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少子化対策の財源、社会保険料か税か(第2回)

森信茂樹東京財団政策研究所研究主幹 
(写真:イメージマート)

前回は、社会保険料と消費税の比較をした。負担の問題を考えるに当たっては、財源という面だけでなく、あわせて所得再分配機能を考慮する必要がある。

つまり、負担を求める際に、高所得者や資産を多く持つ者からの負担をより多く求めることができれば、少子化対策に加えて格差是正もできるので、いわば「一石二鳥」と言える。社会保険料にはこの機能は原則ない。税制、それも所得税の最大機能・長所である。

ではどのような所得税での対応が必要となるのか。わが国の税収に占める所得税の割合は、先進諸国で最も低い水準にあるので、各種所得控除や税率を見直し課税ベースを広げることには十分な理由があり、それが税収確保や格差是正につながっていく。

第一は、配当や株式・土地譲渡益などの資本所得課税(金融所得はその一部)の強化である。資本所得課税については、累進構造の勤労所得と異なり、20%(国・地方)の分離課税となっている。そこで、所得一億円を超えると、資本所得の比率が大きくなり、所得税負担率(実効税率)が低下する「一億円の壁」という問題が生じている。このことが、累進機能を弱めていると以前から批判されており、岸田首相も当初は見直しに前向きであった。

しかし見直しに言及したとたん、株式相場に負の影響を与え「岸田ショック」と称されたことから、見直しに消極的姿勢に転じた。

昨年末に行われた令和5年度税制改革では、合計所得が30億円を超える超富裕層(200-300人程度)について最低限の負担を求める手直しが行われたが、根本的な改革には手が付けられなかった。

筆者は、申告所得1億円を超える者について、税率を10%-20%程度引き上げることが必要と考えている。

この見直しによって得られる税収はせいぜい2000億円程度なので、株式相場に与える影響は限定的だ。今後NISAの大幅な拡充が予定されており、その恩恵が高所得者に偏ることを勘案すると、資本所得税制の見直しは必要だ。

この見直しは、資産を多く所有する者への負担増ということにもつながる。

次は年金税制の見直しである。わが国の年金税制は、積立時は社会保険料控除で非課税、給付時は課税だが高水準の公的年金等控除の結果、大部分は非課税となっている。

他の先進国では、積立時か給付時のどちらかに課税がなされており、わが国の世界に類を見ない甘い年金税制は見直す合理的な理由がある。公的年金等控除による減収額は1.8兆円にも上っている。

年金税制の具体的な見直しのポイントは、以下の2点だ。

第1に、年金受給者でありながら給与所得を得る者(いわば高所得年金受給者)は、公的年金等控除と給与所得控除の2つを受ける二重控除となっているので手直しが必要だ。 

第2に、公的年金等控除の対象となる年金範囲の見直しだ。公的年金等控除は、公的年金(国民年金・厚生年金)だけでなく、企業年金にも適用されるが、企業年金をもらうのは「高所得年金受給者」と考えられるので、企業年金については控除の対象から外してはどうか。

そのほかにも、勤続年数に応じて控除額が増加し、20年を超えると急拡大する現行の退職金課税は、働き方改革から見ても縮小・廃止する理由がある。

このように、少子化対策の財源探しは、その経済社会への影響も勘案しつつ、消費税や所得税を組み合わせていくことが望ましい。

国民に受け入れられやすいから社会保険料負担というのは、理由としてあまりにも志が低い。さまざまな選択肢についてのメリット・デメリットを比較し、かつて小泉内閣や福田内閣時に行ったミクロの負担、選択肢を国民に提示することが必要だ。

次回は、消費増税について、引き上げの方法(例えば毎年0.5%づつ引上げる方法)、その効果などについて考えてみたい。

東京財団政策研究所研究主幹 

1950年生まれ。法学博士。1973年京都大学卒業後大蔵省入省。主に税制分野を経験。その間ソ連、米国、英国に勤務。大阪大学、東京大学、プリンストン大学で教鞭をとり、財務総合政策研究所長を経て退官。東京財団政策研究所で「税・社会保障調査会」を主宰。(https://www.tkfd.or.jp/search/?freeword=%E4%BA%A4%E5%B7%AE%E7%82%B9)。(一社)ジャパン・タックス・インスティチュートを運営。著書『日本の税制 どこが問題か』(岩波書店)、『税で日本はよみがえる』(日経新聞出版)、『デジタル経済と税』(同)。デジタル庁、経産省等の有識者会議に参加

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