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独自大会に行ってきた!  平安が最後の試合を飾る

森本栄浩毎日放送アナウンサー
この夏初めて、球場で高校野球を見た。独自大会でも、熱さは変わらない(筆者撮影)

 全国の独自大会は、決勝を終えた地区もあれば、まだまだ序盤戦のところもある。すでに述べているように、夏休み短縮の影響で、試合は週末や休日に限られる。折悪しく、ここまで週末に雨が多く、どこの大会も日程調整に四苦八苦している。京都は、ついに平日の夕刻に1試合だけの開催という苦肉の策をとった。これが、平日しか時間が空けられない筆者にとってはラッキーだった。

独自色が濃い京都大会

 この夏初めて足を運んだのは、京都市のわかさスタジアム(西京極球場)で、龍谷大平安と京都成章という一昨年と3年前の京都代表による「ブロック決勝」だった。京都は極めて独自性が強く、8つのブロックでそれぞれトーナメントを行い、優勝校は決まらない。ブロック優勝だけである。試合は7回制で、8回からタイブレークに入る。審判は3人(タイトル写真参照)で、決勝でもコールドゲームがある。この両校は、勝っても負けてもこれが3年生にとって最後の試合になる。

グラウンドレベルは立ち入れず

 取材はすべてスタンドで行うことになるが、まずは受付で当日までの2週間分の体温を記入した表を提出する。試合後の取材は、監督と指名選手1人だけで、これもスタンドで行う。グラウンドレベルには、審判と大会役員しか降りられない。選手やチームへの感染を防ぐためだ。

龍谷大平安のスタンド。手前が保護者で奥が控え部員。一般の客は入れない(筆者撮影)
龍谷大平安のスタンド。手前が保護者で奥が控え部員。一般の客は入れない(筆者撮影)

 一般の客は入れず、スタンドには、保護者と控えの部員だけが座っている。もちろん、応援もなく、試合中はベンチからの選手の声がよく聞こえ、外野の奥を走る阪急電車の音が異様に大きく感じられた。長年、西京極には通っているが、阪急のあれだけ大きな音を聞いたのは初めてだ。

木のバットで奥村が快打

 さて試合は、両校ともベンチ入り20人がすべて3年生という、この大会の趣旨に沿った陣容で始まった。平安には、プロ志望を表明している奥村真大がいて、彼は6月以降、練習はもちろん、試合でも木のバットを使っている。

奥村は木のバットで二塁打を放ちチャンスメイク。次打席でもヒットを放って、盗塁も決め、2得点の活躍だった(筆者撮影)
奥村は木のバットで二塁打を放ちチャンスメイク。次打席でもヒットを放って、盗塁も決め、2得点の活躍だった(筆者撮影)

 1回戦では本塁打を放ち、訪れたプロのスカウトの前でアピールに成功した。木のバットで打つことなど、甲子園が懸かっていたら、絶対にありえない。これも独自大会ならではの光景だ。初回、その奥村が鮮やかなバットコントロールで右翼へ二塁打を放ち、好機を広げると、5番・田島輝久の右越え二塁打で平安が先制した。

エース・西本は5回無安打の快投

 平安の先発・西本晴人は、コンパクトなテークバックから小気味よく投げ、成章打線を寄せつけなかった。

平安のエース・西本は、伸びのある速球にキレのいい変化球を交え、見事な投球で5回を無安打に抑えた(筆者撮影)
平安のエース・西本は、伸びのある速球にキレのいい変化球を交え、見事な投球で5回を無安打に抑えた(筆者撮影)

 四球を一つ与えただけで、バックの堅守もあって5回を無安打に抑える。無安打無得点の期待もかかったが、そこは名将・原田英彦監督(60)。「今日はみんなに放らせると決めていた。西本は本当は4回までだった」と話したように、6回以降、坂尾浩汰、松本樹紀と小刻みに投手をつないだ。攻撃でも、代打や代走、守備の交代など、3年生の花道のお膳立てをした。交代選手の名前がアナウンスされるたび、スタンドの保護者や部員から大きな拍手が起こる。監督の熱い思いや選手に対する愛情が感じられ、こちらまで嬉しくなった。

「最後に一番いい野球」平安監督

 試合は3投手が相手打線を無安打に封じ、7-0で平安が快勝した。8校ある優勝校のひとつに決まった平安は、ソーシャルディスタンスをとって校歌を聞いたあと、すぐに表彰式が始まった。

記念の盾を受け取る奥村。兄・展征(25=ヤクルト)の後を追って、プロ選手をめざす(筆者撮影)
記念の盾を受け取る奥村。兄・展征(25=ヤクルト)の後を追って、プロ選手をめざす(筆者撮影)

 山崎憂翔主将に表彰状が手渡され、奥村副主将が記念の盾を受け取った。京都は甲子園の交流試合に出場するチームがないため、このブロック決勝で京都の3年生の夏が終わる。原田監督は、「バッテリーを中心に守る。うちの一番いい野球が最後にできた」と、満足そうに話した。それでも、「コロナの3か月で、教え切れていないことが多い。技術面だけでなく、思いやりや感謝の気持ち。卒業するまでには何とか」と、時折、涙声になりながら無念さもにじませていた。

奥村は合同練習会でアピール

 2安打を放ち、盗塁も決めて、この日もスカウトに猛アピールの奥村は、「投手が代わってから打てていないし、もっと練習しないといけない」と、8月末のプロ志望高校生による「合同練習会」(甲子園と東京ドーム)まで休むつもりはない。高校通算本塁打は19本で、うち2本が木のバットで打ったものだという。「木にはだいぶ慣れてきた。体重も春から10キロ増えて、力負けしないようになってきた」と、自信をのぞかせた。

熱い思いはいつもと変わらず

 異例ずくめの夏ではあるが、戦う選手たちの熱い思いはいつもと同じように伝わってきた。選手たちが保護者の前で感謝の言葉を述べ、大きな拍手が起こる試合後の光景も、いつもと変わらない。「苦しい思いをした分、きっとこのあといいことがあるよ」。そう心で念じながら、平安の選手たちが乗るバスに手を振った。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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