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年末にかけてネット通販購入品など宅配荷物が増加  「置き配」利用で盗難に遭わないためには

森田富士夫物流ジャーナリスト
置き配(写真:アフロ)

 ネット通販市場の拡大に伴ってトラブルも増加している。トラブルは様々で、代金を支払ったのに商品が送られてこない、実際に送られてきたのは粗悪な商品だった、クーリングオフ関連、返品送料負担のトラブル、販売会社と連絡が取れない、宅配に関する苦情、ニセの不在メールに関連した詐欺、その他である。

 このうち物流に関わる宅配関連の問題、とりわけ「置き配」と盗難のリスクについて見ることにしよう。

 これから年末にかけては宅配荷物が増加する。国土交通省の「トラック輸送情報」の2019年度の宅配便取扱個数(調査対象14社)を月別に比較してみると、12月が一番多く年間取扱個数の10.8%を占める。次は7月で9.3%となっている。これは中元、歳暮の時期に宅配荷物が増加することを表している。

 反対に取扱個数が最も少ないのが2月で、年間取扱個数の7.4%に過ぎない。同年度内のボトム(2月)とピーク(12月)の取扱個数を比較すると、その差は約46%もある。

 これは宅配便事業者の実績から傾向を見たものである。その他にもネット通販会社が宅配便事業者以外の運送事業者に委託して配達している荷物もある。だが、年末の12月に宅配荷物が増加するという傾向に変わりはない。

ネット通販会社は「置き配」普及を急ぐが、利用者は盗難等のリスクが伴うことを理解して

 年末の繁忙期を前に、埼玉県消費生活支援センターではホームページで「宅配荷物の『置き配』は利用前に良く確認しましょう」と利用者に注意を喚起した(11月25日UP)。

 玄関先や指定した場所に荷物を置いて配達を完了する「置き配」は、不在時はもちろん、在宅時でも非対面で荷物を受け取ることができるので便利だ。とくに現在は、新型コロナウイルス感染予防の面からも有効だ。一方、宅配会社や配達員からすると再配達が減少して配送効率が良くなる。たとえば東京近郊を担当エリアにしている宅配事業者は、「置き配」の普及で「再配達率が3%台まで下がった配送コースもある」という。これはネット通販会社にとっても配送コストの低減になる。

 このように「置き配」は一見、売り手、買い手、宅配会社(配達員)の「三方良し」だが、必ずしもそうではない。埼玉県消費生活支援センターが注意喚起しているように「置き配」に関するトラブルはけっこう多いのだ。ついでながら「置き配」で再配達率が低くなると、末端の配送事業者や配達員にとって良いかというと、それほど単純ではない。配送効率の向上を理由に配送単価を下げられるからだ(今年だけでも春と秋の2回下げられたという証言もある)。

 また、利用者にとっても「置き配」に問題なしとはいえない。(1)ネット通販会社によっては「置き配」が初期設定されているため、手渡しでの受け取りを希望する利用者は注文時に自分で設定を変えなければならない。また「置き配」希望者でも、(2)配達完了メールが届いたが、利用者が想定していた場所と違ったので荷物が見つからなかった、(3)配達完了メールが届いたが荷物をおいた写真が添付されておらず荷物が無かった、(4)配達完了メールに荷物をおいた写真が添付されていたが荷物が無かった、その他のトラブルがある。

 このうち(3)と(4)は盗難などの可能性が否定できない。荷物が無かったといったクレーム等がネット上にはたくさん溢れている。そして、配送状況がお届け済みになっていても商品が届いていない場合には、詳細を確認の上で再送や返金に応じているネット通販会社もある。だが、「置き配」に関するトラブルを、社会的な問題として取り上げるマスコミは少ない。それはなぜか。

 ネット通販会社独自の宅配網の末端で、社員ドライバーや自営業者に委託して宅配業務を行っているある事業者は、盗難等があまり社会問題化しない理由について、「ネット通販会社が『置き配』の普及を最優先しているから、『置き配』の普及に不利な情報が表に出ないようにクレーム処理しているのだろう」と分析している。

 昨年3月のことだ。ネット通販会社の宅配を下請けしている事業者と契約している配送員が、配達すべき商品を横領して内部で問題になっている、という話がもたらされた。情報提供者を訪ねて話を聞いた結果、ほぼ事実に間違いないだろうと確信した。だが、確たる裏付けが取れなかったのでそのままにしてしまった。

