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これは男女の究極愛なのか?それとも歪んだ愛憎なのか?人間の一筋縄ではいかない心に目を向けて

水上賢治映画ライター
「愛のまなざしを」より

 この男女の関係を、どう受けとめればいいのか?

 ある意味、社会通念としてある愛情の在り様を根本から覆す、男女のひりひりするような愛の行方が描かれるのが万田邦敏監督の「愛のまなざしを」だ。

 現在公開の続く本作については、先日、ヒロイン・綾子を演じる一方で、プロデューサーも務めた杉野希妃のインタビュー(第一回第二回第三回)を届けた。

 続いてご登場いただくのは万田邦敏監督。寡作ながら心をざわつかす映画を発表し続ける万田監督に話を訊くインタビューの第二回へ。(全二回)

 前回(第一回)は主に今回の物語について訊いた。

ずっと仲村さんともう一回はご一緒したいと思っていました

 今回はキャスティングについての話から。

 作品は、妻の死を受け入れ切れていない精神科医の貴志と、モラハラの恋人に連れられ患者としてやってきた綾子の物語。

 妻の死に罪悪感を抱き続けている貴志と、彼の診察に救われ、愛を求めるようになった綾子の関係の行方が描かれる。

 主人公となる悲壮感が常に漂う貴志は、仲村トオルが演じた。

 仲村は、『UNloved』『接吻』に続く出演。万田監督作品を語る上で欠かせない俳優といっていい。

「貴志に関してはもう仲村さん前提でのあて書きです。

 希妃さんから話が来たときに、仲村さんにお願いしたいと言いました。

 ずっと仲村さんともう一回はご一緒したいと思っていましたから。

 『UNloved』ではじめてお会いしましたけど、そのときはたまたまというか。

 僕はちょっと二の足を踏んだんですけど、妻がこの役は仲村さんがいいと言い張りまして(笑)。

 それでお願いしたら、好運にも引き受けてくださった。

 『接吻』のときは今回と同じでほぼあて書きで。もう仲村さんにやっていただくこと前提で始まっていました。

 その『接吻』から随分と時間が経ってしまったんですけど、仲村さんとのお付き合いは続いていて。

 お芝居を何度か観にいき、楽屋にちょっとお邪魔させていただいて少しお話したりして、関係は途切れないでいたんです。

 そういうこともあって、もう一度、ご一緒できるチャンスがあればなと常々思っていました。

 その願いが今回叶いました。

 仲村さんもほんとうに俳優としてすばらしいキャリアを築きあげていますけど、今回はまた違った側面が出せればなと考えていました。

 僕自身は、仲村さんのいままでにない面を引き出すことができた手ごたえがあるので、テレビや舞台とはまたひと味違う『仲村トオル』に出会ってもらえるのではないかと思っています」

