド・デ・ヘアである。2014年夏、移籍市場最終日にマドリーの一員になる寸前だったデ・ヘアだが、結局スペイン復帰は書類の不備で水泡に帰した。デ・ヘアのマドリー移籍は、今回も保留になる見込みだ。

モラタの場合はK・ナバスとは異なる。選手自身が移籍を希望しているためだ。昨年夏、ユヴェントスからマドリーに念願の復帰を果たしたカンテラーノだが、ベンゼマの壁は厚く、レギュラー奪取には至らなかった。

2番手のCFでありながら、リーガ26試合出場15得点(公式戦42試合19得点)と高い決定力を見せ付けたモラタは引く手数多である。ユナイテッド、ミラン、マルセイユがスペイン代表FWを狙う。

だがぺレス会長はモラタを安価で売却できないだろう。生え抜き選手の安売りを、マドリディスタが許すはずもない。現時点、スペイン史上のストライカー最高額は、FWフェルナンド・トーレス(現アトレティコ・マドリー)の際にチェルシーがリヴァプールに支払った5850万ユーロ。マドリーはこれを上回る額でモラタを売り、自家栽培の銘柄に「史上最高額ストライカー」のラベルを貼ろうとしている。

放出については、ハメスの退団が容認されている。MFカセミロ、トニ・クロース、ルカ・モドリッチが中盤で盤石な布陣を築く中、ハメスは2014年ワールドカップで見せたような輝きを、最後まで放てなかった。行き先はユナイテッドが濃厚だ。マテオ・コバチッチらが控え、アラベスにレンタル放出されていたマルコス・ジョレンテの復帰が決定的となっているマドリーはハメス代役の中盤補強を考えていない。

■レアル・マドリーに訪れる世代交代の流れと若返り

しかし、組織が進化するためには、絶えず不均衡な状態を保つ必要がある。元々実業家であったぺレス会長には、本能的にそれが分かっているのではないだろうか。現有戦力維持路線を貫くジダン監督だが、そこでぺレス会長との齟齬が生まれる。組織内に緊張や危機感を生み出すため、新戦力の到着は必須なのである。

そこで名前が挙がるのが、モナコFWキリアン・ムバッペだ。ぺレス会長は過去3年、将来有望な若手選手獲得に腐心してきた。

2014年夏にハメス(23)、クロース(24)、K・ナバス(27)を引き入れ、翌年冬にMFマルティン・ウーデガルト(16)、ルーカス・シルバ(21)が加入した。2015年夏にはGKキコ・カシージャ(28)、DFヘスス・バジェホ(18)、ダニーロ(23)、MFマルコ・アセンシオ(19)、マテオ・コバチッチ(21)、ルーカス・バスケス(24)を獲得している。なお、年齢はすべて当時のものだ。

この夏には、アトレティコ・マドリーDFテオ・エルナンデス(19)の加入がほぼ確定している。世代交代、継承。未来を見据えて着々と準備を進めているぺレス会長にとって、ムバッペ獲得は絶好の機会だ。欧州中のクラブが触手を伸ばす18歳FWを確保できれば、マドリーのブランド力を誇示することにもつながる。

マドリーはムバッペとの個人合意を今夏のうちに取り付け、来年夏に加入させる思惑だった。だがモラタの退団が現実味を帯びている今、ペレス会長は14歳の頃から追っていたといわれるムバッペ獲得に舵を切るかもしれない。場合によっては激情的な性格を垣間見せるぺレス会長が、一瞬でムバッペの移籍を成立させる可能性は否定できないのである。

ただ、ジダン監督の根本的な考えは来季も変わらない。各ポジションにトップレベルの選手を2名準備する。“Aチーム”と“Bチーム”の論争は来季も続き、マドリーはスペインとヨーロッパで王座防衛を目指す。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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