Yahoo!ニュース

働けなくなったらお払い箱、人を人として扱わない日本の現実。「この問題に興味をもってもらえたら」

水上賢治映画ライター
「海辺の彼女たち」の藤元明緒監督(右)と渡邉一孝プロデューサー 筆者撮影

 デビュー作「僕の帰る場所」が世界30以上の映画祭を巡った藤元明緒監督の最新作「海辺の彼女たち」は、ベトナム人女性3人を主人公にしながら、いまの日本という国が透けて見えてくる、いや、できれば見たくないことを見せつける1作といっていいかもしれない。

 この物語で描かれることは、意識はしていないかもしれないが、実は知らず知らずのうちに自分たちが加担しているかもしれない、あるいは自分には関係ないと無視を決め込んでいるかもしれない、そんな事柄ばかりだ。

 ゆえに、観終えたとき、後味の悪さが残るかもしれない。でも、きちんと真正面からみなければいけない現実がここにはある。

 そして、この度、藤元監督が大島渚賞を受賞。間があいてしまったが、藤元監督と渡邉一孝プロデューサーの話から作品を紐解くインタビューの最終回となる第3回(第一回第二回)を届ける。

今回が初めて顔を合わせたメンバーだったら、こういう作品にできなかった

 最後はまず二人の映画作りについてから。「僕の帰る場所」今回の「海辺の彼女たち」とほぼ同じメンバーが揃ったこの座組を大切にしていきたいという。

藤元「よく映画では、監督の名をとって何々組っていうじゃないですか。そう言うことがようやく理解できたというか。座組はすごく大切だなと今回痛感しました。

 というのも、たぶん、今回が初めて顔を合わせたメンバーだったら、こういう作品にできなかったと思うんですよね。

 前回の蓄積があったから、スタッフの間で認識が共有できて可能にしたことが多々あった。

 たとえば、長回しひとつとっても、前回の前提があったから、僕の狙いやどういうものにしたいのかをスタッフが察知してくれて、そうなるように動いてくれた。

 キャストのみなさんはちょっと怒ってましたけど、『いつ終わるんだ』と(笑)。

 こういうスタッフ間の意思の疎通は映画作りにおいてひじょうに重要で。座組をめちゃくちゃ強化したほうが、いい作品を作り上げる近道になるんじゃないかと思いました」

渡邉「プロデュースを担当する側としても、そのほうが話が早かったりする。

 たとえば、今回は青森県の外ヶ浜町にご協力いただいたんですけど、僕らは外ヶ浜町で映画を撮ったことはないわけです。

 そうなるといちから関係を作らないといけない。となったとき、相手に自分たちのことを理解してもらうのに1番手っ取り早いのは、過去の同じ座組でつくった作品で観てもらうことで。

 作品が1つあれば、いろいろと説明がついて、相手もわかってくれるんですよね。そういう意味でも、座組の強化は大切だと思います」

「海辺の彼女たち」より
「海辺の彼女たち」より

こういう合作映画がもっとあっていいと思うんです

 今回の作品は、日本とベトナムの合作映画。日本とどこかの国の合作映画となると、日本人俳優と海外スターの共演やバジェットの大きさといったことがクローズアップされがちだ。

 これは失礼にあたるかもしれないが、本作には、そういった華やかさや、煌びやかさ、合作映画にイメージしがちな壮大なスケール感はない。

 しかし、それに代わって、日本のローカルエリアとベトナム、日本人とベトナム人が作品を通してつながるような本来の合作のあるべきコラボレーションがなされている。

 シンプルにこういう合作映画がもっとあっていいと思う。

渡邉「ほんとうに、こういう合作映画がもっとあっていいと思うんです。

 合作映画というと、ある国とある国のスターを共演させて、ビッグバジェットでみたいなイメージがありますけど、僕らのようなやり方があってもいい。ハードルが高く思いがちですけど、僕らぐらいのバジェットでインディペンデントでもきちんと成立させられる。

 あと、今回のように青森の外ヶ浜町というローカルな港町がベトナムとつながるというのは、すごくすてきなことなんじゃないかなと思うんです。

 こういう出逢いって、そうそうあることではない。1本の映画で、おそらく外ヶ浜の方たちはベトナムを身近に感じると思う。

 また、かかわってくれた人は、映画作りを身近に感じると思うんです。

 これってすごく大切なことで、映画の未来につながっていく気がするんです」

藤元「こういう映画がもっとあっていいと僕も思う。

 だから、ひとりでも多くの人にみてほしい。『こういう合作映画があるんだ』と一般のみなさんには知ってほしいし、作り手には『こういう合作映画を作りたい』と思ってもらえたらうれしいです」

「海辺の彼女たち」より
「海辺の彼女たち」より

技能実習生の問題について知って、少しでも興味をもってもらえたら

 ここまで寄せられた反響でうれしかったことを二人は最後にこう明かす。

渡邉「登場する3人の若いベトナムの女性に心を寄せてみてくださってくれている人が多くてうれしい」

藤元「寄り添ってみてほしいとの思いを込めての手法を使ったところがあるので、そう感じてもらえる人が多いのはうれしいですね」

渡邉「9割方、ベトナム語なのに、日本の多くの人に寄り添ってもらえている、他人事だと思わないでいてもらえているのは、すごいことだと思うんです。

 日本語ではなくても共感してくれて、彼女たちの想いが伝わっている。

 言葉や国を超えて届いている手ごたえがあって、これからそういう人がもっと増えてくれたらと思っています」

藤元「海外から日本に働きにきた人たちにこういう現実がある。厳しい現状で実際に命を落としている人もいる。

 そういうことがこの作品からどれだけ感じ取ってもらえるかわからないですけど、技能実習生の問題について知って、少しでも興味をもってもらえたらと思います」

【藤元明緒監督×渡邉一孝プロデューサー第一回インタビューはこちら】

【藤元明緒監督×渡邉一孝プロデューサー第二回インタビューはこちら】

「海辺の彼女たち」より
「海辺の彼女たち」より

「海辺の彼女たち」

脚本・監督・編集:藤元明緒

出演:ホアン・フォン、フィン・トゥエ・アン、クィン・ニュー ほか

詳細は公式サイトにて → https://umikano.com/

筆者撮影以外の写真は(C)2020 E.x.N K.K. / ever rolling films

提供:ぴあフィルムフェスティバル
提供:ぴあフィルムフェスティバル

藤元明緒監督 大島渚賞 受賞!

<第3回大島渚賞 記念上映会>

日時:2022年4月3日(日) 13:00開映

会場:丸ビルホール

■タイムテーブル(予定/途中休憩あり)

12:30~ 開場

13:00~ 『海辺の彼女たち』上映

14:40~ トークショー

藤元明緒監督(第3回受賞者)×黒沢清氏(映画監督)×大島新氏(ドキュメンタリー監督) MC:荒木啓子(PFFディレクター)

15:40~ 『絞死刑』上映

17:40頃 終映予定

■TICKET

チケットぴあにて発売中!(Pコード:552-037)

一般 2,500円、学生 1,500円

【購入はこちらから】

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

水上賢治の最近の記事