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赤ちゃんの死に顔の写真撮影はタブーか?遺体撮影を題材にした作品にこのタイトルをつけた理由

水上賢治映画ライター
「初仕事」より 主演も兼ねている小山駿助監督

 写真館でアシスタントをする、まだ駆け出しのカメラマンが、初めて撮影の仕事を任される。

 それは、赤ん坊の遺体撮影だった、という、ちょっとドキッとするところから物語がスタートするのが映画「初仕事」だ。

 ただ、こういう題材を興味本位に取り上げた作品では決してない。

 避けることのできない死と、真摯に向き合った作品になっている。

 なぜ、遺体撮影という行為を題材にし、そこでなにを描こうとしたのか?監督・脚本・主演を務めた小山駿助に訊く。(全五回)

独特の空間に感じられる理由は窓にあるのではないか

 ここまで主に作品の主題にあった、「死に顔を撮影する行為」やそこで描こうとしたことなどを訊いてきた。

 今回は少し話を変えて、作品のアナザーサイドというか舞台裏について訊く。

 本作において、ある意味、ひとつの重要な顔になっているのが安斎の持つ家だ。

 生活感がうっすらあるようにも感じられれば、子どもの死でもはや独りになってしまった安斎のぽっかり穴のあいた心を映すように空っぽにも映る。

 また、死んだ子どもを写真に収める場所にふさわしいというか。ちょっと神聖な空間のたたずまいにも感じられる。

 現実世界っぽくも異空間にも思える雰囲気が漂っている。

「あの家は、撮影チームのメンバーのひとりの実家の敷地内にある空き家を使用させていただきました。

 もともと畳が普通に敷かれていた和風の部屋だったんですけど、その畳を全部とっぱらって、そこに美術でいろいろとほどこしてあのような佇まいにしました。

 独特の空間に感じられる理由は窓にあるのではないかと思います。

 けっこう部屋は広そうなのに、窓がなんだか小さい。これは実のところ美術で、窓の大部分を板で覆ってしまって窓枠みたいなものをつけています。もともと大きい窓を小さくしてしまった。

 それから壁もすべて塗り直しています。それで日本家屋にも和洋折衷にもないような空間になってます」

ホラーっぽくしようとか一切考えていなかったです

 そのような空間にした理由をこう明かす。

「この死んだ子どもの撮影をする部屋に関しては、みなさんからいろいろと意見をいただくんです。たとえば『ホラー映画の家っぽいですよね』とか。

 確かに言われてみれば、いかにも廃墟な感じで、ホラーにふさわしいような場面設定なんですが、そんなことを僕はまったく意識していなかったんですよ。

 実は部屋に関しては、ストーリーの要請といいますか(笑)。ストーリーに合わせて、そうしているところがある。

 作中ですべて言っているわけではないんですけど、まず安斎さんは子どもの遺体の撮影を家族に反対されてる。で、しかたなく東京から離れてあの別宅で撮影することにした。

 そういうことにしているので、あの家に常時住んでいるわけではない。なので生活感があるわけではないけど、まったくないわけでもない、別荘のようにたまに使う家ということを意識しただけなんです。

 窓に関しては、スケジュールの都合と言ってしまうと身も蓋もないのですが、撮影全体が一期と二期に分かれていることも関係しています。一期の時期に二階のカーテンが映るシーンを撮ってしまっていました。

 二階に上がる理由が『一階が暗いから』なので、シーン順では先にあるべきあの小さい窓の部屋は、暗い部屋である必要があった。なので、窓を小さくしました。

 それから、殺風景なことになっているのは、これも実は撮影上でそうしたというのが事実で。死者を撮影する場所にふさわしい雰囲気を醸し出すためにしたことではない。

 死者を撮影する行為を、例えばドキュメンタリーのような手持ちカメラを多用するといった、日常の延長線上で撮影してしまうと、遺体撮影という行為の非日常性を煽ってしまい、必要以上に浮いてしまう。

