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全国の大多数のチームが埋没? 高校野球にも「球数制限」導入か!

森本栄浩毎日放送アナウンサー
ついに球数制限まで。高校野球は、大きな岐路に立たされている。(筆者撮影)

 昨年末、高校野球ファンにとって衝撃的なニュースがもたらされた。新潟県高野連が、「来春(19年)の県大会から、投手一人当たり1試合100球までとする」旨の通達を出したのだ。「球数制限」の導入である。あまりに唐突で、本元の日本高野連も驚きを隠せなかった。

国際試合では当たり前の「球数制限」

 もともと球数制限は、年代を問わず国際大会ではかなり前から導入されていて、なじみがないわけではない。選手の故障予防、健康管理の観点からはむしろ自然な流れと言える。昨夏の甲子園直後に開催されたU18アジア選手権では、球数と休養が細かく規定された。一人1試合105球までで、その数に達した投手は4日間の休養が義務付けられた。また50球を超えた場合も、中1日、空けないといけない。いくら球数が少なくても、最大3連投まで。永田裕治・高校日本代表監督(55)が、「選手の数に限りがある中、投手はいくらいてもいい」と話し、根尾昂(大阪桐蔭~中日)や野尻幸輝(木更津総合=千葉~法大進学)ら、いわゆる「二刀流」選手が重宝されたのも、この厳格なルールを念頭に置いたからだ。しかしこれは、多くの有力投手をベンチ入りさせられる国際試合の話であって、部員不足に悩む全国の多くの高校にあてはめるのは、どう考えても無理がある。

新潟高野連には「再考」を

 先鞭をつけた新潟高野連に対し、日本高野連は20日に開いた理事会で、「再考」を促した。その理由は、全国の足並みがそろっていないことと、運用について規定した「高校野球特別規則」の中に、球数制限がなく、導入するには規定を改正する必要がある、ということだった。しかし実際は、あまりに性急すぎて事態が収拾できなくなっているのではないか。「投手の障害予防に関する有識者会議」を発足させることで、一定の方向性は示した形だが、賛否両論ある中、タイブレーク導入に踏み切った直後でもあり、世界の野球の潮流に飲み込まれまいともがく、高野連の苦しい胸の内が垣間見えた。

昨夏の吉田輝星がきっかけか

 そもそもここまで球数制限が声高に叫ばれるようになったのはなぜか?それは、昨夏、甲子園で準優勝した金足農(秋田)の吉田輝星(日本ハム)が、地方大会から一度もマウンドを譲ることなく決勝まで進んだことにあるのではないか。

昨夏の吉田輝星の力投は感動を呼んだ。しかし、過酷な登板が議論に発展したことも事実。球数制限が導入されれば、彼のような投手が甲子園で勝ち進むことは困難になる。(筆者撮影)
昨夏の吉田輝星の力投は感動を呼んだ。しかし、過酷な登板が議論に発展したことも事実。球数制限が導入されれば、彼のような投手が甲子園で勝ち進むことは困難になる。(筆者撮影)

 優勝した大阪桐蔭が、3投手をうまく使い回したのとは対照的で、強豪に敢然と立ち向かった吉田の奮闘は大きな話題となった。と同時に、彼にかかる負担があまりに大きく、高校野球をよく知らない人まで、「かわいそうすぎる」と言い出して、半ば社会現象にまでなった。新潟高野連が導入を発表した際、「多くの選手に出場機会を求める」とも理由付けしているのは、そのことを意識しているのではと察する。しかし吉田は、あれだけ投げても故障せず、プロ入りしてからも大きな評価を得ているのは、彼が並の投手ではないからだ。だからと言って、吉田のような投手のいるチームが、全国にいくつあるだろうか。ここにこの問題の本質がある。

公平感を欠く球数制限

 高野連は、全国の足並みがそろっていないことについて、「勝敗に影響を及ぼすルールは慎重であるべき」と補足した。このルールを適用していれば、金足農は、甲子園決勝はおろか聖地にすらたどり着けなかったかもしれない。部員不足に悩む全国の多くの高校は、一人の投手に頼っている。現在、部員が20人に満たない高校は全国の4分の1に達するそうだ。つまり1000校程度は、選手をそろえることから始めなければならない。それぞれの高校で、指導法も違えば、置かれた環境も様々だ。投手のタイプだって、千差万別。全員が、将来も野球を続けるとは限らない。それらを踏まえた上で、一律にあてはめるのは、あまりに公平感を欠いていないか。選手の立場からみれば、あるタイミングで、強制的に不利な状況に追い込まれる。代わって登場した投手が敗戦を背負い込んでしまうことになる。これが教育の一環を謳う高校野球の姿としてふさわしいだろうか。

全国の大多数が埋没か?

 ここ数日は、ネット上も含め、球数制限に関する記事が目立っている。そしてその多くは、高野連の先送りという決定を非難するものだった。その中で、ある甲子園優勝経験投手が、「球数より連投の方がキツかった」と述べていた。個人的には、球数よりも、連投回避が先決事項ではないかと考える。先述したように、投手のタイプは様々で、150球投げても球威の落ちない投手もいれば、100球前後で完投するような制球力を持つ投手もいる。複数の有力投手をそろえられるのはごく限られたチームだけで、高野連はこのことを一番、危惧している。金足農のようなチームが、甲子園に出られなくなるからだ。おそらく、全国9割の高校が、このルールによって埋没させられることになる。

高野連は休養を積極導入

 高野連も、選手の健康を守ることを否定してまでルールにこだわるつもりはない。連戦による消耗を回避するため、今夏の全国選手権は、準々決勝のあとと準決勝のあとに休養日を入れることにした。連戦になるのは、3回戦の翌日に準々決勝を戦うチームだけになる。これは、各地方大会でも実践していただきたい。日程に限りがある中、休養日増加は、タイブレークに続く2年連続での英断だと思う。高野連は、どうすれば選手の健康を守り、100年以上続く高校野球の伝統を将来につなげられるかを模索し続けている。「古典的で何もできないような組織」という論調は的外れだ。

このルールは熟考を重ねて

 最後に、このルールは野球そのものを変容させる。指導者は、打って得点するより、相手投手に球数を投げさせる作戦を優先するだろう。その方が、勝利の可能性が高くなるからだ。こんな野球が楽しいだろうか。子どもたちが、野球を好きになるだろうか。一たびルール化してしまえば、元に戻すのは困難だ。野球を根底から覆すようなルールは、スポーツの健全な発展を台無しにする。現場の選手、指導者はもちろん、甲子園経験者も含め、多くの人の意見を参考にして、長く熟考されることを切に願う。

 

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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