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自動車会社社員から映画プロデューサー、そして監督へ。デビュー作はアクション時代劇に挑む

水上賢治映画ライター
「クモとサルの家族」より

 ご存知の方も多いと思うが、手間もかかればお金もかかるということでいま時代劇は作りづらい状況になっている。

 そういった厳しい現状がある中で、本作「クモとサルの家族」は、自主制作で果敢に時代劇に取り組んだ1作だ。

 ある意味、無謀にも思えるチャレンジ。さらに自主制作となると「スケールが保たれているのか?」と危惧されるかもしれない。

 ただ、そこはアイデアと創意工夫でカバー。35mmフィルムの質感を活かして撮影された作品は、忍術やアクションの見せ場をきっちりと盛り込んだ娯楽性溢れる時代劇に仕上がった。

 また、忍者の夫婦が実子と連れ子と孤児の4人の子どもたちと力を合わせて「悪」と戦う設定は、どこか戦隊ヒーローものとつながる世界があって、子どもも喜んで楽しめる内容になっている。

 手掛けたのは、プロデューサーとして長年、日本映画に携わってきた長澤佳也。

 なぜ、いまプロデューサーから監督へチャレンジし、オリジナル脚本で、しかも自主制作で時代劇を作ろうと考えたのか?

 長澤監督に訊く。全六回

「クモとサルの家族」の長澤佳也監督  筆者撮影
「クモとサルの家族」の長澤佳也監督  筆者撮影

「自分は何かやり残していないか?」と50歳で考えたとき思い浮かんだこと

 前回(第一回はこちら)、自動車会社から映画業界へと転職した経緯を語ってくれた長澤監督。

 そこから20年近く、映画プロデューサーとして活躍してきたわけだが、今回、監督をやってみようと思ったきっかけはなんだったのだろう?

「きっかけとしては年齢が大きかったです。

 50歳になるとなったとき、やはりこれまでの人生について少し考えたんです。『何かやり残していないか』と。

 プロデューサーの仕事が嫌になったわけではないけれど、なにかほかに自分が一度やってみたいことはないか考えたんです。

 そこで思い浮かんだのが『映画監督』でした。

 プロデューサーを長年務める中で、いつからか映画監督には憧れるところがあって。『自分も監督として映画を作ってみたい』という気持ちが芽生えていた。

 で、年齢を考えたときに、『もしトライするならば、ここがラストチャンスじゃないか』と思ったんです。

 ここを逃したら、おそらくもうチャレンジできないのではないかと思いました」

『あのときチャレンジしておけばよかった』とはなりたくなかった

 振り返ると、プロデューサーとしていろいろな監督と間近で接することで、監督をしたいという気持ちが募っていったところもあったという。

「気づけばプロデュースの仕事を20年も続けていたんですけど、その間、幸せなことに多くの映画監督とご一緒することができました。

 僕の映画作りにおいて原点は、最初にプロデュースした2本の作品。

 1本は、河瀨直美監督、もう1本は石井岳龍(当時は聰亙)監督とご一緒したのですが、お二人からはインディーズ魂を目の当たりにしたといいますか。

 どちらも自身の映画作りということに関して一切妥協がない。モノ作りのおもしろさや醍醐味を味わうことができた。

 その時間というのは刺激的でいまも鮮明に記憶に残っています。

 その後、もっと大きなバジェットの、いわゆるメジャー作品に関わることになって、それぞれタイプの異なる監督とご一緒して、そこでもまた大きな刺激を受けました。

 このようにいろいろな監督とご一緒することで、ひとつ自分としてわかったことがありました。

 それは映画作りって『こうじゃないといけない』ということはないということ。

 監督として『こうあるべき』みたいなことはなくて、それぞれに自分のやり方があっていいということだったんです。

 それぐらい各監督のスタイルは違う。でも、どれも間違いではない。自分なりのやり方がある。

 それがわかっていたので、自分でもできるんじゃないか。自分なりの映画作りに取り組めるのではないかという思いになっていった。

 そして、最終的に後悔したくない、あとになって『あのときチャレンジしておけばよかった』といったことにはなりたくなかった。

 結果的に失敗するかもしれない。でも、結果としてマイナスとなるかもしれないですけど、やらないことにはプラスにもマイナスにもならないわけで、やってみないとなにも始まらない。であれば、もうやるしか選択肢はない。

 ということで、『自分で監督を務めてゼロから映画を作ってみよう』と踏み出せた気がします」

「クモとサルの家族」より
「クモとサルの家族」より

脚本は、忍者アクション、スナイパー、ファミリーというアイデアを3本柱に

 そこから一念発起して、脚本を書き始めたという。

「まず脚本がないとなにも始まりませんから、まずシナリオを書き始めました。

 脚本作りに関しては、戦略的だったといいますか。

 なんかこういうことを明かすと、ものすごく恥ずかしいんですけど、まず1本を撮って終わりにしたくない思いがあったんです。

 まだ、映画を1本作り上げたことがないのに(苦笑)。

 監督としてデビューするからには、やはり2本、3本と撮っていきたい。

 となると1本目がとても大事で、次へと繋がるものにしなければならない。

 そのためにはそれなりに注目してもらえるもの、スルーされないものを作らなくてはいけないと考えていました。

 こういうところはたぶんプロデューサー的な視点に知らず知らずのうちに立ってしまうんですよね。

 で、自主制作ですから、お金が潤沢にあるわけではない。

 ほかの人と同じようなことをやっても、おそらくその他大勢で埋もれてしまう。

 やっぱり自主映画であまりみかけないタイプの作品で、プラス、自分がやりたいものを作りたいなと考えました。

 そこで自分が好きなものは何かと考えたときに、まずアクションをやってみたい気持ちがありました。

 それから、できれば海外にもっていっても楽しんでもらえる作品を作りたいなと思って。

 そう考えると、忍者というのはジャンルものとして海外でも受け入れやすい。

 忍者アクションならばほかとの差別化もできていいんじゃないかと思いました。

 あと、スナイパーものも好きだったのと、ファミリーで見られるものにもしたかったのでファミリー・ムービーの要素も盛り込みたいなと。

 この忍者アクション、スナイパー、ファミリーというアイデアを3本柱にして、脚本を書き進めていきました」

(※第三回に続く)

【「クモとサルの家族」長澤佳也監督インタビュー第一回はこちら】

「クモとサルの家族」ポスタービジュアル
「クモとサルの家族」ポスタービジュアル

「クモとサルの家族」

プロデューサー・脚本・編集・監督:長澤佳也

出演:宇野祥平 徳永えり

田畑志真 リー・ファンハン チャオ・イーイー ニエ・ズーハン

江口直人 黒羽麻璃央 緒川たまき 仲村トオル 白石加代子 奥田瑛二

撮影:芦澤明子 御木茂則

照明:永田英則 美術:松永一太

録音・整音:山本タカアキ

衣裳:宮本まさ江 ヘアメイク:佐藤光栄 田仁見

殺陣:森聖二 助監督:足立公良 制作担当:大西裕

音響効果:北田雅也 切り絵:福井利佐

グレーダー:廣瀬亮一 音楽:ノグチリョウ

主題歌:どぶろっく

新宿 K’s cinemaにて公開中、以後全国順次公開予定

<新宿 K’s cinemaにて上映後のトークイベント実施中!>

4/1(土)18:45の回 吉村界人(俳優)ゆうたろう(俳優)長澤佳也監督

4/2(日)18:45の回 早織(俳優)長澤佳也監督

場面写真及びポスタービジュアルはすべて 提供:映画「クモとサルの家族」

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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