 ですが、実際にできるかどうかは別として、活劇というかアクション風にダイナミックに死者を撮影する行為のシーンを撮りたいと考えたんです。

 もともとわりとアクション映画を作ろうと思っている人間で、それは別にとっくみあいのけんかとか激しいものではなく、ふつうに歩いていたり、しゃべったりということをアクションのあるものとしてとらえ映し出したい気持ちがある。

 そういう気持ちがあってそう撮ろうと考えると、できるだけ部屋の中のアクションに使う以外のモノは減らして、撮影するとき自由に動けるようにしたほうが都合がいい。

 何より、わたしとしては動いている身体が見たいのに、モノが多いと身体が隠れてアクションが見えない。それで、テーブル1つにイスが二つだけみたいな空間になったんですね。

 だから、ホラーっぽくしようとか一切考えていなかったです」

「初仕事」より
「初仕事」より

タイトルに関して言うと、最初はまったく別のタイトルでした

 それから「初仕事」というタイトルはどこからきたのだろう?

 確かに作品をきちんと表したタイトルで間違ってはいない。

 でも、初仕事というとなにかフレッシャーズの初々しい失敗談のようなことをイメージしてしまいもする。

 そのイメージと本作「初仕事」で描かれることはそうとうギャップがある。

「いま言われるまで気づいていませんでした。

 確かに『初仕事』というと、新人や新入社員のフレッシュな物語のイメージを抱いても不思議ではない(笑)

 このタイトルに関して言うと、最初はまったく別のタイトルでした。

 もともとは『そのまま』っていうタイトルだったんです。読んで字のごとくなんですけど、『そのままでいてほしいな』という思いの集積が死に顔を撮影する行為にあるように思えたし、主人公の山下もはじめはその行為に戸惑いながらそのような気持ちを共有してしまう。

 だからこれでいいかと思って、仮のタイトルとしてつけていたんです。

 ただ、さあ、いざタイトルをどうするとなったとき、ちょっと違うかなと。ただそのままでいてほしいというだけの話ではないことが、作る前よりも分かっていたことが大きかった。もっと言えばちょっとパンチにも欠けると思って、なにか良いタイトルがないか悩み始めた。

 そのときに、撮影を担当してくれた高階匠さんが相談にのってくれて、彼が提案してくれたのが『初仕事』で。

 で、僕が『もうそれしかない』と思って採用させていただきました。

 個人的には、『これはこれこれの象徴で、こう言った意味が込められていて…』のような、理解するのにいくつもの手順が必要になってしまうのは、あまり良くないと思っています。

 ですが『初仕事』というタイトルに関しては、例えば数年後、数十年後に、山下くんがいつか本作の出来事を振り返る可能性もすぐに想像できるし、安斎さんの親としての初仕事だった可能性も、観る人によってはまったく想像できなくはない。

 無理のない範囲で能動的な鑑賞ができるタイトルだと思ったので、とてもいいと思いました。

 それに、ずっと考えている中で、なにか漢字3文字がいいなと思っていたんです。

 これは高階さんが言っていたんですけど、ちょっとフランス映画っぽい雰囲気になるじゃないですか。

 基本的に僕はフランス映画が大好きなので、『初仕事、あっ、それでいきましょう』となったんですよね」

(※第五回に続く)

【小山駿助「初仕事」インタビュー第一回はこちら】

【小山駿助「初仕事」インタビュー第二回はこちら】

【小山駿助「初仕事」インタビュー第三回はこちら】

「初仕事」ポスタービジュアルより
「初仕事」ポスタービジュアルより

「初仕事」

監督・出演・脚本・絵コンテ・編集:小山駿助

出演:澤田栄一 小山駿助

橋口勇輝 武田知久 白石花子 竹田邦彦 細山萌子 中村安那

撮影:高階匠 照明:迫田遼亮 録音:澤田栄一 

メイク:細山萌子 衣装:細山貴之 美術:田幸翔

音楽:中村太紀 助監督:田幸翔/逵 真平

プロデューサー:田幸翔 角田智之 細山萌子

新文芸坐にて10月27日(木)20:00~レイトショー

※上映後舞台挨拶あり

【登壇者】小山駿助監督、澤田栄一、橋口勇輝、武田和久、白石花子

写真はすべて(C)2020水ポン

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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