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コロナや災害による物流混乱は一過性 大きな課題は持続可能な物流への構造的転換

森田富士夫物流ジャーナリスト
夕食は何にしようかな(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 コロナ禍で海上コンテナが滞留し輸出入貨物の遅延など国際物流に影響が出ている。日常生活に身近なところでは「マックフライポテト」がある。日本マクドナルドは1月9日から1カ月程度をめどにSサイズのみの販売になると発表した。同社によると北米から輸入しているポテトが、船便の経由地であるカナダ・バンクーバー港近郊の大規模な水害や、コロナ禍による世界的な物流網の混乱の影響もあって輸入に遅延が発生しているためとしている。

 このようにコロナ禍や災害などによって国内外の物流が混乱すると日常生活に影響する。だがこれらの原因は一過性である。それよりも、今後の国内物流に深刻な影響を及ぼす可能性があるのは、国内貨物輸送量の60%以上(重量ベース)を担っている営業用トラックのドライバーの労働条件の改善という構造的な問題だ。

 たとえば北海道の礼文島に本社がある共進運輸では昨年、取引先の香深漁業協同組合に「働き方改革の当社の考えとお願い」という要望書を出した。「日曜日の集荷は休業にしたいという要請だが、そうしなければ従業員の働き方改革を進められない」(岩川浩志社長)という切実な思いからだ。

 一方、礼文町のHPの資料(平成27年人口)を基に算出すると、15歳以上の産業別就業者の約36%が漁業従事者なので、漁業が礼文島の主要産業であることが分かる。漁業は天候に左右されるので日曜日を定休日と決められないため、水揚げした海産物が運べなければ地元経済への影響が大きい。そこで「話し合いの結果、日曜日は午後1時までの集荷にした。だが、働き方改革でもっと問題なのは礼文から稚内へのフェリーの便が17時発で19時着のため、稚内営業所のドライバーがそれから札幌市場まで夜間に運ばなければならないこと」(同)という。

製造→卸へのリードタイムを翌日納品から翌々日納品に、加工食品メーカーや食品問屋は危機感を共有し取り組みを推進

 トラックドライバーの労働時間短縮や労働条件改善の影響が出てくるのは第一次産業だけではない。衣食住の全般にわたるが、とりわけ日々の国民生活に直結するのは食の供給である。そのため加工食品メーカーや食品問屋では持続可能な加工食品物流システムの構築を目指している。

 昨年10月に東京ビッグサイト青海展示棟で「FOOD展2021」が開催された。6つの専門展示会の中の1つ「フードディストリビューション」では、「加工食品流通の納品リードタイム延長問題~メーカー・卸間の取組み~」をテーマにパネルディスカッションを行った。パネリストは味の素・堀尾仁上席理事食品事業本部物流企画部長、キユーピー・前田賢司ロジスティクス本部本部長、三菱食品・小谷光司SCM統括オフィス室長代行、国分首都圏・殿村貴茂執行役員首都圏業務センター部長の4人。日本加工食品卸協会(日食協)・時岡肯平専務理事をコーディネーターに、①納品リードタイム延長問題の背景、②同問題の経緯、③メーカー・卸間の取り組み、④製配販各層に対する提言などを討論した。

 各層への提言(持続可能な物流構築のためのアクションプラン)は、①メーカー=受注締め時間の後ろ倒し(第1ステップを13時とし、15時までの後ろ倒しの追求)、②卸=メーカーへの発注のEDI化や緊急対応時の負荷業務の抑制、需要予測の精度向上と在庫リスクへの柔軟な対応、③小売=特売品や新商品の適正リードタイム化や追加発注の抑制、定番商品の発注締め時間の前倒し、納品期限の統一化(賞味期間180日以上の全商品で、メーカーから卸は賞味期間3分の2残余、メーカーや卸から小売りは賞味期間2分の1残余を業界標準にする)、などである。

 ここからも分かるように加工食品メーカーと食品問屋は問題意識を共有し、物流改善に向けて取り組んでいる。さらに、リードタイム短縮に限らず、その他の課題にも小売業を含むサプライチェーン全体での取り組みが不可欠としている。

 それらの取り組みの1つが、メーカーから問屋への翌日納品を翌々日納品に移行することだ。また、物流共同化とそれに伴う規格の統一化も必要としている。

問題意識の背景にはトラック運送業界の「2024年問題」があり、ドライバーが確保できなければ運べなくなるという危機感が

 トラック運送業界が直面している大きな課題の1つに「2024年問題」がある。働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制が一般則では年720時間になった。すでに大企業では2019年4月から、中小企業でも20年4月から適用になっている。だが、自動車運転業務では2024年3月末までの猶予期間が設けられ、同年4月からの適用となる。しかも時間外労働時間の上限が年960時間と、一般則よりも年間240時間も長い。それにも拘わらず大きな課題になっているのは、現在の国内物流の多くがトラックドライバーの長時間労働を前提に成り立っているからだ(すでに960時間以下の事業者もいる)。

 この「2024年問題」をクリアするには、労働条件や労働環境を改善して労働時間を短縮しても同じ仕事ができるように生産性を向上する。さらに生産性向上だけでは追い付かない部分は、ドライバー数を増やしてカバーしなければならない。

 だが、生産年齢人口の減少などもあり、ドライバー志望者を増やすのは容易ではない。そこで現在の商取引慣習や物流システムのままでは「運べなくなってしまう。お客様に商品をお届けできなくなる日は目前に迫っている」(味の素・堀尾仁物流企画部長)という危機意識を加工食品業界では持っているのだ。

当たり前の日常生活を維持するために、持続可能な加工食品の物流システムを構築するには消費者の理解と協力が不可欠

 ある業界関係者は「嫌われる加工食品物流」という。その理由は、長時間待機、付帯作業、夜間作業、短いリードタイム、多頻度検品、非効率で不合理な商慣習、小ロット多品種多頻度納品などがドライバーに過重な負担を強いているからだ。

 このような問題を解決するために加工食品メーカーや食品問屋では様々な取り組みをしてきた。2015年からは味の素、カゴメ、ハウス食品グループ本社、日清オイリオグループ、日清フーズ、ミツカンの6社でプロジェクトを立ち上げ、16年から北海道で、19年からは九州でも共同配送をスタートした。伝票の統一、庭先条件の統一、標準化KPI(重要業績評価指標)、さらに共同幹線輸送も行っている。2016年にはキユーピーとキッコーマン食品が加わり、8社でSBM会議(食品物流未来推進会議)を発足。外箱表示統一化、賞味期限年月表示化と2分の1ルール、フォークリフト作業の安全確保、リードタイム延長、付帯作業や長時間待機解消などのテーマに取り組んできた。さらに2018年にはサプライチェーン全体での解決に向けて製配販の民間各社に経産省、国交省、農水省その他の関係者も参加して持続可能な加工食品物流検討会も立ち上げた。

 持続可能な加工食品物流システム構築の前提になるのが標準化だ(納品伝票電子化、外装サイズ、外装表示、コード体系など)。また、現場レベルでは納品リードタイムの延長、長時間待機や付帯作業をなくす、ASN(出荷側「事前出荷情報」、荷受け側「入庫予定データ」)やノー検品、納品期限の緩和などがある。

 このように円滑に消費者に加工食品を届けるには、持続可能な加工食品物流システムの構築が急務になっている。だが、リードタイムの延長や賞味期間などについては消費者の理解と協力が不可欠だ。加工食品を安定的に供給できるような、持続可能な物流システム構築のカギは消費者が握っているともいえる。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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