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それぞれの連覇に向けて~龍谷大平安 大阪桐蔭

森本栄浩毎日放送アナウンサー
前年の春、夏の優勝校が揃って出場するセンバツ。新しいチームで挑む連覇は至難の業だ

高校野球は毎年、選手が代わり、戦力を維持するのは難しい。前年の王者が翌年も強いとは限らず、秋の早い段階で結果を出さねばならないセンバツにおいて、春夏の覇者が揃って出場するのは41年ぶりとなる。同一チームで挑戦できる「春夏連覇」が7例あるのに対し、春の連覇は2度。夏春は4度しかない。とりわけ戦力が成熟しきっていないセンバツで、前チームの偉業を引き継ぐのは並大抵のことではない。

今センバツで、通算100勝めざす平安

昨年、出場38回目にして初めて春の甲子園を制した龍谷大平安(京都)は、夏に続き秋の近畿大会でも4強に残りセンバツの舞台に帰ってくる。全国最多の春夏72回目の出場。甲子園通算勝利も96まで伸び、PL学園(大阪)と並んで2位タイ。今春、4勝すれば100の大台に届く超古豪だ。

平安の原田監督は、「このチームは一気に崩れる可能性がある」と選手の奮起を促す
平安の原田監督は、「このチームは一気に崩れる可能性がある」と選手の奮起を促す

しかし、原田英彦監督(54)は、「そんなこと全然考えられない」と大会前から不安を隠さない。昨年のチームは、野手に甲子園経験者が多く、若い投手陣を支えて勝ち抜いたが、今チームは野手が一新。甲子園のマウンドを知り尽くしている高橋奎ニ、元氏玲仁(ともに3年)の両左腕の経験が頼りになる。打線はかなり小粒になった印象で、秋も終盤にようやく目覚めるような雰囲気の試合が目立った。「個性の強い選手が多かった前のチームに比べて、おとなしいというか、『よーし、いっちょやったろか』という選手がいない」と指揮官は分析する。16日の甲子園練習も、例年より静かだったように見えた。

初戦は強豪相手で厳しい船出

しかも初戦の相手は浦和学院(埼玉)。平安の前年にセンバツで優勝し、お互いの優勝を祝福し合うなど、監督同士も信頼関係で結ばれている。「甲子園では強いところとやれるならウキウキするんですが、(浦和学院は)よく知っているチームなんでやりたくなかった」と抽選会当日、原田監督は本音を漏らした。甲子園での実績で見劣りすることはないが、今チームに限っては原田監督のトーンが下がるのも無理はない。

昨年の春夏を経験した平安の高橋は、速球も140キロを超え、逞しさが増した
昨年の春夏を経験した平安の高橋は、速球も140キロを超え、逞しさが増した

1年夏から甲子園を経験している主将の津田翔希(3年)らの野手陣の力は平安を上回り、関東優勝、神宮準優勝と実績も前評判も高い。原田監督は、「組織力がすごいので、一球たりとも気の抜けない相手」と冷静に相手を見極めた上で、「平安なんで、出るだけではダメ。勝たないといけない」と選手たちの頑張りに期待を寄せる。ともに主戦が左腕2枚で、守備力の高いチームカラーは非常によく似ている。10年以上前から、甲子園出場如何にかかわらず、3月には沖縄で調整するのも同じだ。おそらく高橋が先発することになるだろうが、彼の投球が大きな鍵を握ることは間違いない。春夏連覇が懸かった選手権は開幕試合で涙をのんだ。戦力に不安を抱えるセンバツで、初戦のプレッシャーに打ち勝てるか、名門の真価が問われる。

チーム力充実の大阪桐蔭

大阪桐蔭は、近年、急激に力をつけ、全国の目標とされるチームに成長してきた。今チームは、大阪出身者が大多数だが、全国の中学球児が憧れる。プロで活躍する選手が多いのも魅力のひとつだろう。昨年はセンバツを逃し、夏一本に絞って冬に厳しい練習を積んだ成果が夏の甲子園で発揮された。秋は大阪、兵庫勢が苦戦する中、近畿での善戦が評価されて、センバツは2年ぶりとなる。夏の甲子園で投げた田中誠也、主将の福田光輝、4番の青柳昴樹(いずれも3年)と残った経験者もキープレーヤーなのは心強い。

大阪桐蔭の福田は、攻守にわたってチームを引っ張る。課題は夏に不振だった打撃だ
大阪桐蔭の福田は、攻守にわたってチームを引っ張る。課題は夏に不振だった打撃だ

春夏連覇時のような、大型選手は少ないが、チームとして力があるのは前チームと同じだ。西谷浩一監督(45)が、「特徴のないのが特徴」と話すように、目立った選手はおらず、監督が夏の大会時、何度も口にした「全員で粘り強く」という言葉がこのチームでも頻繁に出てくる。

こちらも強敵・東海大菅生と初戦

秋は、天理(奈良)の技巧派左腕に飛球が多く、勝負強さは影を潜めていた。「秋に勝ち切れなかった」(西谷監督)のは、夏の活躍でチーム作りが遅れた影響だろう。2年生の永廣知紀、中山遥斗がさらに成長し、経験者の福田、青柳につなげるのが得点パターンで、「田中や経験値の高い選手に期待している」と西谷監督。

穏やかな表情で取材に答える大阪桐蔭の西谷監督。このチームも「全員野球」を強調する
穏やかな表情で取材に答える大阪桐蔭の西谷監督。このチームも「全員野球」を強調する

17日の甲子園練習では、「冬はじっくりとやってきた。目標は優勝。全員の力を束ねて(夏春連覇に)挑戦したい」と自信ものぞかせた。初戦の相手は秋の東京を制した東海大菅生。主戦の勝俣翔貴(3年)は鋭いタテのスライダーを武器に三振を狙える本格派だ。勝俣は打っても非凡で、秋の神宮大会を偵察した西谷監督の目の前で豪快な一発を放って(静岡戦)いる。「彼のイメージは出来上がっているが、実際、打席に立ってあの低めの変化球を見極められるか」と警戒する。春夏連覇の翌年は、2戦目で力尽きた。今回の組み合わせも、2回戦が八戸学院光星(青森)と九州学院(熊本)の勝者になり、決して楽ではない。「とにかく一戦必勝」(原田)、「春は初戦に気を遣う」(西谷)と両監督。この言葉からも、それぞれの連覇がたやすいものではないことは明らかだ。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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