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羽生結弦選手は「はにゅう」で羽生善治九段は「はぶ」 なぜ読み方が違うのか、ルーツと分布を探る

森岡浩姓氏研究家
「いらすとや」の素材を利用して作成

フィギュアスケートの羽生結弦選手が北京五輪で3回目の代表となり、94年ぶりの五輪3連覇を目指している。この羽生選手の名字の読み方は「はにゅう」である。

一方、将棋の世界には天才といわれる羽生善治九段がいる。こちらは「はぶ」と読む。

同じ漢字で違う読み方をするというのは珍しいことではないが、同時期に活躍する2人の天才が、それほどメジャーな名字ではないにもかかわらず読み方が違うというのは珍しい。この「羽生」という名字はどういうルーツの名字なのだろうか。

羽生の由来

古代、陶器の材料となる粘り気のある粘土質の赤土のことを「はに」といった。この「はに」で作ったのが古墳の副葬品である埴輪(はにわ)である。そして、「はに」には「埴」という漢字をあて、「はに」のとれる場所を「はにふ(埴生)」と呼んだ。

この「埴生」は次第にいろいろな形に変化する。読み方は「はにふ」から「はにう」「はにゅう」となり、漢字は「埴生」から「羽生」に変化して「はぶ」とも読まれるようになったのだ。

つまり、「羽生(はにゅう)」も「羽生(はぶ)」もルーツは同じで、その長い歴史の中で読み方が変化したものである。

「羽生」という歴史地名は、宮城県、茨城県、埼玉県、福井県、岐阜県、福岡県などにあり、福岡県が「はぶ」で、残りはすべて「はにゅう」と読む。この他、新潟県や富山県、岐阜県、愛媛県には「埴生」、兵庫県に「羽入」、鳥取県に「半生」という地名もあり、いずれも「はにゅう」と読むなど、「はにゅう」が一般的で、それにいろいろな漢字をあてたことがうかがえる。

因みに、福岡県中間市にあった羽生(はぶ)という地名は、古くは「埴生」と書き、「羽生」となって、現在ではさらに「垣生」に変化している。また、佐賀県には「土生ヶ里(はぶがり)」という地名もあるなど、九州では主に「はぶ」といったらしい。

名字としての羽生

名字の「羽生」の分布を調べると、茨城県が最も多く、次いで宮城県と鹿児島県に集中している。茨城県と宮城県はほぼ「はにゅう」と読み、それぞれ同県の地名がルーツだろう。羽生結弦選手は宮城県仙台市の出身。

一方、鹿児島県の「羽生」は「はぶ」で、屋久島と種子島に集中している。江戸時代、種子島の島主種子島家の重臣に羽生(はぶ)家があった。羽生善治九段の祖父は種子島の出身で、この一族とみられる。

なお、現在では「羽生」の約4分の3が「はにゅう」と読み、「はぶ」は4分の1ほどである。

姓氏研究家

1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」「日本名門・名家大辞典」「47都道府県・名字百科」など多数。2017年から5年間NHK「日本人のおなまえ」にレギュラー出演。

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