特別警報級の台風と言われた台風10号は、中心気圧を見た限り、結局予想されたほどの低い気圧での九州接近はなく、特別警報の発表もなかったが、予想以上に危険な状況も起きていた。

台風10号の進路の進路予想は、かなり精度が高かった。9月5日の午後9時に予想された、24時間後の6日午後9時の中心位置は、北緯30.5度、東経129.4度を中心とする半径65kmの範囲だった。実際に24時間後に進んだ台風の中心位置は、北緯31.0度、東経129.4度で、緯度がわずか0.5度、距離にして55.5km違っただけで、極めて正確な予想だったと言える。

では勢力はどうか。5日午後9時の24時間後の予想では、台風は勢力を保ったまま、中心気圧920hPa、暴風域もほぼ同じ大きさで北上する予想だった。しかし12時間後には中心気圧935hPa、暴風域もやや狭くなる予想に変わった。そして実際に6日午後9時になると、中心気圧は945hPaでさらに予想よりも高くなり「予想したほど発達した状態ではなかった」と言う印象を与える結果となったが、暴風域の大きさに注目すると、予想を上回る500km近い大きさで、24時間前よりも大きくなっていた。このため、九州全域と中国地方の一部も暴風域に巻き込まれた。そういう意味では、中心は予想したほどの勢力ではなかったものの、面的に見ると、かえって危険が予想よりも増していた状況でもあったと言える。以前、某予報官から「位置にせよ勢力にせよ、なぜあなたがたは中心ばかり気にするのか」と言われたのを思い出した。

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(画像は筆者作成)

台風10号の中心気圧が低くなった原因は、先行する台風9号が海面水温を下げ、その低下が10号の予想に反映されていなかったからだ、という説明がされている。しかし、直前の海面水温の低下が予想に反映されないことはわかっていたはずだから、警戒を呼びかける段階で、その状況などをきちんと説明できなかったものだろうか。でないと、今後台風が同じ場所を連続して通過する場合、後ろの台風の気象庁の予報は大袈裟になっていると思われてしまうことが心配だ。

また、海面水温が台風の中心気圧に、どれほど正確に紐ついているのか。過去に記録的な暴風や低い気圧を記録した台風と、通過直前の海面水温の状況を比較してみた。

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(画像は気象庁HPより筆者加工)

左上は石垣島で最大瞬間風速71.0m/sを記録した2015年の台風15号で、海面水温が29〜30℃の高い海域を進んできたが、中心気圧は940hPa、一方左下の2016年18号は、それよりもやや低い海域を進んできたが、久米島近海で905hPaまで発達した。海面水温の1、2℃の差に、あまり原因を求めすぎない方がよいのではないだろうか。

また、台風の中心気圧と風速、特に最大瞬間の関係も微妙だ。2015年の台風15号、同じ年に与那国島で最大瞬間風速81.1m/sを記録した台風21号、翌年の台風18号と久米島の最大瞬間風速、そして今回の台風10号と南大東島の最大瞬間風速を比較してみると、一目瞭然だ。台風の中心がすぐ近くを通っているにもかかわらず、最大瞬間風速はまちまちだ。また、現地で観測された気圧(海面気圧)と最大瞬間風速の関係もはっきりしない。

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(画像は筆者作成)

台風の中心付近の雲の分布は左右対象ではないし、中心に近いほど雲が一様に発達しているという単純な構造ではない。上の4つの台風の、最大瞬間風速が観測された時刻のレーダー画像をみると、極端な最大瞬間風速が観測されたときには、台風の中心付近でも特に発達した雲が観測地点にかかっている。反対に、2016年の18号のように、中心気圧が低くても、最も活発な雲が観測所にかかっていなければ、最大瞬間風速は極端な値にはなっていない(画像は筆者作成)。

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しかし、西の海上の雲の下ではとんでもない風が吹いていたのではないだろうか。そう考えると、今回は風の強さも予想したほどではなかった、とも言い切れない。たまたま観測所の上を活発な雲が通過しなかっただけかもしれない。

台風の振る舞いは、実際はかなり複雑だ。最悪の事態を想定して警告を発すれば、当然予想を下回る結果になることもあるが、場合によって予想以上に事態が悪化することもある。ここ数年10月にも台風が襲来して深刻な被害をもたらしているケースが多い。今のところ、次の台風は見えていないが、台風シーズンはまだ半ばと思った方がいいだろう。