セフレ関係を結ぶシングルマザーを演じて。「彼女は性欲を満たしたい、体だけの関係が目的ではない」

水上賢治

映画ライター

2023/7/29(土) 10:35

　女性を中心に読者を獲得し、大きな支持を得ている大ヒットレディースコミックシリーズを映画化した二部作「セフレの品格（プライド）初恋」「セフレの品格（プライド）決意」。

　「セフレ」という言葉が流布して、どれぐらいが経つのだろう。その言葉から、どんなことをイメージするだろうか？そういわれても、なかなか言葉に窮するというのが正直なところではないだろうか。

　その関係のありようをどう考えるか？と問われたとしても、ちょっと答えづらいのではないだろうか。

　いずれにしても改めて前にすると、戸惑わされるワードではある。

　ただ、いい意味で「セフレ」というワードにとらわれて振り回されてはいけないのが今回の映画「セフレの品格」といっていいかもしれない。

　女手ひとつで娘を育てている二度離婚歴ありの森村抄子が、初恋の相手で産婦人科医の北田一樹とのセフレ関係になる物語が映し出すのは、男女関係としてありなのか無しなのか、倫理としてどうなのか、といったことを問うような、そう単純なことではない。

　森村抄子というヒロインから浮かびあがるのは、この社会でどうすればひとりの母としてひとりの女性として自由になれるのか、自分らしく生きることができるのか、ということだ。そういう意味で、この二部作はひとりの女性の生き方の物語であり、自らの生き方を見つけた自立した女性の物語でもある

　セフレ関係という思いもよらぬ形で自分自身と向き合い、自らの進むべき道をみつける抄子を演じたのは、初主演映画「私の奴隷になりなさい第2章ご主人様と呼ばせてください」が反響を呼んだ、行平あい佳。

　セフレという関係を受け入れ、自身に目覚める抄子の性と生き方を、大胆かつしなやかに体現した彼女に訊く。全六回。

「セフレ」という言葉はどう受け止めていいかわからないですよね

　前回（第一回はこちら）、恩師である城定秀夫監督と原作ファンを「裏切ってはいけない」とまず考えたと明かしてくれた行平。では、タイトルに含まれる「セフレ」という言葉を、どう受け止めていただろうか？

「どう受け止めていいかわからない言葉ですよね。

　それこそ自分の人間性を試されそうで、関係について問われたら『いい関係」とも『良くない関係』とも言いづらい。

　たとえば、知人に『いまセフレがいて』と打ち明けられても、即座にはどう反応していいかわからない。

　ある意味、人を困惑させる言葉だと思うんですけど、わたしの受け止め方もそうでした。

　ただ、今回、『セフレの品格』に取り組むとなったときに、改めてその言葉のインパクトに惑わされないで、自分なりにきちんと考えてみたんです。セフレの関係について。

　そうすると、いろいろな疑問や問いが出てくる。どうすれば、そういう関係が成立するのか？どのような経緯があって、そのような関係を結ぶことになるか？など、わからないことだらけ。

　でも、話をきける当事者を知っているわけでもなければ、そもそも『セフレ』に対する明確な答えなんてあるのかなと。その答えを持ち合わせている人など果たしているのだろうか、とも思いました。

　永遠に答えがでようのないスパイラルに陥りそうになったんですけど、湊よりこ先生の原作を読んで、『なるほど』と納得することができた。映画で描かれることなので、詳細は伏せますけど、森村抄子と彼女の初恋相手である北田一樹がセフレ関係に踏み出すことは、よく理解できたというか。少なくとも二人がセフレ関係になることに違和感はなくて、素直に二人は『そうならざるをえなかったよな』と思えたんです。

　二人は自分の性欲だけを満たしたいから、セフレ関係を結んだわけではないし、体だけが目的で会うわけでもない。

　いま自分の置かれた立場とか、生き方とか、人間関係などを合わせて考えると、男女としてお付き合いするならばセフレがベストで。なによりどっちが上とかどっちが下とか、マウントをとることなく、ある意味、イーブンな関係でいられる。その対等な関係があってセフレという関係を結んでいる。

　もちろん抄子と一樹は互いを信頼していて時に甘えもすれば、なにかあったら寄り添ったりもする。でも、よくありがちな女性が男性に完全に頼り切っているといった構図ではない。

　抄子と一樹、ともに自立した人間だから成り立つ関係で。たぶんどちらかが相手に完全に寄りかかってしまっていたら、自分を見失った瞬間に、おそらく関係は破綻してしまう。お互い自立した大人として、きちんと同意の上で、セフレという関係を選んでいる。そのことを原作から受け取ることができました。

　セフレ関係について、あまりいい印象を持たない人もいるでしょうし、信じられないという人もいることでしょう。いろいろな意見があると思います。

　なかなか肯定的に受け止められないのは仕方ないと思います。けど、わたしとしては原作を通して、セフレもひとつの愛情の形として受け止められました」

（※第三回に続く）

【「セフレの品格」行平あい佳インタビュー第一回はこちら】