Yahoo!ニュース

選抜大会に出場する珍しい名字の選手達「西日本」編 珍しい「賀陽」と意外と多い「冷水」「空」

森岡浩姓氏研究家
阪神甲子園球場(写真:アフロ)

選抜大会に出場する選手の名字、続いて西日本編。

東日本編同様、選手名簿はサンデー毎日増刊号の公式ガイドブック「センバツ2024」を使用し、漢字の新旧字体は同じとみなした上で、読みによってランク付けしてある。

西日本各校の選手たちの名字

西日本の選手で最も珍しいのは、敦賀気比高の徳次(とくつぎ)選手と、報徳学園高の繰野(くりの)の2人。

この2人の名字は極めて珍しく、東日本を含めても双璧といえる。徳次選手は京都市、繰野選手は大阪府吹田市の出身で、いずれもその親族くらいしかいないと思われる。

続いて、阿南光高の加治本(かじもと)選手、敦賀気比高の余保(よほ)選手、神村学園高の入来田(いりきだ)選手、創志学園高の賀陽(かよう)選手の名字が珍しい。

報徳学園高のWエースの一人今朝丸(けさまる)投手は、と思う人も多いだろう。確かにかなり珍しいのだが、今年は極めて珍しい名字の選手が多く、ここまでには入らない。

「かや」と「かよう」

「賀陽」というと、旧皇族の名家を思い浮かべる人もいるかもしれない。

明治25年(1892)久邇宮朝彦親王の二男邦憲王が賀陽宮の称号を賜り、33年には独立して賀陽宮家を興した。その長男恒憲王は陸軍中将となり、戦後は臣籍に降下して賀陽家を創設している。外交官として活躍した賀陽治憲はその二男。

ただし、この家は「かや」である。

では「かよう」と読む「賀陽」のルーツは何かというと、岡山県にいた古代氏族賀陽氏の末裔である。この氏族も本来は「かや」だったのだが、中世以降は「かよう」にあらためた。「賀陽(かよう)」は今でも岡山県に多く、賀陽選手も岡山市の出身。

意外と多い「冷水」と「空」

珍しそうで意外といるのが、耐久高の冷水(しみず)選手と、広陵高の空(そら)選手。

耐久高を初めて甲子園に導いたエース冷水投手の「冷水」という名字は、和歌山県、鹿児島県、青森県の3か所にあるが、鹿児島県と青森県では「ひやみず」と読む。

和歌山県では「しみず」と「ひやみず」にわかれ、「しみず」の方が多い。そして「しみず」は海南市と和歌山市に集中している。

ルーツは海南市の冷水(しみず)という地名で、ここには紀勢本線の冷水浦駅もある。面白いのは、海南市には「冷水(しみず)」の他に「ひや水」という地名も別にあることだ。

全国を合計すると「ひやみず」の方が多いが、「しみず」も1万位を少し下回るあたりで、それほど珍しいわけでもない。

一方、「空」という名字は名字ランキングでは5000位台で、どちらかというと「普通の名字」に近い。

「空」というのは広島県で「高い場所」を指す言葉。山の上など、標高の高い場所に住んだ人が名乗ったもので、江田島市と呉市に集中している。

この地域には他にも「空井」「空久保」「空河内(そらごうち)」「空田」「空本」など、「空」のつく名字が多い。

姓氏研究家

1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」「日本名門・名家大辞典」「47都道府県・名字百科」など多数。2017年から5年間NHK「日本人のおなまえ」にレギュラー出演。

森岡浩の最近の記事