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SNSで密になれた!  旋風狙う初出場・東播磨

森本栄浩毎日放送アナウンサー
21世紀枠で初出場の東播磨。高い走塁技術と堅守でヒガハリ旋風を狙う。(筆者撮影)

 21世紀枠はセンバツの大きな特色のひとつで、なかなか甲子園に手が届かなかった全国のチームに希望を与えてきた。今回はチャンスが広がり、4校がこの枠の恩恵によって初めて甲子園の土を踏む。コロナ禍にあって、それを逆手に取ったユニークな指導が実を結んだのが東播磨(兵庫=タイトル写真)だ。(4月からの新学年で表記)

地元の熱意で誕生した東播磨

 兵庫の南西部・稲美町にある東播磨は、1974(昭和49)年、近隣の加古川、高砂などの2市3町組合立で誕生した。3年後に県立に移管したが、創立の経緯を振り返ると、地元の熱意のほどがうかがえる。最寄りのJR東加古川駅から徒歩で通うのは不可能に近く、生徒の大多数が自転車通学をしている。

普通の公立に名監督就任

 野球部はそれほど目立った成績を収めていたわけではなかったが、福村順一監督(48)が就任した7年前から風向きが変わった。

福村監督は、母校でもある東播磨での甲子園初出場に、「反響の大きさに驚き、応援されていることを実感している」としみじみ語る。(筆者撮影)
福村監督は、母校でもある東播磨での甲子園初出場に、「反響の大きさに驚き、応援されていることを実感している」としみじみ語る。(筆者撮影)

 同じ公立の加古川北を春夏の甲子園に導いた手腕。鍛え上げられた走塁と相手のスキを逃がさない洗練した野球に憧れ、近隣の野球少年たちが集まり始めた。とはいえ公立進学校のこと、中学時代に名を馳せたような選手は皆無で、入試のために中学の野球部を早々に辞めて勉強に専念したという選手もいるほどだ。グラウンドは広いが、4分割して他部と共有するので、フリー打撃もままならない。それは毎年、21世紀枠候補に挙がる「普通の公立校」の姿そのものだった。

秋の近畿大会は強豪に惜敗

 福村監督に率いられたチームは徐々に力をつけ、昨夏の兵庫独自大会はブロック優勝。新チームになっても勢いは衰えず、兵庫大会を2位で通過し、初の近畿大会へ進んだ。初戦で剛腕・小園健太(3年)擁する市和歌山に1-2の惜敗。全国屈指の好投手から自慢の走塁で1点をもぎ取った。21世紀枠の候補でも、西日本のトップ評価を受けたが、決め手となったのはSNSを使った新しい指導スタイルだった。

SNS双方向で「密」に

 「恥ずかしかったんですが、何とか選手たちとつながりたいと思い、守備の動作などを動画に撮って送った」と福村監督。スイング動作など選手から送られてくる動画を見て、新たに気づくことも少なくなかったという。「交互にやり取りするおかげで、『密』になった」と、まさにコロナ禍を逆手に取ってみせた。

「福村先生はとにかく野球が好き。熱意がすごい」と話す原主将。福村監督も、「私の考える野球にマッチしているし、生活態度も素晴らしい。背中で引っ張れる主将」と絶賛する。(筆者撮影)
「福村先生はとにかく野球が好き。熱意がすごい」と話す原主将。福村監督も、「私の考える野球にマッチしているし、生活態度も素晴らしい。背中で引っ張れる主将」と絶賛する。(筆者撮影)

 前チームから唯一のレギュラーだった原正宗(3年=主将)も、「1対1で話すことができたし、悩みも相談できた。おかげで先生と密になれた」と双方向の利点を強調した。「物理的な密」はこのご時世、ご法度だが、「精神的な密」は大歓迎といったところか。福村監督は、今後もこうした試みを続けるつもりだという。

放送部がセンバツ決定を速報

 東播磨は文化部の活動も盛んで、全国優勝の経験がある演劇部や、夏の甲子園開会式の司会者を3人も輩出した放送部も、県内トップクラスの実力。昨秋11月の県の総合文化祭の放送コンテストでは、小澤千晴さん(3年)がアナウンス部門で金賞を獲得。当日、審査員を務めた筆者は、「野球部の頑張りが校内を盛り上げている。ぜひ、甲子園に!」と、熱っぽく語った小澤さんの発表に魅了された。センバツ出場が決まった1月29日には、発表のタイミングで速報し、全校で喜びを分かち合ったという。野球部の活動が校内を明るくする。これも21世紀枠の大事な理念である。

21世紀枠の域超える実力

 さて、肝心の野球の力であるが、市和歌山と互角に戦ったことからもわかるように、従来の21世紀枠の域を超えている。エース・鈴木悠仁(ゆうと=3年)は最速142キロの速球にスライダー、フォークを織り交ぜ、打たせて取る。「攻撃につながるような投球をしたい」と話す。不動の1番打者の原は、「まずは初戦突破。そして福村先生の最高成績であるベスト8(加古川北で10年前のセンバツ)を超えたい」と大きな目標を掲げた。

走塁で得点するパターン多数

 そしてチーム最大の武器である「走塁」について、福村監督は「秘密」を貫いた。そして、「走塁には自信がある。まずは1死3塁にする。そこからの得点パターンはいくつもある」とだけ話してくれた。練習を見ていても、走者を置いた状況では、常にスタートが切れるよう、神経を研ぎ澄ましていることはわかった。

速射砲ノックを浴びせる福村監督。「まず守りからリズムをつくって攻撃へつなげる」これが福村野球だ。(筆者撮影)
速射砲ノックを浴びせる福村監督。「まず守りからリズムをつくって攻撃へつなげる」これが福村野球だ。(筆者撮影)

 また鈴木を支える守備も、福村監督が速射砲のようにノックを浴びせる。とにかくすべてにおいて手際がいい。短い練習時間をムダにすまいと、皆がきびきび動く姿が印象的だった。

「ヒガハリ旋風」は吹くか

 21世紀枠のチームは、昨夏交流試合で帯広農(北海道)が勝ったが、本大会に限ると5年前の釜石(岩手)以来、勝ちはない。この時の相手が同じ21世紀枠の小豆島(香川)で、一般枠への勝利は6年前の松山東(愛媛)までさかのぼる。福村監督は、「皆さんに元気を届ける、すがすがしい野球をしたい」と意気込む。甲子園に「ヒガハリ旋風」は吹くか、今から楽しみだ。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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