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ヤバすぎるアクションに命懸けで挑んだ名優を大スクリーンで。劇場でしか見れない幻のバージョンも!

水上賢治映画ライター
「華麗なる大泥棒」より

 映画史にその名を残す偉大な俳優ながら、なぜか日本では忘れかけられていた彼に再び光を当てた<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選>(※以後、JPB傑作選)は、2020年の秋に初めて開催されるとコロナ禍でありながら連日満席となる大反響を呼んだ。

 その反響は鳴りやまず、翌年開催された第二回も大好評のうちに終幕。ジャッキー・チェンやトム・クルーズらの挑むアクションシーンにも多大な影響を与えるベルモンド・アクションに多くの観客が酔いしれた。

 しかし、残念ながら昨年9月6日、ベルモンドは帰らぬ人に。それから早いもので1年。ここに<JPB傑作選>の第三弾が届けられた。

 追悼の機会にもなる本特集で目指したこととは?

 過去2回もインタビューにお応えいただいた本特集の仕掛け人、配給プロデューサーで映画評論家の江戸木純氏に三度登場いただき、話を訊く。(全六回)

<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選3>の仕掛け人、江戸木純氏 筆者撮影
<ジャン=ポール・ベルモンド傑作選3>の仕掛け人、江戸木純氏 筆者撮影

「華麗なる大泥棒」は、今回の劇場上映でしか見れません!

 前回(第三回はこちら)に続き、今回の傑作選での目玉といっていい傑作「華麗なる大泥棒」についての話から。

 前回の話に加え、もうひとつ注目してほしい点があるという。

「今回上映するのは、フランス語完全版なんですけど、ここは注目してほしい点です。

 『華麗なる大泥棒』」が日本で公開されたのは1971年のこと。この初公開のときは、フランス語版でした。

 でも、その後、日本ではVHSとDVDが出ているんですけど、これは英語版だった。

 実は、『華麗なる大泥棒』は、最初の段階から英語版とフランス語版を同時に制作していた作品なんです。

 いまはあまりないですけど、その時代はけっこうそういう作品があった。

 『華麗なる大泥棒』は、英語とフランス語のセリフを全部別撮りしているんです。

 なので、英語版はジャン=ポール・ベルモンドが英語でセリフを言っている。(※ただし、最終的に別の声優で吹き替えられたらしい)

 それも悪くはないんですけど、ベルモンドはフランス語がネイティブで、撮っているのもフランス人の監督ですから。

 フランス語版こそがオリジナル版といっていいと思うんですよね。

 で、やっぱりよく見てみると、フランス語版の方が演技がより真に迫るシーンになっている。

 さらにカーチェイスの場面も英語版よりフランス語版の方が長い。全体で11分も長いです。

 あまり詳しく言うとおもしろくなくなってしまうので言えないんですけど、とにかくフランス語版は見せ場をあますことなくみせてくれるところがある。

 音楽をエンニオ・モリコーネが担当していますけど、それもフランス版はがっつり聞かせるバージョンになっている。

 でも、日本では長らく英語版しか見ることができませんでした。

 だからある意味、幻のバージョンでの上映の機会といっていいかもと思っています。

 ちなみに今回の<JPB傑作選3>のために劇場上映権だけ取得しているので、このバージョンの配信やテレビ放送、ビデオ化はありません

 前回の話で触れたように、『華麗なる大泥棒』におけるアクションは、おそらくもう映画で新たにやることは許されない

 そもそも、もう一回やれといわれても、もしかしたらベルモンド本人もできないかもしれないことをやってしまっている

 アテネの街でのカーチェイスだって、もう絶対できない。

 ほんとうにこれは、世界遺産級の映画だと思います。

 この映画をスクリーンで見るということはひじょうに貴重な体験になることをお約束します」

「華麗なる大泥棒」より
「華麗なる大泥棒」より

玄人が唸る!カルト的人気を獲得している「冬の猿」

 この「華麗なる大泥棒」を手掛けたのはアンリ・ヴェルヌイユ監督。今回の傑作選では、彼の監督作品がもう一本上映される。

「『冬の猿』が同じくアンリ・ヴェルヌイユ監督の作品になります。

 アンリ・ヴェルヌイユは、シネフィルの間では決して評価の高い監督ではない。

 でも、実はベルモンドの主演映画を一番多く撮った監督で。

 『華麗なる大泥棒』、『冬の猿』、<JPB傑作選1>で上映した『恐怖に襲われた街』を見ると、いやいや堂々たる名匠であったことがわかる。

 映画のノウハウがわかっているというか。ディテールをぞんざいにしないできっちり描くことで、その物語というより作品世界にきっちりと惹きこんでいく。

 そして見せ場はもうたっぷりで出し惜しみなし。ほんとうに映画の醍醐味を知っている監督だなと今回思いましたね。

 『冬の猿』に関しては、フランスでは1961年に公開されているんですけど、日本ではそのときは公開に至らなかった。

 初めて劇場公開されたのが1996年と、初公開から随分経ってからだったんです。

 そのとき、ひとつの伝説があって。もうお亡くなりになりましたけど俳優の峰岸徹さんが映画館で『冬の猿』をみて、いたく感動して、ひとり立ち上がって拍手をしはじめたら、それが劇場中に波及して、観客全員でのスタンディングオーベーションになったというエピソードが残っています

 決して派手な映画ではないんですけど、そういう痺れて動けなくなる、胸を射抜かれてしまう人がいるカルト的な人気のある作品です。

 いわゆるベルモンドならではのアクションがあるわけではない。でも、俳優、スターとしてのジャン=ポール・ベルモンドの魅力がぎっしりつまっている。

 だから、俳優さんとかがみると、そうなるのかなと。

 あと、キャストでいうと、この映画では、ベルモンドとジャン・ギャバンというフランス映画史を代表する大スターの共演が実現している。

 この二人が唯一共演した映画なんですよね。二大スターの最初で最後の共演作ということでも見逃せない作品です」

(※第五回に続く)

「冬の猿」より
「冬の猿」より

【<JPB傑作選3>江戸木純氏第一回インタビューはこちら】

【<JPB傑作選3>江戸木純氏第二回インタビューはこちら】

【<JPB傑作選3>江戸木純氏第三回インタビューはこちら】

「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選3」ポスタービジュアルより 提供:キングレコード
「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選3」ポスタービジュアルより 提供:キングレコード

「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選3」

新宿武蔵野館、キネマ旬報シアターほかにて公開中。以降、全国順次公開

詳しくは公式サイトへ  https://belmondoisback.com/

「華麗なる大泥棒」の写真はすべて、

(C)THE BURGLARS 1971, renewed 1999 Sony Pictures Television Distribution (France) SNC. All Rights Reserved.

「冬の猿」の写真は、(C) 1961 GAUMONT - Tous Droits Réservés.

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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