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少子化対策の財源、社会保険料か税か(第1回)

森信茂樹東京財団政策研究所研究主幹 
(提供:イメージマート)

政府は3月31日、少子化対策のたたき台を公表し、今後3年間を「集中取り組み期間」として、児童手当の所得制限撤廃をはじめとする広範な対策を示した。一方それを裏付ける財源については、新たに設置した「こども未来戦略会議」で検討し、6月の骨太方針でその大枠を示す意向である。

今回のたたき台を見ると、必要な恒久財源は数兆円規模になるとも言われており、今後大きな議論になると予想される。

ではどのような財源が考えられるのだろうか。

自民党や政府部内では、社会保険で対応するという考え方が議論されている。医療・介護・年金・雇用の4保険料に上乗せして「子育て支援連帯基金」を創設する慶応大学権丈教授のアイデアなどが議論されている。社会保険料は、給付(受益)と負担の関係が明確なので、国民から負担増が受け入れられやすいことがその理由だ。

これから生まれてくる世代を歓迎する政策の財源として、生まれてきた瞬間に巨額の借金を抱えることになる赤字国債での対応ではなく、現役世代が負担をするという点は評価をしたい。

一方で、社会保険料は主として現役世代が負担するので、負担も受益も自分たち、アクセルとブレーキを同時に踏むような政策ではないかという批判がある。兆単位の社会保障財源を賄うのは、高齢者も含め国民全員に広く負担を求める消費税の役目ではないかという意見もあり、税か社会保険料か、その組み合わせか、十分な検討が必要だ。

まず、社会保険料と消費税を比較してみよう。

社会保険料の機能はリスクのシェアである。人生の様々なリスク(保険事故)に備えてあらかじめ保険料を出し合い、リスクに遭遇した人に必要なお金やサービスを支給する仕組みだ。少子化対策ということになると、「子供が生まれ費用がかかること」がリスクということになる。一方で、子育てを終えた人や子供を持ちたくないという人などリスクの生じない人もおられるので、その人たちに負担を受け入れてもらうべく説得する必要がでてくる。

また、年金や雇用保険は勤労世代のみ負担する。医療保険や介護保険は高齢者も負担するが、現役世代と比べて負担は少ない。そこで、高齢者も含めて国民全員が負担する消費税と比べると、勤労者に偏った負担、実質的な賃金課税だという批判が生じる。

さらに問題なのは、低所得者ほど負担が重いという逆進性である。事業者や非正規雇用者が加入する国民年金保険料は、所得にかかわらず定額負担なので、非正規の低所得者ほど負担が大きくなる。厚生年金の場合も、標準報酬には上限が定められており、負担のアンバランスはさらに拡大する。

一方消費税は、逆進性はあるものの、食料品軽減税率もあり、その程度は小さい。

次に、社会保険料の半分を負担する企業について考えてみたい。社会保険料は価格転嫁が難しく企業のコスト増になるので、賃上げの機運をそいだり、国際競争力を弱める。また正規雇用者から非正規雇用へのシフトを加速させる可能性がある。わが国の少子化の最大原因の一つが低所得非正規雇用者の結婚難にあるが、それを加速させることになる。

この点消費税は、仕入れ税額控除という仕組みを通じて、消費者に価格転嫁をするメカニズムが組み込まれており、企業負担にはなりにくい。また消費税は輸出時に還付されるので、企業の国際競争力を損なわないという大きな利点がある。

最後に、社会保険料は未納が多いが、消費税は税金なので未納は少ない。また、106万円や130万円の社会保険料負担の壁も生じない。

このように、負担の在り方としては消費税の方が優れているといえよう。

社会保険料と消費税の比較

次回は、消費税以外の税、所得税や相続税、さらにはデジタル税なども考えてみたい。

東京財団政策研究所研究主幹 

1950年生まれ。法学博士。1973年京都大学卒業後大蔵省入省。主に税制分野を経験。その間ソ連、米国、英国に勤務。大阪大学、東京大学、プリンストン大学で教鞭をとり、財務総合政策研究所長を経て退官。東京財団政策研究所で「税・社会保障調査会」を主宰。(https://www.tkfd.or.jp/search/?freeword=%E4%BA%A4%E5%B7%AE%E7%82%B9)。(一社)ジャパン・タックス・インスティチュートを運営。著書『日本の税制 どこが問題か』(岩波書店)、『税で日本はよみがえる』(日経新聞出版)、『デジタル経済と税』(同)。デジタル庁、経産省等の有識者会議に参加

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