Yahoo!ニュース

今大会から事実上、延長はなし! 即タイブレークは、本当に投手の負担軽減につながるのか?

森本栄浩毎日放送アナウンサー
今センバツから延長即、タイブレーク突入に。投手の負担は軽減されるか(筆者撮影)

 センバツ大会は、18日の開幕が目前に迫った。近年は、選手の健康管理、故障防止の観点から様々な策が講じられ、今夏の甲子園ではベンチ入り20人が実現することになった。しかし運用面でのルールは、次々と導入、変更がなされている。現場からは戸惑いの声も聞かれるが、十分に検証は行われているのだろうか。

高校野球文化を根底から覆したルール

 高校野球には100年を超える歴史があり、その間に形成された文化というものがある。それを根底から覆したのが、甲子園では5年前のセンバツから導入(当時は決勝を除く)された「タイブレーク」である。現在の運用方法は、延長12回を終わって決着がつかない場合、13回から無死1、2塁で攻撃を始めるというもの。打順は前の回からの継続で、試合の流れをできるだけ損なわないよう配慮していて、いくつかある方法の中では現行ルールが最善と考えられる。人工的に走者を置いて点を入りやすくし、試合を早く終わらせるのが目的のこの策は、合理的な国民性の米国などではかなり前から使用されてきた。

サッカーやラグビーにも次戦進出を決める文化がある

 それまでの甲子園では、延長18回、延長15回など、時代とともに短縮されてきたが、引き分け再試合も含め、自力での決着が定着していた。これこそが高校野球の文化そのものではなかろうか。100年を超える歴史を持つ高校スポーツには、独特の文化が息づいている。トーナメントは勝敗を決する必要があり、いくらいい試合でも何らかの形で決着をつけないといけない。高校サッカーはPK(ペナルティーキック)戦で、どのチームでも練習段階からPK戦の準備をしている。ラグビーは、あれだけ激しい激突をしても、試合が終われば敵も味方もないという「ノーサイド精神」が根底にあり、試合結果は引き分け(トライ数の差などの決め方もある)で、抽選によって次戦進出チームを決める。いずれも先人たちによる、長年の試行錯誤の末に醸成されたスポーツ文化そのものである。

今春以降、高校野球は9回まで?

 それがこのセンバツから、9回を終わって未決着の場合、即タイブレーク突入に変更されたのだ。いささか唐突な感じを抱いたファンも多いと思うし、戸惑いを訴える現場の指導者もいた。試合が早く終われば、投手の負担は減る。トータルの球数が減るから当然である。故障防止の観点から始まったとすれば、納得せざるを得ない。しかし各都道府県のルールが甲子園ルールに準ずるとするなら、今春以降、トーナメントの高校野球は9回で終わることになる。タイブレークは延長戦ではあるが、試合を終わらせるためのルールであることは、誰もが知っている。しかも、このタイブレークには大きな矛盾があるのだ。

タイブレークは投手に負担がかかるという二つの根拠

 筆者がこだわるのは、このルールが「本当に投手を守るのか」という1点だけである。まず、打順のいかんを問わず、イニングはピンチの場面(無死1、2塁)で始まる。当然、投手にはいきなりの全力投球が要求される。ただでさえ疲れている状況で、精神的にも追い込まれるはずだ。さらに決着がつかないと、極限状態は継続されることになる。もう一つは、人工的に置かれる走者は打順に左右されるので、投手が走者になることもあるというルールである。すぐに生還できればまだしも、ずっと走者のままでイニングが終わってすぐマウンドに向かうこともあるだろう。実際、攻撃中に出ずっぱりで生還できず、すぐにマウンドに行って、あっさりサヨナラ負けしたケースがあった。後者はルールを変更すればいいだけなので、一刻も早い改善をお願いしたい。

現行のタイブレークは運に大きく左右される

 あと運用面で言えば、現行ルールは運に左右される要素が大きい。具体的には、先攻後攻打順のタイミングである。まず、このルールは後攻チームが圧倒的に有利だ。先攻チームの得点を見て攻められるからで、追いつきさえすれば負けることはない。さらにこれは先攻チームに当てはまるが、打順によって、監督が先頭打者にバントさせるかどうかを迷うことにもつながるだろう。以前、神宮大会では1死満塁の任意打順でスタート、というルールだった。これは当然、一番いい打者を先頭に持ってくる。したがって「打つだけ」なので、先頭の結果によって大量点につながることが多かった。投手の動揺が大きく、押し出しを連発したこともあって変更されたが、試合を終わらせるために投手に無理を強いるという点では、さほど大きな差はない。

「継続試合」は大歓迎だが…

 一昨年の夏は天候不順で甲子園でもノーゲームやコールド決着があり、以前から検討されていた「継続試合」が、ついに昨年度から導入された。こちらは大いに結構なことである。ノーゲームは、記録も含めて全てがなかったことになるわけで、単なるくたびれもうけに過ぎない。ましてやリードしていたチームにとっては、何をかいわんや、である。とにかくノーゲームの再戦は後味が悪く、継続試合になれば、勝ち上がったチームの消耗は最低限に抑えられる。まだ夏の甲子園を懸けた地方大会で採用していないところもあるが、継続試合に関しては現在、運用面も含めていわゆる「お試し期間中」と認識している。

タイブレークは5年で運用方法変更

 対するタイブレークはどうか?まだ「お試し期間中」とも考えられるわずか5年で運用方法を大きく変えることになった。筆者は以前、タイブレーク導入の動きがあった際、「高校野球文化を否定するもの」と断じたことがある。この5年で、それなりに定着し、現場もようやく違和感なく受け入れられるようになった矢先、また根本からリセットせざるを得なくなった。上記のような矛盾、欠陥がある中、果たして十分に検証したと言えるのだろうか

甲子園でも点差コールド試合導入?

 今大会、いくつタイブレーク決着があるかわからないが、熱戦があっけなく終わってしまうことは明白で、せっかくの甲子園で思う存分、試合をさせてあげたいと思うファンも少なくないはずだ。選手の健康を害してまで過酷な戦いを強いるつもりはないが、先人たちがつくり上げてきた「高校野球100年の文化」を、これだけ短期間で、しかも大きく変えていいものだろうか?そのうち甲子園でも、点差によるコールド試合が導入されるのではないかと本気で危惧している。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

森本栄浩の最近の記事