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常に愛想笑いをしてしまう自分が嫌でたまらない20代の女性を演じて。「自分のことだと思いました」

水上賢治映画ライター
「まっぱだか」で主演を務めた津田晴香  筆者撮影

 神戸にある元町映画館が開館10周年を迎えて製作した映画「まっぱだか」は、もはや必然ではないかという男女のめぐり逢いの物語だ。

 めぐり逢うのは、神戸の街の片隅で生きる俊とナツコ。

 恋人を失った過去からまったく立ち直れない俊は、毎夜浴びるほど酒を飲んでは酔いつぶれている。

 役者志望のナツコは、周囲から求められ押し付けられた「明るく元気」というイメージに嫌気が差しながら、その期待を裏切らないよう振る舞う自分という人間にストレスを抱えている。

 いつからか心から「笑う」ことを忘れてしまった二人が、「互いにそのとき最も必要だった存在」としてめぐり逢うことになる。

 「めぐり逢い」とするとなんだかロマンチックな出会いを想像してしまうが、そうではない。

 すれ違いのラブロマンスでもない。

 深く傷つき、失意を抱え、やり場のない孤独の先の日常に起きた「ささやかな奇跡=めぐり逢い」といったほうが近いかもしれない。

 俳優としても活躍する安楽涼と片山享が共同監督で作り上げた本作でヒロイン・ナツコ役を射止めた津田晴香に訊く。(全四回)

「まっぱだか」で主演を務めた津田晴香  筆者撮影
「まっぱだか」で主演を務めた津田晴香  筆者撮影

安楽監督と片山監督の作品に出ることを目標に俳優業を頑張っていこう

 前回(第一回)、安楽、片山の両監督のファンであったことから、出演の話がきたとき、喜んだのも束の間、すぐに「不安になった」と明かした津田。

 対して、安楽と片山の両監督は、元町映画館から今回の話が入ったとき、神戸で撮るならば地元の俳優に出演してほしい。男女の物語にしたいとなって、ヒロイン役として真っ先に名前が挙がったのが、津田晴香だったと明かしている。

「ありがたいことです。

 ほんとうに、安楽監督と片山監督の作品に出ることをひとつの目標にして俳優業を頑張っていこうと毎日に臨んでいました。

 自分がきちんとキャリアを積んで演者として力をつけていけば、いつか声をかけてくれる日が来るのではないか、と。

 だから、正直、お話をいただいたときは、『こんなに早く自分の目標でありひとつの夢が叶ってしまっていいのか?』との思いもあったんです。

 当時、即決で『お願いします』と返事をしたものの、心の中は『あ、出演するって言ってしまった、どうしよう、どうしよう!そんな力がわたしにある?』とてんぱっていました(笑)。

 それから、風の噂で(笑)、安楽監督も片山監督もいい作品を作るためには妥協しない、演技に対しても厳しいときいていて。

 それは作品をみてもうすうす感じていたんです。あんな心の叫びのような演技を引き出すためには、やはり厳しさが必要で。

 生ぬるい現場ではない、真剣勝負の場であると思っていた。

 まだまだキャリアの浅いわたしなんかは、絶対にめっちゃ怒られるんだろうなと思うと、ちょっと腰が引けるというか。

 その厳しさを自分が乗り越えられるのか、わからない。

 だから、自分で覚悟を決めて臨まなくてはとも思いました」

実際に演じていく中で、ナツコという女の子がみえてくるのかなと

 こうして出演が決まり、津田はナツコを演じることに。脚本の第一印象は正直、うまくつかめなかったと明かす。

「いまだから言えるんですけど、あまりよくわからなかったんです。

 『これはどういうことなんだろう?』と一生懸命考えるんですけど、全然答えが見つからない。

 だから、正直に脚本をメインで手掛けられた片山監督にいったんです。『よくわからないところがあるのですが?』と。

 すると、片山監督は『実際に演じてみてわかることもあると思うよ』と言ってくださった。

 だから、演じる前にいろいろと考えることも必要だけど、それでわかった気になってしまってはいけないのかもしれない。

 考えて理解したつもりになるよりも、実際に演じていく中で発見したことや感じたことを大切にした方がいいのかなと思いました。

 実際に演じていく中で、ナツコという女の子がみえてくるのかなと思って。

 とりあえず、自分と二人の監督の言葉を信じてやっていこうと思いました」

「まっぱだか」より
「まっぱだか」より

これは紛れもない、津田晴香、わたしだと思いました

 ただ、すぐにこういうことも感じとったと明かす。

「これは『わたしのことだ』と思いました。

 役名はナツコとなっていますけど、これは紛れもない、津田晴香、わたしだと思いました」

求められる津田晴香の像と、自分の考える津田晴香の像との間に

そうとうな開きがあって、苦しんでいた

 実は、出演が決まった直後、片山監督からいろいろと話を聞かれる機会があったという。

 そして、片山監督自身は、ナツコ役について津田晴香が当時抱いていた悩みや葛藤を『そうとう当て込んだ』と明かし、『かなり本人に近い役になった』と語っている。

「そうなんです。

 事前に片山監督とものすごくお話ししたんですよ。いろいろなことを。

 といいながらも、うまく話せなくて。ほんとうに片山監督がかなり汲み取ってくれた。

 正直、いまでもわたしは自分自身のことがよくわからないし、どういう人間かと問われたら、うまく答える自信がない。

 ただ、そのころ、いまもまだ完全に解消はできていないんですけど、世間からみられる、あるいは求められる津田晴香の像と、自分の考える津田晴香の像との間にそうとうな開きがあって、そこに苦しんでいたんです。

 もう、ナツコにそのまんま反映されているんですけど、常に愛想笑いをしてしまうというか。

 ほんとうは違うと思っていても、それを言うと、なんとなく周囲からみられているいい人イメージみたいなものを壊すようで怖い。

 だから、本心を言えない。また、ほんとうの自分を出したところで、受け入れてはもらえないだろうと思いもあって、結局、笑ってその場をやり過ごす。

 そういう自分が嫌でたまらなかった。

 そういうことを直接的に片山監督に話したわけではないんですけど、完全に見透かされて(苦笑)。

 ナツコのいろいろなところに反映されていた。

 だから、ナツコは『わたしだ』と思ったんです」

(※第三回に続く)

【津田晴香インタビュー第一回はこちら】

「まっぱだか」ポスタービジュアル
「まっぱだか」ポスタービジュアル

「まっぱだか」

監督:安楽涼、片山享

出演:柳谷一成、津田晴香、安楽涼、片山享、

タケザキダイスケ、大須みづほ 他

脚本:片山享、安楽涼

撮影:安楽涼、片山享

録音・整音:杉本崇志

音楽:藤田義雄 主題歌:Little Yard City「Walk With Dream」

新宿ケイズ・シネマにて公開中

ポスタービジュアルおよび場面写真は(C)元町映画館

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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