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「2024年問題」をのり超えろ! 自動運転フォークと自動走行搬送ロボの連携による無人荷役を実装化

森田富士夫物流ジャーナリスト
自動運転フォークと自動走行搬送ロボによる自動荷役(写真:筆者撮影)

 水素を化学反応させて発電し、モーターによって走行する水素大型トラック(FCV)がNEXT Logistics Japan(本社・東京、以下NLJ)の相模原センターに入ってきた。この会社は神奈川県の相模原センターと兵庫県の西宮センター間をダブル連結トラックで、複数の荷物を積合せた混載幹線輸送をしている。ほぼ中間の豊田営業所(愛知県)でドライバーが交代乗務する中継輸送方式を採用し、労働時間の短縮も実現している。

 相模原センターはクロスドック(クロスドッキング)センターとも呼ばれ、多種多様な荷物が集められ、最適な組み合わせで積載効率を高めて幹線輸送をするための拠点になっている。その逆に、幹線輸送されてきた荷物を納品先ごとに仕分けて配送する基点でもある。

 トヨタ自動車と日野自動車が共同開発したFCVの大形トラックは、長さが約12メートルで、車両総重量25トン、最大積載量11トン。関西方面に幹線輸送する荷物を相模原センターに運んできたFCVはアサヒグループとNLJが共同で運行しているもので、5月中旬から走行実証が始まったばかり。FCVの大型トラックを運転してきたドライバーに聞くと「加速などはディーゼルエンジンと変わらず、電動なので静かで振動が少ない」という。

 FCVで運ばれてきた荷物は、積載効率を高めるように他の荷物と最適な組み合わせで合積みされ、西宮センターに向けて幹線輸送される。その幹線輸送をしているのがダブル連結トラックだ。大型トラック2台を連結して全長は約25メートルにもなる。前車(けん引車)には運転席があるが、後車(被けん引車)には運転席がなく荷物を積むだけである。

 つまり大型トラック2台分の荷物を、1人のドライバーで運んでいる。ただ、前述のようにほぼ中間地点でドライバーが交代するので、計算上では2台の大型トラックを2人のドライバーが運んでいるのと同じになる。しかし、1人は中部~関東間、もう1人は中部~関西間の往復運転なので、労働時間は短い。また、1人で関東~関西間を運行するには途中で宿泊しなければならないが、中継輸送なら宿泊する必要がない。それだけ所要時間も短く車両の回転(稼働効率)も良くなる。

 この輸送システムに7月から新たに導入されるのが、センター内の荷役作業の自動化である。この自動荷役は、豊田自動織機の自動運転フォークリフト(AGF)とアイシンの自動走行搬送ロボット(AMR)を連動したシステムで、トラックで運ばれてきた荷物をAGFが自動で荷卸しする。その荷物はAMR上の架台に載せられ、所定の場所に自動で運ばれるという仕組み。逆に、積込みでは、AMRが自動搬送してきた荷物をAGFでトラックに自動で積む。

 NLJでは7月から、このAGFとAMRが連動した自動荷役システムを、まず荷卸し作業から実装化する。その後、来年の2、3月ごろからは積込み作業でも実装化する計画だ。

「2024年問題」など運べなくなるかも知れない危機意識を共有し、物流に関わる社会的課題の解決を目指してスタート

 最近は「2024年問題」がマスコミでも取り上げられ、一般の人たちの関心も高まりつつある。この「物流危機」をのり越えるには、トラックドライバーの労働条件の改善と同時に、センター内の作業者の労働軽減などが必要である。そのためには荷役作業の自動化などを推進しなければならない。

 このような背景の中で2018年に設立されたのがNLJである。同社は現在、荷主企業、物流事業者、トラックメーカー、金融機関など20社が株主になっている。その他、出資を伴わない荷主企業や物流事業者も参加している。

 これまでの取り組みをみると、たとえば安全面では、トラックの安全装置が作動するとメールで事業所に連絡する。さらに専用Webサイトからは安全装置が作動した位置や時間なども確認できる。あるいは緊急時や車両に異常が発生すると、専用Webサイトで車両位置などを確認できるようになっている。

 さらに各種センサーによるトラックの荷室内の見える化を図り、ドライバーの体調管理や睡眠改善プログラムなども取り入れている。荷室内の見える化では、天井のセンサーで、積み荷の容積や床面の積載状況、運行中の荷物の位置移動状況や荷崩れなどをモニタリングしている。走行中の加速や車線変更、ブレーキなどによる荷物のズレや重心移動、荷崩れ状況などの把握を通して安全運転をし、さらに、それらのデータを今後の自動運転の開発などにも役立てよう、というのである。

