Yahoo!ニュース

海氷消える北極海「観測史上2番目に強い」低気圧が出現

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
北極海の一部、ボーフォート海の衛星画像 (28日、NASA出典)

『シベリアで38.0℃観測』と騒がれたのが今年6月のこと。この北極圏史上最高気温となるかもしれない記録が出た後も、高温記録が次々と塗り替えられています。

今月25日(土)にはノルウェーのスバルバード諸島で21.7℃となり、欧州の北極圏における最高気温となった他、同日カナダのヌナブー州で21.9℃と、北緯80度以北における最高気温が観測されています。

記録的に少ない海氷

当然のことながら海水も温まっていて、現在、北極海の海面水温は、この時期の平均を5℃以上も上回っています。

このため海氷の融解が進んで、その面積は1979年の衛星による観測が始まって以来の最小記録となっています。

どれほど少ないのでしょうか。

国立雪氷データセンターによると、15日(水)の北極海の海氷面積は751万平方キロであったようです。これは、これまでの日最小記録が観測された2011年7月15日よりも、33万平方キロも少ない面積なのだそうです。

さらに20日(月)には、北極海のロシア沿いの海氷が完全に消えたと伝えられています。

(↑白い部分が7月15日の海氷部分、黄色い線はこの時期の平均)

(↑年ごとの海氷面積の日推移)

史上2番目に強い「北極低気圧」

こうした記録的高温に加え、北極海の氷の融解をさらに加速しかねない、ある顕著な現象が起きています。

タイトルの写真は28日(火)の北極海の衛星画像です。巨大な雲が渦を巻いているのが見えます。これは「北極低気圧」と呼ばれるものです。

元々この低気圧はシベリア上空にありましたが、北東進して北極海に到達し、急速に発達しました。Severe Weather Europeの記事によると、この低気圧の中心気圧は一時968hPaまで下がったとのことです。

これは2012年に観測された966hPaに続き、北極低気圧の観測史上2番目に低い気圧のようです。

この猛烈な低気圧が高波や強風を発生させることによって、北極海の海氷をさらに解かす可能性が出ています。

あと80年でシロクマ絶滅の危機

この海氷の減少がシロクマを絶滅させる可能性があることが、先日発表された論文で明らかになりました。悲しいことに、それは遠い未来の話ではないようです。

もし今のペースで気温上昇が続いた場合、そのXデーが2100年までに来るかもしれないとピーター・モルナー博士らは考えています。

氷の融解によって、シロクマが餌のアザラシを氷上で捕獲する時間が短くなって「断食」の期間が増える。そして栄養不足となって北極の厳しい寒さを乗り越えられなくなり、絶滅にいたる可能性があるというのです。

シロクマは一日で12,000カロリーものエネルギーを必要とするそうです。しかし餌が十分に食べられず、下の動画のように痩せ細って、命を落としていく例が少なくないようなのです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

森さやかの最近の記事