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亡くなった赤ちゃんの撮影依頼。死に顔を写真に収める行為はタブーなのか?

水上賢治映画ライター
「初仕事」より 主演も兼ねている小山駿助監督

 写真館でアシスタントをする、まだ駆け出しのカメラマンが、初めて撮影の仕事を任される。

 それは、赤ん坊の遺体撮影だった、という、ちょっとドキッとするところから物語がスタートするのが映画「初仕事」だ。

 ただ、こういう題材を興味本位に取り上げた作品では決してない。

 避けることのできない死と、真摯に向き合った作品になっている。

 なぜ、遺体撮影という行為を題材にし、そこでなにを描こうとしたのか?監督・脚本・主演を務めた小山駿助に訊く。(全五回)

きっかけは、ふと目にとまった雑誌の記事

 まず本作を語る上で避けて通れないのが、やはり「遺体の撮影」が作品のキーポイントになっていることにほかならない。

 このことに着目したきっかけについて小山監督はこう明かす。

「きっかけは、ひとつの記事でした。

 わたしが図書館に勤めていたときだったのですが、雑誌 kotoba(2012 年 04月号)に『18世紀のヨーロッパで遺体を家族で囲んで家族写真を撮る』というような記事が掲載されていました。

 その記事に目がとまったのは仕事中のことだったのですが、仕事終わりにすぐ本屋に向かって雑誌を購入してしまいました(笑)。

 この記事でヨーロッパで一時期、遺体を撮影するという慣習があったことを知って、なんだかカメラという新たに発明された文明の利器に人類が希望を見出しているような印象を受けました。また一方で、いまの日本で、この時代のような現象が起きたらどうなんだろうと、自分の想像をかき立てられるところもありました。

 というのも、自分が中学や高校時代に参列したお葬式で、携帯でご遺体の写真を撮っている方を見たことがあったからです。

 あまり言及されることはありませんが、現代でも行為自体はそのように存在していることをその雑誌をきっかけに思い出しました。

 そういうこともあって、遺体の撮影をキーワードに、現代の状況と歴史の出来事をリンクさせたら、なにかひとつおもしろいものが作れるのではないかなと思いました」

当時、個人的に人の生き死にに一番関心があった

 また、当時、「死」と言うことに向き合っていた時期だったという。

「まあ、なぜ、そのような記事に目をとめたかというと、やはりそういう方面にアンテナが張られていたからで。

 詳細は控えさせていただきたいのですが、当時、個人的に人の生き死にに一番関心があった、関心を持たざるを得ない時期だったんです。

 そういう時期であったからこそ、たまたま目にしたわけですけど、目にとまった。

 また、環境に関わらず、いわゆる作家と呼ばれる職業を生業にしている人間は、文学作品にせよ、映像作品にせよ、ジャンルを問わないで、わりと生死を扱う題材に取り組む時期があると思うんですよ。

 僕もそういうときだったといま振り返ると思います。

 で、たまたま、そういう遺体撮影の記事をみて、自分がいま何か描くとしたら、『これしかないだろう』と思ったということですね」

「初仕事」より
「初仕事」より

断られまくるのではないかと不安でたまらなかった

 こうして「遺体撮影」を題材に脚本を書きあげたはいいが、その企画を実現させる過程は常に不安がつきまとったという。

「脚本を書きあげたはいいのですが、当時、僕は20代でなんの実績もない、無名の若造監督なわけです。その上、映画化しようとしているのが、『不謹慎』とか『不道徳』といって断られてもおかしくない題材で。

 とはいえ、隠すことはできないので、各所に撮影許可をもらいに脚本をもって説明にいくんですけど、ほんとうに断られまくるのではないかと不安でたまらなかったです」

 ただ、意外な反応が返ってくることが多かったという。

「いざ説明してみると、ほとんど拒否されることはなかったんです。

 『この年齢でこういう題材を持ってくるということは、実生活で何かあったんだろうな?』という感じでみなさん受け入れてくれて。

 若いもんのやることだから『温かく見守ってやろう』みたいな感じで、受けとめてくれた。

 このことも自分の中で『この題材をきちんと描こう』という励みになりました。

 今考えると、対応してくださった方の中には、『温かく見守る』という気持ちの面だけではなく、人間はこういう行為をしたいと思う時があることを経験からご存知で、題材をあまり不安視されていない方もおられたのではないかと想像します。それを知らないわたしが不安になっていただけかもしれません」

わたし自身は、現時点ではあまり撮りたいと思わない

 少し話は戻るが、お葬式の際、携帯やスマホで亡くなった人を撮影する、このことは小山監督自身はどう思っていたのだろうか?

「わたし個人としてはたとえば、自分の隣にいる人が亡くなられた方の写真をとっていても、おそらく全然驚かない人間なんですよね。

 死者に対する冒涜とか、見せ物扱いするなとかいう意見があると思うんですけど、わたし自身はあまりそのようには思わない。

 冒涜とかいう人はごく一部で、ちょっと間違っているかもしれないですが、ほとんどの方が『別にそこまで大それた行為ではない』と思っている気がするんですよ。

 でも、人前でとなると、なんとなくの世間体があったりするので、ちょっと隠れたところでパシャっと一枚撮るみたいなことになるんじゃないかなと。

 だから、わたし自身はさほどタブーだとは考えていない。しかしながら、自分が写真を撮るかというとそれはまた別の話で。

 わたし自身は、現時点ではあまり撮りたいと思わない。『撮ったところで』という気持ちの方が強い。

 そういうなにか人それぞれに向き合い方が違って、考え方も違うんじゃないか、ということもあって、この題材におもしろさを見出していったところもあった気がします」

(※第二回に続く)

「初仕事」ポスタービジュアル
「初仕事」ポスタービジュアル

「初仕事」

監督・出演・脚本・絵コンテ・編集:小山駿助

出演:澤田栄一 小山駿助

橋口勇輝 武田知久 白石花子 竹田邦彦 細山萌子 中村安那

撮影:高階匠 照明:迫田遼亮 録音:澤田栄一 

メイク:細山萌子 衣装:細山貴之 美術:田幸翔

音楽:中村太紀 助監督:田幸翔/逵 真平

プロデューサー:田幸翔 角田智之 細山萌子

全国順次公開

写真はすべて(C)2020水ポン

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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