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半径60キロ何もない砂漠にポツンと一軒。1人でカフェを切り盛りする女性店主と出会って

水上賢治映画ライター
「サハラのカフェのマリカ」より

 「サハラ砂漠」ときいて、どんな場所を想像するだろうか?

 学校の授業でもだいたい触れられるように、サハラ砂漠は世界最大規模の砂漠地帯。おおよそ長さ2400キロにわたって続く。

 その広大さゆえに、「不毛の地」をイメージしてしまいがちではなかろうか?

 でも、実際は、複数の国にまたがる砂漠には400キロごとに小さな村があり、それをたどるように作られた「ナショナル・ワン」のほか、いろいろな道が存在。日夜多くの人々が行き交う。

 映画「サハラのカフェのマリア」は、そのサハラ砂漠のど真ん中にある、小さな雑貨店を切り盛りする女性店主、マリカの日常が切り取られている。

 そして、そこに、わたしたちはさまざまな世界を見出すことになる。

 カメラを回し始めた経緯から、作品の裏話まで、手掛けたアルジェリアの新鋭、ハッセン・フェルハーニ監督に訊く。(全四回)

ハッセン・フェルハーニ監督
ハッセン・フェルハーニ監督

アルジェリアは広大な国。

まだまだいろいろなところを訪れてみないといけないことを痛感

 まず本作のはじまりについてこう明かす。

「2016年に発表したわたしにとっては初の長編映画となった『ラウンドアバウト・イン・マイ・ヘッド』を撮り終えた後、すこし旅に出たい気持ちになりました。

 というのも前作で、わたしはアルジェリアのある一面を見つめました。

 そのことである意味、アルジェリアは広大な国で、まだまだいろいろなところを訪れてみないといけないことを痛感したというか。

 旅に出て、アルジェリアをめぐっていろいろな土地に足を運び、いろいろな人と出会って話をしてみたいと考えたんです。

 それからひとりの作り手として、こういう思いもありました。『ロードムービーに挑戦してみたい』と。

 それで、わたしは新たな物語や場所、キャラクターを探しに、旅に出ました。

 その中で、友人のコラムニストで、時に俳優でもあるチャウキ・アマリと一緒に出た旅が今回の作品のひとつの起点になりました。

 それは、アルジェからアイン・セフラまでのアルジェリア南東地域を旅して、そこからサハラ砂漠の中心に行ってアルジェからタマンラセットを繋ぐルートのナショナル・ワンを目指す旅でした。

 で、実はチャウキがアルジェリアについて書いた本があって、その中で、砂漠の守り人、マリカの存在に触れている。

 ただ、わたしはその本を読んだ当時というのは、マリカもそこに集う人たちも現実世界に存在するとは思えないというか。

 文学の中の世界のことで幻想に近い存在で、実在することがちょっと信じ難かった。とくにマリカは。

 そう思っていたのですが、旅をする中でマリカがいる場所からだいたい400キロぐらい離れた場所を訪れた。

 そのときに僕の中では文学の中でとどまっていたマリカに『ここまできたら、実際に会ってみたい』と思ったんです。

 それでサハラ砂漠のど真ん中に向かうことにしました」

彼女ほど『映画的』と思う人は初めてでした

 こうして、マリカと出会うことになる。その瞬間、この作品はスタートしたという。

「『こんなに強烈な出会いがあるのだろうか?』と思うぐらい、マリカとの出会いはインパクトの大きいものでした。

 これまでわたしは『しばらくカメラで追ってみたい』と思わせる魅力的な人物に数多く出会ってきました。

 でも、彼女ほど『映画的』と思う人は初めてでした。

 正直なことを言うと、マリカがどれほどユニークで魅力的でおもしろい人物であるかは、未知数で。映画的な観点からすると、どんな作品になるのか想像はできなかった。

 でも、彼女のカフェに足を踏み入れた瞬間、わたしは『ここに映画がある』と直感で確信したんです。

 で、そのときにわたしがイメージしていた次回作の構想。

 たとえば、アルジェリアという国の広大さやさきほど言ったようなロードムービー、そういった題材がここにはすべて備わっていると思いました。

 そして、マリカがほんとうにアルジェリアという国をある意味、体現している人物に感じられました。

 なので、マリカと顔を合わせた瞬間に、彼女を主人公にして作品を撮りたいと思いました」

わたしの次回作の主人公は「彼女しかいない」と思いました

 そのときのマリカの第一印象をこう明かす。

「彼女のお店に到着したとき、マリカはちょうどお店の窓に向かって座っていた。

 なにか『起きていることはすべてわかっている』ともいっているように外を見ていた。

 その光景がすごく映画的で、すぐにでも彼女を撮りたいと思いました。

 この光景は、いまでも鮮明にわたしの頭の中に記憶されています。

 また、中に入ってみると、その窓から見える風景がまたすごく映画的で、映像として『残したい』と思えるぐらい美しかったんです。

 それから、マリカはここで雑貨店を営みながら20年以上住んでいるんですけど、周りにはほんとうになにもないんです。

 実際に行ってわかったのですが、半径60キロぐらいなにもないところにマリカの店はある。

 そんなところに女性でひとり住み続けていることにも驚かされました。

 あと、それだけ長く住んでいるので、マリカとお店を通る人々とはもう関係性ができていて、映画をみてもらえればわかるように顔見知りなんです。

 その中で、みんなが、マリカをことを『レジェンド』のような存在として敬意をもっていることも強い印象に残りました。

 こういうことひとつひとつを感じ取って、もうわたしの次回作の主人公は『彼女しかいない』と思いました」

(※第二回に続く)

「サハラのカフェのマリカ」ポスタービジュアルより
「サハラのカフェのマリカ」ポスタービジュアルより

「サハラのカフェのマリカ」

監督:ハッセン・フェルハーニ

出演:マリカ、チャウキ・アマリほか

ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中

公式サイト https://sahara-malika.com/

写真はすべて(C)143 rue du désert Hassen Ferhani Centrale Électrique -Allers Retours Films

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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