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ヘビやサソリが出没!冗談抜きに危険な砂漠にポツンと建つカフェを独り営む肝っ玉おばあちゃんと出会って

水上賢治映画ライター
「サハラのカフェのマリカ」より

 「サハラ砂漠」ときいて、どんな場所を想像するだろうか?

 学校の授業でもだいたい触れられるように、サハラ砂漠は世界最大規模の砂漠地帯。おおよそ長さ2400キロにわたって続く。

 その広大さゆえに、「不毛の地」をイメージしてしまいがちではなかろうか?

 でも、実際は、複数の国にまたがる砂漠には400キロごとに小さな村があり、それをたどるように作られた「ナショナル・ワン」のほか、いろいろな道が存在。日夜多くの人々が行き交う。

 映画「サハラのカフェのマリア」は、そのサハラ砂漠のど真ん中にある、小さな雑貨店を切り盛りする女性店主、マリカの日常が切り取られている。

 そして、そこに、わたしたちはさまざまな世界を見出すことになる。

 カメラを回し始めた経緯から、作品の裏話まで、手掛けたアルジェリアの新鋭、ハッセン・フェルハーニ監督に訊く。(全四回)

ハッセン・フェルハーニ監督
ハッセン・フェルハーニ監督

実際に対話してみて確信。「彼女を次回作の主人公にしよう」

 前回の話(第一回)で、「すぐにマリカを撮りたくなった」と監督は明かした。そこから撮影はどう始まったのだろうか?

「初めて訪れたとき、マリカと都合3時間ぐらい話しました。

 前回お話しした通り、もう出会った瞬間に『ここに映画がある』と思って、彼女と実際に対話してみて、確信しました。『彼女を次回作の主人公にしよう』と。

 でも、そのときは、何も告げずにマリカとは別れました。ただ、ひとつだけマリカに質問したんです。『今度、また会いに来てもいいですか?』と。

 いま考えると断られたらそれで終わりになっていたかもしれないんですけど、幸いなことにマリカは『いつでも戻ってきたらいいわよ』と言ってくれたんです。

 つまり拒まれなかった(苦笑)。

 で、わたし自身はいったん帰宅の途に着いたのですが、その日から寝ても覚めてもマリカのことで常に頭の中がいっぱいの状態になってしまって(笑)。一刻も早くマリカのもとを訪れて、カメラを回したいという思いに駆られました。

 そして、いろいろなことに算段をつけて、2カ月後にようやくマリカの元へ向かいました。そこで、マリカに『あなたが主人公』ということを告げて、そこから撮影が始まりました」

「もっと早くに彼女を主人公にした映画があっていい」と言う人も

 その申し出を、マリカはどう受けとめていたのだろうか?

「わからないですけど、嫌がってはいなかったんじゃないかと思います。

 というのも人が通るたびに、マリカはみんなに言っていたんです。『いま、わたしを主人公に<道>を題材にした映画を撮っているんだ』と(笑)。

 ただ、おもしろかったのは、それを告げられた通りがかりの人たちもとりたてて驚かなかったこと。

 前もお話しした通り、このエリアでマリカは『レジェンド』のような存在で有名人。みなさん敬意をもっている。

 だから、みなさん『彼女が映画の主人公になるのは当然だ』『彼女は映画出演のオファーがあって当たり前』みたいな受け止め方なんです。

 むしろ『遅すぎる。もっと早くに彼女を主人公にした映画があっていい』みたいなことを言う人もいましたね(笑)」

「サハラのカフェのマリカ」より
「サハラのカフェのマリカ」より

協力的で作品に真摯に向き合ってくれるすばらしい主演でした

 主人公としての責任感からか撮影が始まると、マリカからいろいろと提案もあったという。

「基本は自由に撮らせてもらいました。

 ただ、マリカは過不足があってはいけないと考えていたみたいで、たとえば『わたしが昼寝をしているところ撮った』と聞かれて、『撮ってない』というと、そこは撮っておいた方がいいと提言してきてくれるんです。

 そういう提案がけっこうありました(苦笑)。すごく協力的で作品に真摯に向き合ってくれるすばらしい主演でしたね」

彼女の強さと逞しさをみなさん、画面から感じるのではないでしょうか

 マリカはかなり肝っ玉おばあちゃんというか。けっこう毒舌で相手によっては厳しめの言葉も出たりする。ただ、人情味があって、そういう言葉も説教臭くならない。なにか人を包み込む優しさがある。

 実際に向き合ってみて、監督自身は、マリカの魅力をどこに感じたのだろうか?

「この作品が公開されたときのことなのですが、アルジェリアのマリカと同世代、もしくは中高年以上にものすごく好評でした。

 同時に、ちょっと意外だったのですが、アルジェリアの若い世代にも同じぐらい好評だったんです。

 で、一様にみなさんマリカに魅了されて、彼女のファンになっていたんです。

 これは映画をみていただければわかると思いますが、マリカの生命力というか。

 前回もお話ししましたが、半径60キロぐらいなにもないところに彼女は店を構えて、ひとりで暮らしている。

 冗談抜きに危険な場所なんです。ふつうにヘビやサソリがいるようなところですから。

 夜ひとりになると、心細くなって当たり前のような場所なんです。

 でも、そこに彼女はとどまり、気高く生きている。その強さと逞しさをみなさん、画面からひしひしと感じるのではないでしょうか。

 それが彼女の魅力につながっていると思います。

 それとともに、砂漠を旅する人にとっては、彼女の存在であり、彼女の店はひとつのオアシスなのだと思います。

 永遠に砂漠が続くのではないかというところにお店があって、マリカが待っていてくれている。

 それは希望の光のようなもので、それだけで安心できる。

 だからこそ、彼女はこのエリアで『レジェンド』的な存在になっているのだと思います。

 撮影しながらそのことを実感しました」

(※第三回に続く)

【ハッセン・フェルハーニ監督インタビュー第一回はこちら】

「サハラのカフェのマリカ」ポスタービジュアルより
「サハラのカフェのマリカ」ポスタービジュアルより

「サハラのカフェのマリカ」

監督:ハッセン・フェルハーニ

出演:マリカ、チャウキ・アマリほか

ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中

公式サイト https://sahara-malika.com/

写真はすべて(C)143 rue du désert Hassen Ferhani Centrale Électrique -Allers Retours Films

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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