Yahoo!ニュース

アマゾン配達員が横須賀に続いて長崎でも労組結成 その背景には自営業者の過重労働などがある

森田富士夫物流ジャーナリスト
ネット通販などの宅配ドライバーの笑顔の裏には過重労働の実態が(提供:イメージマート)

 ネット通販はもはや日常生活の一つである。消費者向け国内電子商取引(BtoC-EC)のうち物販系分野では物流(宅配)が不可欠である。経済産業省によると2020年の物販系分野のEC化率は8.08%だ。しかし、同年の世界のEC化率は18.0%とされているので、日本においてもまだまだ市場が拡大するだろう。さらに最近は個人間におけるネット取引(CtoC-EC)も伸びている。CtoC-ECもほとんどが宅配を伴う。

 このように今後も宅配は増加するが、末端の宅配業務の多くを担っているのが貨物軽自動車運送業の自営業者だ。

 貨物軽自動車の自営業者はコロナの流行下で急増した。国土交通省の調べでは2021年3月末の事業者数は19万7788で、2012年3月末と比較すると9年間に4万19の増加である。だが、そのうちの2万929は2020年4月から2021年3月の1年間の参入だ。法人化して複数の軽自動車を保有しているケースもあるため事業者数と車両数は一致しない。そこで車両数を見ると、同じ9年間に7万5877台増加しているが、そのうちの2万5542台は2020年4月から2021年3月の1年間に増えている。コロナの流行下での増加が著しい。

 これはコロナ禍で職を失ったり収入が減少した人などが、1人1台でも届出すれば営業ナンバーが取得できる自営業者になっているからだ。業界関係者によると「とりわけ飲食業などで働いていた人たちが多い」という。

 ネット通販の拡大などによる宅配荷物の増加。それを下請けして末端で運ぶ自営業者も増えている。だが、それに伴い長時間労働や低収入、劣悪な労働条件など様々な問題も発生している。

個建(1個いくら)から1日いくらに契約変更して取扱個数倍増の配達員も多い、誤配のペナルティが1件3万円の誓約書を交わされるケースも

 あるドライバーは「従来は配達個数が1日100から130個だったが、最近は170から200個に増えている。だが収入は同じ」と嘆く。たとえばあるドライバーのケースでは「第1便(朝積込み)が168個、第2便(夕方積込み)が90個」という日があった。

 ネット通販の宅配に限らず宅配便事業者からの仕事でも、下請事業者と契約している自営業者は、以前は個建契約が多かった。だが最近では1日いくらという定額制の契約が増えてきた。これは大手ネット通販会社の影響があるものと思われる。たとえばアマゾンの末端の宅配を請けているある自営業者は「アマゾンフレックスは最初からアプリだったが、元請事業者経由の我々にもアプリが導入された2021年5月からは、1時間に運べる個数や配送コースを自動的に決められて配送個数が増えた」と話す。

 AIで配送の効率化が進んだが、「AIは個々の条件の違いに関係なくコースを組むので、逆に時間がかかることもある」という自営業者もいる。首都圏で配送しているあるドライバーは、「AIは1時間ではムリな個数を持たせることもある。しかも契約している下請事業者からは、荷物が多いことを配達完了ができない理由にするな、と言われる」と話す。またベテランになると、「配送の順序などは必ずしも指定通りではなく経験も加味して配達効率を上げるようにしている」ようだ。

 とはいえアプリの導入で全体的に配達個数が増えたことは事実。さらに置き配の普及によって1日の配達完了個数が増加した。

 このように1日の宅配完了個数が増加するにしたがって、宅配便事業者の末端で宅配業務を請けている自営業者も、個建から1日いくらの定額契約が増えてきた。だが、下請事業者の中には、自営業者に理不尽な契約を強いるケースもみられる。

 これは複数の宅配便事業者と複数の特別積合せ事業者から配送業務を請けている下請事業者の1社だが、下請事業者自身は個建で契約しているのに、個人事業主とは1日1万3000円で契約。したがって1日に配達する荷物を増やせば増やすほど、実入りが良くなるような仕組みにしている例もある。

 それだけではなく、この下請事業者は自営業者から誓約書を取っている。それによると無断欠勤10万円、置き配違約金5万円、さらに誤配は1個3万円の罰金となっている。置き配で盗難などに遭うと、自営業者の責任ではなくてもペナルティが課される。また、1個の誤配で3万円の罰金なので、1日1万3000円の収入の2倍以上も払わされることになる。

 なお、アマゾンフレックスでも今年4月27日から規約が変更された。詳細は省くが簡単に言えば置き配トラブルにおける自営業者の責任が増したのである。

アマゾンの宅配元請事業者やその下請事業者と業務委託契約を結ぶ配達員が、横須賀と長崎で労働組合を結成、関東の複数地域でも労組結成の準備進む

 貨物軽自動車運送の自営業者は全体的に弱い立場に置かれている。そこでアマゾンの宅配をしている配達員たちが横須賀と長崎で労働組合を結成した。

 今年6月には東京ユニオン・アマゾン配達員組合横須賀支部を結成。組合員はアマゾンから宅配業務を請けている元請事業者と契約している自営業者、その下請事業者(2社)と契約している自営業者たち10人である。6月9日にアマゾンをはじめとする4社に対して組合結成の通知と要求書を提出した。同月13日には組合結成の記者会見を開いている。

