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「私の奴隷」を経てセフレ関係を結ぶシングルマザー役に。行平あい佳が「裏切りたくなかった」2つのこと

水上賢治映画ライター
「セフレの品格(プライド) 初恋」より

 女性を中心に読者を獲得し、大きな支持を得ている大ヒットレディースコミックシリーズを映画化した二部作「セフレの品格(プライド) 初恋」「セフレの品格(プライド) 決意」。

 「セフレ」という言葉が流布して、どれぐらいが経つのだろう。その言葉から、どんなことをイメージするだろうか?そういわれても、なかなか言葉に窮するというのが正直なところではないだろうか。

 その関係のありようをどう考えるか?と問われたとしても、ちょっと答えづらいのではないだろうか。

 いずれにしても改めて前にすると、戸惑わされるワードではある。

 ただ、いい意味で「セフレ」というワードにとらわれて振り回されてはいけないのが今回の映画「セフレの品格」といっていいかもしれない。

 女手ひとつで娘を育てている二度離婚歴ありの森村抄子が、初恋の相手で産婦人科医の北田一樹とのセフレ関係になる物語が映し出すのは、男女関係としてありなのか無しなのか、倫理としてどうなのか、といったことを問うような、そう単純なことではない。

 森村抄子というヒロインから浮かびあがるのは、この社会でどうすればひとりの母としてひとりの女性として自由になれるのか、自分らしく生きることができるのか、ということだ。そういう意味で、この二部作はひとりの女性の生き方の物語であり、自らの生き方を見つけた自立した女性の物語でもある

 セフレ関係という思いもよらぬ形で自分自身と向き合い、自らの進むべき道をみつける抄子を演じたのは、初主演映画「私の奴隷になりなさい 第2章 ご主人様と呼ばせてください」が反響を呼んだ、行平あい佳。

 セフレという関係を受け入れ、自身に目覚める抄子の性と生き方を、大胆かつしなやかに体現した彼女に訊く。全六回。

「セフレの品格(プライド) 初恋」より
「セフレの品格(プライド) 初恋」より

2018年の「私の奴隷になりなさい 第2章 ご主人様と呼ばせてください」の

出演はわたしにとってひとつのターニングポイントになった

 今回の「セフレの品格」二部作は、いずれも城定秀夫監督が手掛ける。行平が城定監督と顔を合わせるのは2018年の「私の奴隷になりなさい 第2章 ご主人様と呼ばせてください」以来のこと。同作はヌードシーンもあり俳優として大きな決心が必要だった出演と想像する。劇場公開時、大きな話題を集めた本作について彼女はいまこう振り返る。

「わたしにとってひとつのターニングポイントになった作品であることは間違いありません。

 ほんとうにこの作品との出合いは大きかったです。

 裸になることに関しては、『俳優でこの先やっていきたい』と思った時点から、そういった(裸が必要な)役がいつか来ることがあったら、チャレンジしようと思っていました。なので、裸になる役をやるかどうかは、さほど自分の中では大きいポイントではなくて。もちろん大きな決意の必要な役ではありましたけど、心の準備はできていました。

 大きかったのはやはり、この作品と瀬尾明乃という役に巡り合えたこと。

 当時、わたしは役者をはじめてまだキャリアも浅く、ほぼ何者でもないといいますか。ただただ芝居をしたくて、映画に携わりたという気持ちだけで生きている人間に過ぎなかった。

 その中で、初主演などいろいろプレッシャーもある中で明乃という役をまずはまっとうできた。そして、ありがたいことに作品をいろいろな方が見てくださって、明乃という役を通して、わたしという役者を知っていただく機会になった。

 そのおかげで『私の奴隷になりなさい 第2章 ご主人様と呼ばせてください』への出演以降、テレビドラマや映画などお話をいただくことがちょっとずつ増えていった。また、この作品は、「みましたよ」と声をかけていただくことがほんとうに多い。意外なところで「行平さん、あの映画のヒロインでしたよね」とかいまだに声をかけていただくことがあります。

 あと、いまという時代を感じるんですけど、配信が始まってから、海外の方からいろいろとメッセージをいただくようになりました。そういうことを含めて、わたしの中ではわたしの現在につながっているとともに人生を豊かにしてくれている作品だと感じています」

「裏切ってはならない」と思った2つのこと

 いわば恩師といってもいいかもしれない城定監督と再び顔を合わせることになり、今度は大ベストセラーのレディースコミックに取り組むことになった。まず、真っ先に「裏切ってはならない」と思ったという。

「『裏切ってはならない』と思ったことは2つあります。

 ひとつは城定監督を『裏切ってはならない』と思いました。

いま、お話したようにわたしのターニングポイントとなった作品の監督である城定さんが、ほかにもいろいろな俳優さんがいる中で、オーディションでわたしを最終的に選んでくださった。そして、森村抄子という新たな役を託してくださった。その期待には絶対に応えたいし、応えなければなければならない。

 それからひとりの俳優としては、やはり前作よりも少しでも成長している姿をお見せしたい。それがやはりお世話になった監督への最大の恩返しだと思うので。なのでまず城定監督を『裏切ってはならない』と思いました。

 それからもうひとつは、『セフレの品格』の読者のみなさま、原作ファンを『裏切ってはならない』と思いました。

 シリーズ累計で紙と電子版を合わせると430万部を突破しているという大ベストセラーのレディースコミックで、多くのファン、とりわけ女性から大きな支持を得ている。

 わたし自身、漫画が昔から大好きで、思い入れのある原作に関してはちゃんとしたキャスティングがされているかなとか、原作の良さが出ているかなど、いろいろと気になる。

 だからこそ、原作ファンを裏切ることだけはしたくない。

 ですから、原作ファンのみなさんが納得してくれるように、森村抄子という役に誠心誠意取り組んで、演じ切らなければと思いました」

(※第二回に続く)

「セフレの品格(プライド) 」ポスタービジュアル
「セフレの品格(プライド) 」ポスタービジュアル

「セフレの品格(プライド) 初恋」

監督:城定秀夫

原作:湊よりこ『セフレの品格(プライド)』(双葉社 JOUR COMICS)

出演:行平あい佳、青柳 翔、片山萌美、新納慎也

全国順次公開中

「セフレの品格(プライド) 決意」

監督:城定秀夫

原作:湊よりこ『セフレの品格(プライド)』(双葉社 JOUR COMICS)

行平あい佳、青柳 翔、髙石あかり、石橋侑大

8月4日(金)より全国順次公開

公式サイト https://sfriends-pride-movie.com

筆者撮影以外の写真はすべて(c)2023 日活

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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