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いまのテレビでは出演NGの人気芸人を密着取材。萎縮する一方のテレビの存在意義に危機感を抱いて

水上賢治映画ライター
「テレビで会えない芸人」の四元良隆監督(左)と牧祐樹監督(右) 筆者撮影

 鹿児島テレビがテレビではなく劇場版として届けるドキュメンタリー映画「テレビで会えない芸人」は、タイトル通り、ひとりの芸人を追っている。

 その芸人の名は、松元ヒロ。

 かつて社会風刺コント集団「ザ・ニュースペーパー」で彼は数々のテレビ番組に出演していた。

 しかし、ある意味、テレビという場に見切りをつけて、1990年代末に活躍の場を舞台へと移す。

 そんなテレビに出なくなった芸人を、テレビカメラが追っている。

 ただ、本作は、ただ単に芸人を追った人間ドキュメントではない(※人間ドキュメントとしても側面をもってはいる)。

 ひとりの芸人からみえてくるのは、テレビというメディアの現状にほかならない。

 なぜ、松元ヒロはテレビで見ることができないのか?

 政治や社会問題を風刺する彼の芸を、テレビで流すことはほんとうに許されないのか?

 さまざまな問いが浮かんでくる。

 松元ヒロと時間を共有したテレビマンは何を感じ、何を見たのか?

 手掛けた鹿児島テレビの四元良隆、牧祐樹の両監督に訊く。(全五回)

テレビのいま、これからを含めての危機感

 前回(第二回)の終わりでは、松元ヒロさんの撮影取材を始める中で、「自らが身を置く『テレビのいま』と向き合うことになった」と明かした二人。

 四元監督の中では、少し前からいまのテレビへの危機感があったという。

四元「僕がテレビ局に入ったのは二十数年前になります。

 いま考えると、そのころから、ひょっとしたらだんだん自主規制がかかり始めていた気がします。

 たとえば、ひとつ無謀な挑戦をしようとする番組があったとします。

 少し前までだったら、『それ無茶しすぎだけど、アイデアとしてはおもしろい、こういうやり方だったら実現できるかもしれない』みたいな、どのテレビマンにも受け止める余地があった。少なくとも『おもしろい』と思える土壌があった気がします。

 でも、いまは、違う。『それ大丈夫ですか?』『抗議が来ませんか?』『危なくないですか?』と心配が先に来る。そういう状態になっています。

 昔を懐かしむわけではないんですけど、以前は何か『おもしろいものを作ってやろう』みたいな熱い気概があった。

 そういう情熱みたいなものがテレビの世界では急速になくなってしまっているような気がします。

 すべてが無難なことに流れていって、それとともに表現と言論の自由もどんどん狭まっている

 優先順位の1位が「抗議がこないこと」で、それで視聴率を獲れというのは、すごく矛盾していると思うんです。

 議論を呼ばない波風たたないもので、人の興味をひきつけるって、相当難しい

 一方、いろいろと問題はありますけど、ウェブやネットの世界では、テレビで扱われなくなったきわどいことにもどんどん切り込む記事やコンテンツがアップされる。

 ネットで盛り上がって話題を集め、それを受けてようやくテレビでもとりあげるような状況になっている。

 そこで僕は正直思います。『果たして、いまのテレビに存在意義はあるのだろうか?』と。

 ひとつの非難に対して、テレビは怯えすぎてはいないか、こういう状況の中で、わたしたちはこれからどういう番組を作っていけばいいのか?

 テレビのいまもそうですけど、これからを含めて危機感を抱いていました。

 そのいまの現実をひとつ露わにするとともに、これからを考える機会になるのではないか?