 さらに9月4日には長崎でも東京ユニオン・アマゾン配達員組合長崎支部を結成し、翌5日に結成会見を開いた。長崎も横須賀と同じ元請事業者だ。しかし、元請事業者と契約している組合員はいない。下請事業者(本社は埼玉県)と契約している自営業者15人で組合を結成した。

 なお、貨物軽自動車運送の自営業者が個人加盟する労働組合には建交労軽貨物ユニオンもある。一方、連合系の東京ユニオンは業種に関係なく個人で加盟できる組合だが、個人加盟でも同じ職場で働いている人たちで支部をつくれる。横須賀支部の場合は、元請事業者と下請事業者2社と契約している自営業者たちだが、同一の倉庫(デポ)から宅配荷物を積み、同じ元請事業者の指揮下で業務を行っている。

 アマゾンは自営業者と直接契約をしていないので交渉には応じないようだ。一方、労組側は雇用契約ではなくてもアプリで管理されている実質的な「労働者」という主張である。

 見解の相違はあるが、横須賀支部が出した通知書と要求書が届くと、出荷デポの倉庫内の労働条件が大きく変わったという。以前は倉庫の管理運営者(元請事業者)が「配達員の名前を呼び捨てにしたり、『ジジイ』などと呼ばれることもあったが、組合が結成されたら普通の言葉使いになった」(東京ユニオン・関口達矢副執行委員長)。また、「1便、2便ともアルバイトなどが仕分作業をするようになったので、配達員が仕分作業をしなくなり休憩時間を確保しやすくなった」(同)という。さらに雨天時の置き配用ビニール袋も、これまでは自営業者の自己負担だったが組合結成後は元請事業者が用意するようになっている。

 横須賀支部では元請事業者と第1回目の話し合いを持った。元請事業者は配達員の労働者性を否定しつつも、荷量増加などに関しての話し合いでは前進が見られたという。だが、「金銭に関してはほとんど白紙回答なので9月30日に第2回目の話し合いを予定している」(関口副執行委員長)。

 なお、9月11日に開いた「配達ドライバーホットライン」には全国から20件の相談が寄せられた。このホットラインは全国ユニオン(東京ユニオンが実務担当)の主催で、連合(フリーランスの課題解決に取り組んでいるWor-Q)が共催し、日本労働弁護団の有志の弁護士の協力で開催したもの。

 関口副執行委員長によると、「自分たちでも労働組合をつくれるか。労働組合をつくるにはどうしたら良いか」といった相談が多かったという。相談者に理由を聞くと「荷物量が多くなっている」、「長時間労働」、「ガソリン代が値上がりして困っている(軽油ではなくガソリン)」といった背景があるようだ。

 実際に東京ユニオンでは現在、「首都圏を中心に関東圏内の複数の地域で組合結成の準備が進んでいる」(関口副執行委員長)という。

個人事業主でも改善基準告示(労働時間等の規制)は適用される、現場の配達員にシワ寄せして成り立っている「利便性」は再考が必要に

 個人事業主なのになぜ? 労働時間が問題になるのか。厚生労働省の労働基準法に基づく労働時間などの規制は、雇用関係にある労働者に適用される。それとは別に、国土交通省の貨物自動車運送事業法や同輸送安全規則などでは、営業用貨物自動車の業務遂行上の安全の担保という面から労働時間などを規制している。

 2018年4月の通達「貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について」では、自営業者でも改善基準告示などが適用されるとしている。また、同年12月に成立した「改正貨物自動車運送事業法」では、荷主の配慮義務が新設され、荷主勧告制度が強化された。元請事業者も荷主と規定され、自営業者への業務委託にも適用される。

 そのためネット通販会社から「配達が完了しない荷物があっても拘束時間の1日13時間以内で仕事を終了するように言われている」という自営業者もいる。

 ネット通販の宅配を請けているある自営業者の場合、午前便は8時着車、8時20分までに出発、午後便は16時着車、16時20分出発、21時帰庫となっている。それより30分ずつ遅いタイムスケジュールの自営業者もいる。この自営業者は「午前便はセンター側が仕分けをしておいてくれるので積み込むだけだが、午後便は自分で仕分けもしなければならないので、着車から出発まで20分では大変」という。先の横須賀支部の場合には、1便、2便ともセンター側で仕分けしてくれるようになったようだ。

 このように建前では、1日の最大拘束時間13時間以内に終了するようになっている。だが、「配達完了個数の少ないドライバーは、契約先の事業者を介して契約を打ち切られる」と話す自営業者もいる。

 一方、労働時間オーバーを隠ぺいするためにダミーコードを使う元請事業者もいるようだ。ダミーのアカウントを使うことで1人の自営業者なのに2人であるかのように装い、労働時間規制をクリアしているように見せる手法である。

 このように末端の宅配業務を担っている自営業者には様々な問題があるが、ネット通販はますます拡大していくだろう。それはネット通販が便利だからである。たとえば買い物に要する時間やコスト(商品を比較して選ぶための時間や店舗までの往復の交通費など)、購入した大きな商品や重い商品を持って帰る労力などが省けるからである。過疎化が進んで地元商店が閉店した地域の人たちにも便利だ。

 したがってネット通販それ自体が悪いのではない。ネット通販に不可欠な宅配を担っている自営業者などの過重労働の実態が問題なのである。自営業者などにシワ寄せして成り立っている利便性から、真に持続可能なラストマイルの在り方に変えていかなければならない。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

森田富士夫の最近の記事