 ただ、その後に「(特定の人たちを指す言葉)は配達員として使わないように…」という主旨の内部通達が突然でたと証言する事業者がいる。そこで荷物横領の話を耳にしたというと、その配送事業者は「それで通達の背景が理解できた」と得心していた。

対面受け取り、ピックアップポイント指定、宅配ボックス、「置き配」などの使い分けが必要

 約1年前の昨年11月にナスタが「『置き配』便利9割、受け取り場所で不安に差~不安解消、安心安全な受取の提供が『置き配』に不可欠~」という調査結果をリリースした。これは昨年10月26、27の両日、宅配ボックス利用者300人、宅配ボックス以外の「置き配」利用者300人を対象にインターネットリサーチした集計結果である(同調査では宅配ボックスも「置き配」の1種としているようだ)。

 同調査によると「置き配サービスは便利」という回答が92.4%(n=600)だった。だが、「荷物を受け取る際に不安に思うこと」では、宅配ボックス利用者(n=300)は31.0%だったのに対して、宅配ボックス非利用者(n=300)では45.7%と約15ポイントの差がある。さらにどのような不安かでは、「届いた荷物が盗まれないか」が宅配ボックス利用者(同)は26.7%だが、宅配ボックス非利用者(同)では50.0%と半数に上った。「置き配」サービスの不安解消に必要なことでは、「届いた荷物が簡単に盗まれないこと」27.2%(n=600)と最も多くなっている。今後どうすれば良いかでは、「宅配ボックスの普及」49.7%(n=600、複数回答)という結果だ。

 ナスタの調査では宅配ボックスも「置き配」としているが、以下では「宅配ボックス」と「置き配」は別の受け取り手段とする。同調査でも明らかなように、宅配ボックスは「置き配」よりも盗難などのリスクが低いと考えて良いだろう。

 では、「置き配」はなぜ盗難に遭う可能性が高いのか。「置き配」での盗難には配達員の横領と、第三者による窃盗の2つが考えられる。だが、いずれのケースでも盗難に遭う利用者には共通点があると指摘する業界関係者がいる。

 ネット通販会社や宅配便会社の宅配業務を受託して、軽トラックで手広く事業を行っているある事業者は、「『置き配』でも玄関に防犯カメラが設置されている配送先なら被害はほとんどない。『置き配』で盗難の被害に遭っているのは防犯カメラが設置されていない配送先のようだ」という。

 そこで宅配荷物をどのように受け取れば良いのかを整理してみよう。

 (1)対面受け取り=高価な商品などは手渡しで受け取るのが一番安心=配達時間帯を指定しても、その時間帯は待機している必要があるので「時間的コスト」がかかる。

 (2)ピックアップポイント指定=コンビニや鉄道駅その他、宅配荷物を受け取れる場所が増えているのでこれも安心=最寄りのピックアップポイントでも受け取った荷物を自宅まで持ち帰らなければならないので「労力的コスト」がかかる。

 (3)宅配ボックス=ロックされているので盗難などのリスクは低い=宅配ボックスが設置されているマンションなどなら良いが、戸建て住宅などでは宅配ボックスを自分で設置しなければならない。様々な宅配ボックスが販売されているので簡易で廉価なものもあるが、宅配ボックスを設置(購入)するという「金銭的コスト」がかかる。

 (4)「置き配」=「置き配」の利用は簡単だが盗難などのリスクが避けられない=リスク軽減には防犯カメラ設置など「金銭的コスト」がかかる。

 このように安全で確実に宅配荷物を受け取るには様々なコストがかかる。だが、ネット通販であれリアル店舗であれ、買い物には「購買コスト」がかかっているという考え方がある。商品自体の購入価格は当然だが、それ以外にリアル店舗では、(1)欲しいものを売っている店まで行くために時間と交通費がかかる、(2)いくつかの店を見て回って商品を選ぶには時間がかかる(ネットのように多種類を一度に見ることができないし、同じ商品でも1店舗だけでは価格を比較できないため)、(3)購入した商品を持って帰るには労力を要する(とくに重いものや大きなものなど)。一方、ネット通販では運賃がかかっている(「送料無料」=商品価格に運賃が含まれている)。

 これらの様々な購買コストは、リアル店舗とネット通販を比較すると、ネット通販での買い物の方が少ない。それもネット通販の利便性の一つである。だが、ネット通販でも購買コストをゼロにすることはできない。そこで盗難防止のコストも含めて、自分に一番良いと思われる宅配荷物の受け取り方法を選択することになる。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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