 輸送の効率化では、積載効率や荷役作業効率を高めるために専用に開発した全長約25メートルのダブル連結トラックのウィング車で幹線輸送をしている。

 さらに輸送効率化を進めて生産性を向上するための諸課題の解決にも取り組んできた。たとえば荷姿がバラバラでは段積みができず、積載効率を向上できない。そこで様々な荷姿の荷物を効率的に組み合わせるタイミングの調整、荷姿がばらつく荷物はボックスパレットやデッキラックを活用して段積みを可能にする。さらにバラの荷物を隙間に積載するなどである。

 これらの方法を組み合わせて、重量荷物を下段に軽量荷物を上段に2段積みにすることを基本に、最適パターンで混載して積載効率の最大化を図っている。

複合積載率(〈重量使用率+容積使用率〉×1/2)を84.4%に向上、定量と定性の両面からの混載自動配車も40秒で可能に

 さらに、積載量を増やすためにダブル連結トラックの後車(被けん引車)を段差のある床にした段付きトレーラも開発した。積載率の向上を図るために重量荷物と軽量荷物を混載しようとしても単純ではない。荷室の有効高さなどの関係から組み合わせが限定的になってしまうからだ。そこで積載量を増やすために開発したのが段付きトレーラである。

 前車(けん引車)と後車(被けん引車)の連結部分の台車とカップリングなどの関係から前車は低床で段積みができるのに、後車は高床で段積みするには制約があった。そこで後車の車両前方の連結部分は庫内の高さが2250ミリメートルだが、それ以外は床を低くして庫内の高さを2735ミリメートルにして積載量を増やしたのである。

 また積載効率の向上には荷姿の標準化が必要だ。NLJではパレットのサイズを3種類に集約し、荷物の高さも3種類ずつ、全部で9パターンで検証した。結果は11万3000の荷物の90%が9パターンに収斂できることが分かった。

 これら9パターンで荷主の業界、業種ごとの最適パターンを検証した結果、複合積載率を最大84.4%まで向上することができた。複合積載率とは、(重量使用率+容積使用率)×1/2で算出した数値である。なお、国土交通省の統計値からNLJが独自に試算した業界平均の複合積載率は約39%という。

 2022年12月からは混載の自動配車・積み付けシステムも導入した。様々な荷物の組み合わせでは、重量ベースや容積ベースによる定量的な組み合わせなら比較的簡単に自動化できる。だが、荷物には「相性」があり重量や容積といった定量的な組み合わせだけでは不十分だ。たとえば匂いや油物、温度管理、袋状かパレットか、段ボールの強度、面が揃っているかどうか、パレットの属性、その他の荷物特性を考慮して混載する荷物を組み合わせなければならない。

 そこで、様々な荷物情報をアルゴリズムを用いて定量的な面と定性的な面を総合して、最適な荷物の組み合わせを自動的に計算するシステムを導入した。エー・スター・クォンタムの量子コンピューティング技術を活用したもので、自動配車×積付けシステム配車×積付けの組み合わせを高速自動計算できるNeLOSS(ネロス)である。昨年12月からネロスを導入した結果、従来は混載荷物の組み合わせなどに約2時間かかっていたが、40秒~1分未満で算出することが可能になった。

7月から荷卸しの自動荷役を実装化し来年2、3月には積込みでも実装化を予定、トラックの自動運転が可能になれば幹線輸送の完全自動化も現実的に

 以上のように幹線輸送の効率化、生産性向上を推進してきた一連の取り組みの中で、7月から実装化するのがAGF(自動運転フォークリフト)とAMR(自立走行搬送ロボット)を連動させたトラックへの自動荷役である。

 この自動荷役システムは2021年度から毎年度、経済産業省の「物流MaaSの実現に向けた研究開発・実証事業」の実施団体として選出され、実証実験および実装化を進めてきたもの。2021年度ではAGFによる荷役から実証実験を始め、2022年度にはAMRを連動した実証実験を行った。その結果、今年7月からは、まず荷卸しで自動荷役を実装化し、来年2、3月からは積込みの自動荷役も実装化する予定だ。荷姿の統一化(標準化)も併せて推進していく。

 荷卸しの自動荷役では、ウィング車の側面からAGFで荷物を卸して架台にのせ、その架台ごとAMRで所定の荷物置場まで自動搬送する。積込みはその逆である。

 これらAGFやAMRは、3Dライダーで自動的に3Dマップを作り、その地図に基づいて動いている。一方、自動荷役作業は、現状では事前のプログラミングに基づいて行う段階だ。当面は事前プログラミングで実装化するが、2024年度ないしは2025年度には荷物位置などもコードを読み込むようにする。また、車両の入場も自動的に認識して、自動的に作業を開始するようにしていく。

 「2024年問題」の克服にはドライバー不足の解消だけでなく、物流センター内の作業人員の確保も重要である。自動荷役はもとより、ダブル連結トラックや隊列走行などでの自動運転が実現すれば、幹線輸送の完全自動化も現実的になり、物流危機をのり越えることが可能になってくる。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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