 そういう思いが、今回のドキュメンタリーに取り組むにあたってありました」

「テレビで会えない芸人」より
「テレビで会えない芸人」より

あくまでの話ですけど、大手キー局だったら、

この企画は通らなかったのではないか

 また、こういう思いもあったと明かす。

四元「あくまでの話ですけど、おそらくいわゆる大手キー局だったら、この企画は通らなかったのではないかと思います。

 ただ、僕らはローカル局で、まだ許される余地がある。

 取り組める余地があるのだから、取り組んでみて、テレビ業界全体で、現状とこれからを考えるきっかけになるような作品になればとの思いもありました」

自らも属するテレビに刃を向けることにはためらいはなかった

 それは、いわばテレビというメディアに自ら刃を向けることになる。

 厳しく当たればそれはそれで自局の間でもテレビ界全体でもハレーションを起こすことになりかねない。

 甘ければ甘いで自己を正当化しているに過ぎないとの指摘を受けかねない。

 その領域に踏み込むことにためらいはなかったのだろうか?

四元「僕自身は自らも属するテレビに刃を向けることにはためらいはなかったです。

 自分はこれまでいろいろな人にカメラを向けてきた。

 だから、自分にとって不都合なことになるかもしれないと逃げてカメラを向けないとなってしまっては、これまで自分が取材してきたことまでも否定してしまうことになる。

 だからテレビであり、テレビマンとしての自身に刃を向けないとと思いました。

 ただ、テレビで放送したバージョンに関しては、テレビの現状に関して鋭く言及するまでには至らなかった。

 なにか萎縮して自主規制している面をみせればみせるほど、言い訳がましく見えてきて嫌だなと感じたんです。

 だけど、今回、映画にしようとなったとき、やはりテレビの問題をきちんと、言い訳にみえてもいいから、露わにしたほうがいいと舵を切りました」

「僕もためらいはなかったです。

 これまで自主規制も、忖度(そんたく)もしない作品をずっと届けてこれたかといったらそんなことはない。

 だから、僕自身もこのヒロさんとの出会いをきっかけに、テレビの存在を今一度考えたかった。

 作品の最後に触れることなので、詳細は明かせないんですけど(笑)、テレビに対して刃を向けると言う意味では、ラストの表現がひとつ象徴としてあると思うんです。

 あれは、すべてのテレビ局に向けていっていることでもありますけど、なにより自分たちに対して突きつけているところがある。

 そこは自分もきちんと受けとめないといけないと思ったし、そこが各局のテレビマンにも届けばいいなとも思いました。

 だから、ためらいはなかったです」

四元「ラストカットについていうと、自らでありテレビに刃を向けてはいるんですけど、マスコミ批判というよりは、自分たちの決意というか。

 いまは、僕らはこれぐらいしかできませんけど、テレビで会えない芸人が、いつかテレビで会える芸人になるように、一歩ずつでいいから頑張っていきたいとの思いが入っています」

「そうですね。

 松元ヒロさんにいまテレビで会えない事実がある。

 なぜ、彼をテレビで見ることができないのか?

 『その意味をみんなで考えてみましょう』という思いがあります。

 こういう芸人さんがテレビから消えてしまった事実をみんなで考えられればと。

 みんなの中にはもちろん自分も入っていますし、鹿児島テレビも、他局のテレビマンも、そして視聴者の方々も入っていて。

 みんなでいまのテレビについて考えられればとの思いがあります」

(※第四回に続く)

【四元良隆監督×牧祐樹監督インタビュー第一回はこちら】

【四元良隆監督×牧祐樹監督インタビュー第二回はこちら】

「テレビで会えない芸人」より
「テレビで会えない芸人」より

「テレビで会えない芸人」

出演:松元ヒロ

監督:四元良隆 牧祐樹

プロデューサー:阿武野勝彦

撮影:鈴木哉雄 編集:牧祐樹 音響効果:久保田吉根 音楽:吉俣良

制作:前田俊広 山口修平 金子貴治 野元俊英 崎山雄二 荒田静彦

クレジットアニメーション:加藤久仁生

全国順次公開中&上映会受付中

公式サイト → https://tv-aenai-geinin.jp/

場面写真はすべて(C)2021 鹿児島テレビ放送

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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