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世界の干ばつが蘇らせた、あんなものこんなもの

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
干上がったスペインの貯水池から出てきた教会 (今年8月)(写真:ロイター/アフロ)

その昔、イギリス人考古学者のジェフリー・ビブリーは言いました。

すべての考古学者は、自分がなぜ掘るのかを知っている。死者が蘇るように、過去が永遠に失われないように、時代の難破から何かが救われるように、哀れみと謙虚さを持って掘るのであるーー。

しかし今夏は、掘らなくてもいいようです。世界各地で記録的な干ばつが起きて、湖や川の水位が下がったために、これまでずっと水中に身を潜めていた遺跡や戦時品が自ら姿を現しているからです。

では、どのようなものが顔を出したのか見てみましょう。

姿を現した、あんなものこんなもの

【チェコ】

ヨーロッパ中部のチェコでは、絶望の淵に突き落とすような恐ろしい石が現れました。北部を流れるエルベ川の川底から、「私を見たら泣きなさい」と刻まれた丸石が出てきたのです。「ハンガー・ストーン」と呼ばれるこの石は、どうやら1616年に作られたもののようです。この石が出てくると大凶作や食糧不足、物価上昇が起こるよと、昔の人たちが後世に警告するために刻んだのです。

【セルビア】 

およそ100年間でもっとも水位が低くなったドナウ川では、爆発物や弾薬をどっさり積んだ、ものものしい軍艦の一団が現れました。その数たるや20隻。ナチス・ドイツの黒海艦隊で、これらをすべて撤去するには、40億円の費用が発生するそうです。

【イタリア】

70年来の大干ばつに見舞われている北イタリアでは、国の最大河川であるポー川の水位が過去最低を記録しています。川底からは、第二次大戦中に使われた、長さ50メートルの荷船と、重さ450キロ不発弾が見つかりました。

さらにイタリアで3番目に長いテヴェレ川も史上最低水位まで下がり、古代ローマ時代の集落跡と橋の一部も出現しています。

【スペイン】

貯水率が3割をきったスペインの貯水池からは、「スペインのストーンヘンジ」とも呼ばれる巨石群が姿を現しました。紀元前5000年頃に造られたものとみられますが、1963年のダムの建設で水没して以来、これまで4回しか姿を現したことはなかったようです。考古学者は絶好のチャンスとばかりに、大急ぎで調査を進めています。

今年の欧州の干ばつは、過去500年で最悪と言われているほどです。

【中国】

このほか、アジアの最大河川、中国の長江は、この時期としては150年ぶりの低水位を記録し、川幅は例年の3分の1に縮小しています。見る影もない長江から出てきたものは、600年前に作られたとされる3体の仏像でした。

また同じ驚きでも、背筋が凍るレベルなのがアメリカで、次々と人間の遺体が見つかっています。カジノの町ラスベガス近くにあるネバダ州のミード湖の水位は観測史上最低を記録し、干上がった湖底からは、マフィアに殺害されたと疑われる白骨化した遺体が見つかるなど、きな臭い話が漂っています。

今年の夏は、何も自分で掘らなくても次々と何かが顔を出すので、考古学者や警察は大忙しです。

"静かなる殺戮者"

干ばつは「静かなる殺戮者」の別名を持ち、もっとも多くの死者数を出す気象災害です。

いまスウェーデンでは世界水週間会議が開催され、水に関する意見交換が行われています。今年のお題は「見えないものを見る: 水の価値」。あるのが当然と思われがちな水ですが、そのありがたさをまじまじと感じる今年の夏です。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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