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いい子でいたい、でも、ほかとは違う存在になりたい。多感な10歳のころの気持ちが甦る物語を

水上賢治映画ライター
「揺れるとき(英題:Softie)」より (C)Avenue_B

 白石和彌、中野量太、片山慎三ら現在の日本映画界の第一線で活躍する監督たちを輩出している<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭>が7月15日(土)から開催を迎える。 

 本映画祭は今年節目の20回目。メインのプログラムとなる国際コンペティション、国内コンペティションのほか、本映画祭をきっかけに大きな飛躍を遂げた監督たちをゲストに招く「SKIPシティ同窓会」といった特別上映も行われ、例年にも増した充実のラインナップが組まれている。

 その開催に先駆け、昨年の国際コンペティションで見事受賞を果たしたフィルムメイカーたちに受賞直後行ったインタビューを届ける。

 二人目は、最優秀作品賞(グランプリ)を受賞したフランス映画「揺れるとき(英題:Softie)」のサミュエル・セイス監督。

 東フランスの貧しいエリアで暮らす10歳の少年の成長と性の目覚めを描いた本作について同行したプロデューサーのキャロリーヌ・ボンメルシャン氏を交えながらと話を訊く。全五回。

「揺れるとき(英題:Softie)」のサミュエル・セイス監督(左)とキャロリーヌ・ボンマルシャン プロデューサー  筆者撮影
「揺れるとき(英題:Softie)」のサミュエル・セイス監督(左)とキャロリーヌ・ボンマルシャン プロデューサー 筆者撮影

いまも深く感謝する恩師との出会いが10歳のときだった

 前回(第二回はこちら)、本作の主人公となる10歳の少年ジョニーと同じぐらいのころ、サミュエル監督がどのようなことを考えていたかの話で終わった。

 そこからさらにこう話を続ける。

サミュエル「おそらく僕の場合、家庭環境もあっていろいろな面で大人にならざるをえない状況があった。

 たぶん、当時の同年代の子と比べて、大人びていたところがあったと思います。

 だからこそ、自分がどのような道に進めばいいかといったことで悩んだし、未来がみえないことに不安も覚えた。

 ただ、いろいろと悩んだり、不安を抱えてはいたんですけど、独りではなかったというか。

 大きな支えになってくれる存在がいたんです。

 10歳のときに出会った学校の先生です。

 先生は、僕の家庭環境であったり、個性であったりといったことをちんと把握してくれて、10歳の僕にこう言ってくれたんです。

 『いつまでもここにいてはいけない。君には可能性が広がっている。何かで羽ばたけるポテンシャルがあるんだから勉強しなさい。勉強すれば君は大きく羽ばたくことができるから、あきらめずに頑張りなさい』と。

 10歳の僕に、絶対花開くときがあるから、とエールを送ってくれて励ましてくれたんです。

 その言葉はいまだに忘れていないし、深く感謝しています。

 先生のこの言葉がなかったら、もしかしたら、あの町からあの状況から抜け出せないでいたかもしれない」

「揺れるとき(英題:Softie)」のサミュエル・セイス監督 <SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022>授賞式より
「揺れるとき(英題:Softie)」のサミュエル・セイス監督 <SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022>授賞式より

振り返ると、この世界へ進むきっかけが10歳のときにあった

 では、プロデューサーのキャロリーヌ・ボンメルシャン氏は10歳のころ、どのようなことを考えていただろうか?

キャロリーヌ「わたしには幼いころからの親友がひとりいたんですけど、10歳のころというのは、彼女がちょうど俳優のお仕事を始めたときでした。

 それまでわたしは、映画やドラマといったことにさほど興味はありませんでした。

 でも、彼女が俳優の仕事を始めるようになって、こういう世界があることを知って、俄然興味を持つようになりました。

 そして、彼女の影響でわたしもちょっと俳優の仕事をはじめて、15歳のときに彼女とある映画で共演しました。

 この経験や、彼女から撮影現場や映画の話を聞いて、わたしはどんどん映画に興味をもつようになっていった。

 で、気づけば映画業界に進んでいました。

 ですから、振り返ると、わたしの10歳のころというのは、映画界へ進むきっかけをくれたとき、原点といっていいかもしれません。

 今回の作品を見たとき、わたし自身は、不思議といまお話しした記憶が甦りました。

 あと、わたしは子どもが2人いるんですけど、どちらももう10歳は過ぎている。

 作品を見ていて、彼らの10歳のころは、どうだったかも思い出していました。

 主人公のジョニーは、いい生徒でありたい、いい息子でありたい、でも、ほかとはちょっと違う存在でありたい。

 そんな感じでいろいろと思い悩みます。

 たしかに、自分の子どもたちも10歳ぐらいのとき、そんな感じで心が揺れ動いていたなと思いました。

 そういう意味で、本作『揺れるとき(英題:Softie)』は、誰もが10歳のころの気持ちに戻るというか。

 まだ大人とも完全な子どもともいえない10歳のときを思い出させてくれる作品なのかなと思いました」

(※第四回に続く)

キャロリーヌ・ボンマルシャン プロデューサー(中央) <SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022>授賞式より
キャロリーヌ・ボンマルシャン プロデューサー(中央) <SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022>授賞式より

【「揺れるとき(英題:Softie)」第一回インタビューはこちら】

【「揺れるとき(英題:Softie)」第二回インタビューはこちら】

「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023」ポスタービジュアルより 
「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023」ポスタービジュアルより 

<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023(第20回)>

会期:《スクリーン上映》2023年7月15日(土)~ 7月23日(日)

《オンライン配信》2023年7月22日(土)10:00 ~ 7月26日(水)23:00

会場:SKIP シティ彩の国ビジュアルプラザ 映像ホール、多目的ホールほか

詳細は公式サイト:www.skipcity-dcf.jp

ポスタービジュアルおよび授賞式写真はすべて提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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