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大阪桐蔭 九死に一生! 履正社に逆転勝ち

森本栄浩毎日放送アナウンサー
センバツ覇者の大阪桐蔭が、履正社に9回2死から逆転勝ち。甲子園王手だ(筆者撮影)

 1点を追う9回表。大阪桐蔭は無死1塁からのバント失敗併殺で追いつめられた。百戦錬磨の西谷浩一監督(48)も、「棺桶に片足が入っていた」と観念した2死走者なしから、高校球界の王者が底力を発揮した。

履正社は奇襲で王者に挑む

 北大阪大会準決勝で実現した大阪2強の直接対決。秋に2-9で完敗していた履正社は、奇襲で王者に挑んできた。「客観的に見ても(大阪桐蔭とは)力の差がある。

履正社の先発は主将の濱内。公式戦初登板だったが、ライバルとの大一番で素晴らしい投球を披露した(筆者撮影)
履正社の先発は主将の濱内。公式戦初登板だったが、ライバルとの大一番で素晴らしい投球を披露した(筆者撮影)

いつもと同じことをしていたら、コールド負けもある」と岡田龍生監督(57)が先発に起用したのは、何と公式戦初登板の濱内太陽(3年=主将)だった。濱内は中学時代は投手だったが、「肩の調子が悪かったり、打撃を生かすため」(岡田監督)、高校では攻撃の軸としてチームを引っ張ってきた。相手の西谷監督も、「(履正社の試合の)偵察に行かせたら、濱内君が投球練習をしていたので、可能性があるという報告をうけてはいたが、まさか、と思った」と驚く。そして濱内は、堂々たる投球で王者の前に立ちはだかった。

互角の投手戦も、7回に均衡破れる

 立ち上がりから制球にやや不安はあったものの、5回まで4度の併殺で切り抜けるなど、濱内は相手のエース根尾昂(3年)と互角の投手戦を演じた。桐蔭の打者が球威に押し込まれて詰まる打球が多く、6回を終わって両校無得点。履正社とすれば、願ってもない試合展開で、ともに3安打と、チャンスらしいチャンスもなく、淡々と進行していった。そして7回、ようやく桐蔭が先手を奪う。4番・藤原恭大(3年)が右翼線を破ると俊足を飛ばし、あっという間に三塁打とする。ここで根尾が左中間に適時二塁打を放って均衡を破った。履正社は2投手をつぎ込んで必死の防戦となるが、桐蔭はさらに8番・青地斗舞(3年)の適時打などで一挙3点を先制した。

履正社が猛反撃し、8回裏に逆転

 0-0の試合は均衡が破れると試合が激変すると言われるが、履正社もその裏、反撃に転じる。1死から1年生の5番・小深田大地と代打の松原任耶(3年)の連打。続く谷川天哉(3年)の犠飛ですかさず1点を返す。さらに好機が続いた履正社は、投手の打順で代打を起用したものの、この回は1点どまり。

履正社は、途中出場の松原が左翼越えの三塁打で勝ち越す。1年の秋、神宮大会で活躍した松原が本領を発揮した(筆者撮影)
履正社は、途中出場の松原が左翼越えの三塁打で勝ち越す。1年の秋、神宮大会で活躍した松原が本領を発揮した(筆者撮影)

結局、8回は濱内が再度、登板することになった。両校のこれまでの対戦は、終盤に主導権を握った桐蔭が突き放す展開が多かった。疲れの見える濱内は無死満塁のピンチを招いてしまう。しかしここで、桐蔭の6番・山田健太(3年)を三振に打ち取るなど踏ん張って望みをつないだ。絶体絶命のピンチを脱した履正社は8回裏、根尾に襲いかかる。この試合初めて先頭打者が出塁すると、2番・西山虎太郎(3年)が適時三塁打で1点差に迫る。さらに濱内の強烈な一塁ゴロで同点に追いついた。勢いに乗る履正社は、2死から失策の走者を置いて、松原が左翼越えの三塁打を放ってついに逆転。残された桐蔭の攻撃は9回だけになった。

9回2死走者なしから桐蔭再逆転

 8回を終わって、計113球を投げていた濱内だが、冒頭の併殺で勝利は目の前だった。「データもないので、しっかり(球を)見ていこう」という西谷監督の指示が功を奏したのはそこからだった。2番・宮崎仁斗(3年)が四球で主将につなぐ。中川卓也(3年)は最後の攻撃前、「こういうところを乗り越えないと甲子園へは行けない」とナインに話したという。主将は追い込まれてからファウルで再三粘って9球投げさせ、四球を奪取した。「(桐蔭の打者は)選球眼がよく、打ち損じてくれなかった」と試合後、濱内は声を絞り出したが、ここで緊張の糸が切れたように見えた。

同点に追いついた桐蔭は、山田の三遊間安打で藤原がヘッドスライディング。二者が生還し6-4と再逆転に成功した(筆者撮影)
同点に追いついた桐蔭は、山田の三遊間安打で藤原がヘッドスライディング。二者が生還し6-4と再逆転に成功した(筆者撮影)

続く藤原も歩かせると、根尾には明らかなボールばかりで押し出し。4連続四球で同点となった。さらに桐蔭は、「負けがなくなって積極的にいけた」という山田が三遊間を破って二者を迎え入れ、9回2死走者なしから、6-4と一気に逆転した。まさに王者の底力。最後はエースナンバーを背負う柿木蓮(3年)が抑え、甲子園まであと1勝とした桐蔭。決勝では初の選手権出場を狙う大阪学院大高と対戦する。

夏のライバル対決は桐蔭の11連勝に

 ほっとした表情で引きあげてきた桐蔭の西谷監督は、「最後は全員が『勝つんだ』という気持ちだった。一人出れば、と思ってはいたが」と選手たちの頑張りをほめた。

厳しい戦いを制した西谷監督(中央)。追い詰められた場面では「監督が下を向いていられません」。左は有友部長(筆者撮影)
厳しい戦いを制した西谷監督(中央)。追い詰められた場面では「監督が下を向いていられません」。左は有友部長(筆者撮影)

9回にバントを失敗した石川瑞貴(3年)が号泣するなど、ライバルに勝ってもはしゃぐ者はいない。それほどまでに、厳しい戦いだった。夏に限っては両校の直接対決はこれで桐蔭の11連勝(2敗)となったが、ここまで桐蔭が追い詰められた試合は初めてだ。

「必死さ」出た履正社には期待の1年生も

 履正社の濱内は、結局149球を投げた。試合後は疲れから腰を下ろして取材を受けるなど消耗しきっていたが、主将として桐蔭ナインへの挨拶から戻ると、すがすがしい表情を見せていた。岡田監督は、「僕も選手も開き直っていた。先手先手でいけたし、相手に『攻めてこられている』という感覚は与えられたのではないか。選手は本当によくやった」と惜敗にも前向きな言葉が続いた。春の府大会で敗れたとき、スタンドから見ていたコーチなど複数の関係者から、「必死さや泥臭さが欠けているのでは」との指摘があったという。今年の両校の力関係からすれば、短期間でここまで王者を追い詰めたのはさすがというほかない。新チームには、1年生の大型右腕や、この日根尾から2安打を放った小深田などのスーパールーキーもいる。この試合で体現した「必死さ」は、彼らがしっかりと受け継ぐはずだ。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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