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ドラフト1巡目で指名された2人の西舘選手のルーツ

森岡浩姓氏研究家
写真はイメージ(写真:アフロ)

10月26日にプロ野球のドラフト会議が開催され、本指名72人、育成指名50人の計122人が指名された。

これらの選手の実力や、ドラフト指名としての成功不成功についてはそれぞれの専門家が論考しているので、ここでは1巡目で指名された選手の名字に注目してみたい。

なお、本稿では新旧字体のみの違いは同じ名字とする一方、読み方が違う場合は清濁の違いを除いて別名字としている。

2人の「西舘」選手

名字の観点から見た今年のドラフトの最大の特徴は、ドラフト1巡目に「西舘」選手が2人もいることである。しかも兄弟でも親戚でもなく、同郷ですらない。「西舘」という名字は5000位前後なので、とくに珍しいというわけではないが、これまでプロ野球には1人もいなかった。

そもそも、1巡目指名に同じ名字の選手がいることすら珍しいのに、「西舘」というプロ初の名字の選手が2人いるというのはかなりとんでもない確率だろう。

「西舘」のルーツ

「西舘」のルーツは文字通り「西」の「舘」。「舘」は「たち」「たて」といい、城のこと。ただし、天守閣のあるような立派なものではなく、中世の武士がよりどころにした、屋敷に防御設備を備えた程度のものを指す。関西では「たち」ということが多く、東北では「たて」ということが多い。

各地に多くの武士が割拠していた戦国時代には、こうした「たち」や「たて」はたくさんあり、それらに因む「たち」「たて」のつく名字も多い。

「西舘」という名字は岩手県と青森県に多く、東北なので「にしだて」と読む。岩手県では一戸町、青森県ではおいらせ町に集中している。

巨人が1巡目で指名した中央大学の西舘勇陽選手は花巻東高の出で、出身地は「西舘」の集中している岩手県一戸町。一方ヤクルトが1巡目で指名した専修大学の西舘昂汰選手は筑陽学園高の出で、福岡県筑紫野市の出身である。

「西舘」は西日本ではほぼ見られない名字で、西舘昂汰選手のルーツも東北にあるのではないだろうか。

1巡目指名選手の名字

今年の1巡目指名選手の名字で最も珍しいのは、広島が指名した常広羽也斗選手(青山学院大)の「常広」(常廣含む)。筆者は全国ランキング1万位以下を珍しい名字と考えており、「常広・常廣」は珍しい名字にあたる。西日本各地に点々と分布しており、常広選手は大分県の出身。

12人中、1万位以下の珍しい名字はこの「常広」だけで、珍しそうに感じる「草加」「度会」「古謝」はいずれも1万位以内。

中日1巡目指名の草加勝選手(亜細亜大)の「草加(くさか)」は岡山県独特の名字で、備前市と和気町に集中しており、草加勝選手も和気町の出身。

DeNA1巡目指名の度会隆輝選手(ENEOS)の「度会(わたらい)」はギリギリ1万位以内。三重県の伊勢神宮のある地域は古代から伊勢国度会郡として栄え、伊勢神宮外宮(豊受大神宮)の神官は代々度会家がつとめていた。現在は岐阜県に多い。

楽天1巡目指名の古謝樹選手(桐蔭横浜大)の「古謝(こじゃ)」は読めない人も多いと思うが、沖縄では比較的よくある名字。従って全国ランキングも5000位以内で普通の名字の範疇に入る。

姓氏研究家

1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」「日本名門・名家大辞典」「47都道府県・名字百科」など多数。2017年から5年間NHK「日本人のおなまえ」にレギュラー出演。

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