「愛のまなざしを」の万田邦敏監督 筆者撮影
「愛のまなざしを」の万田邦敏監督 筆者撮影

杉野さんは、ファム・ファタールにみえて、

実はファム・ファタールではない女性を演じ切ってくれた

 一方、得体の知れないヒロインとして強烈なインパクトを残して存在する綾子は、杉野希妃が演じた。

「綾子はそうとう難しい役で、とらえどころがない人物ですから、はじめどうしようかとなったんです。

 で、考えれば考えるほど、プロデューサーと兼務で大変だと思うんですけど、作品に最初から携わっている杉野さんが演じるのがしっくりくる。

 本人は『わたしでいいのか』と悩まれたようですけど、最後は『やります』とおっしゃってくれました。

 気持ちを理解しようにも簡単ではない。何を考えているのかわからないというか、もしかしたら何も考えていないかもしれない。

 本能の赴くまま突き進んでいくようなヒロインですから、演じるにも戸惑っただろうしプレッシャーもそうとうかかったと思います。

 でも、さすがで、きちんと綾子として立ってくれて、すばらしかった。

 ファム・ファタールにみえて、実はファム・ファタールではない女性を演じ切ってくれたと思っています」

「愛のまなざしを」より
「愛のまなざしを」より

不条理なことをやろうとはまったく思っていない

 作品に話を戻すと、「UNloved」「接吻」、そして今回の「愛のまなざしを」ともに、ちょっと理解し難い人間の行為や感情に言及している。

 それは人としてなかなか認めたくない、あってほしくない行為や感情ともいえる。

 ゆえに、このことを認めていいものなのか、納得してしまっていいものか、と心が揺さぶられる。

 でも、一方で、人間の奥底にはこういう感情や衝動が眠っているのではないか、こういう男女の愛の在り方だってあるのではないかと、深く思いを巡らせることにもなる。

 好き嫌いではない、この行為を肯定していいのか、否定すべきではないか。

 万田監督作品が賛否分かれる理由は、そういうところにあるような気がする。

 いまは、あらゆることが短絡的に判断され、全肯定か全否定か、ジャッジされ、それもたったひとつの事柄で、ひっくり返るような時代。

 いつの時代もそうではあるが、ごく少数の声はかき消される。

 その中で、万田監督作品は、少数かもしれない、必ずしも肯定的には受け止められない、そういう人物やその声と丹念に向き合う。

 そして、そうした人間や声がこの現実に存在していることを描き出す。

 そのことは一貫しているといっていい。

「結局、僕自身が子供のころ、あるいは、青年のころに見てた映画がそういう映画でしたからね。社会になじめないとか、社会に反抗するとか。

 それを見て、面白いなって思って、映画を撮りたいなって思い、僕にもこんな映画が撮れるのかと思って、映画作りを始めましたから。

 だから、実は、ものすごくクラシカルな映画なのではないかと思います。『愛のまなざしを』の内容もテーマも。

 でも、僕はそれをやりたくて作ってるし、それを現代の人がどういうふうに見てくれるのかと思っています。

 よく『不条理な作品ばかり』と言われるんですけど、不条理なことをやろうとはまったく思っていない。

 人の気持ちなんて、その瞬間瞬間でコロコロ変わるし、自分でも思いもしない突拍子もないことをしてしまうことがある。

 そういう人間の一筋縄ではいかない複雑な心模様というか、その人の強さや弱さ、心の中にある危うさや怖さといったことにつぶさに目を向けていくとそうなっている。

 それだけなんです(笑)」

「愛のまなざしを」より
「愛のまなざしを」より

教える立場になって、映画を勉強し直しました(笑)

 近年、自主映画の周辺を取材していると、万田監督のゼミを受けた学生に会う機会が増えた。

 後進の指導にも精力的に携わる万田監督だが、自身の映画作りにも影響を与えているのだろうか?

「僕自身の映画への向き合い方が大きく変わったといっていいぐらい影響を受けています。

 僕が映画の講師を最初に務めたのは映画美学校でした。

 このとき、ちょうど40歳ぐらいで、まだ『UNloved』を撮る前のことだった。

 当時の美学校の講師陣は、僕にしろ、黒沢(清)さんにしろ、青山(真治)君にしろ、塩田(明彦)君にしろ、篠崎(誠)君にしろ、商業映画を撮っていたのは黒沢さんだけじゃなかったかと思います。

 いわゆる商業映画デビューをまだしていないメンバーで、さあ、生徒たちに教えるとなったときに、おそらく僕だけじゃなく、みんなが一斉に映画の勉強を始めたんですよ。

 しかも大真面目に映画について勉強し直した(笑)。

 それぞれ猛勉強して、講師仲間で集まって話して、さらに知見を深める。

 美学校で講師を始めて最初の5年ぐらいは、生徒よりも講師が映画の勉強をしていたと思います。

 当然ですけど、映画のことをほんとうに生徒に真剣に伝えるためには、なにより自分たちが映画について勉強して学んでおかなくてはいけない。

 このとき、一生懸命勉強したことが僕の映画作りのベースになっていることは間違いない。

「愛のまなざしを」より
「愛のまなざしを」より

 それと、当時の講師陣は僕をはじめとする立教大学出身者と、早稲田大学出身者が中心で。

 立教と早稲田だと映画に対する考え方がやっぱりちょっと違っていて。

 たとえば芝居の作り方とか脚本の作り方とか、早稲田の方の話を聞くと『そういう考え方があるのか』って気づくことがあり、そういうことで自分の視野が広がったこともありました。

 この映画美学校の講師を経て、50歳ぐらいになったとき、母校の立教大学現代心理学部映像身体学科教授を務めることになるんですけど、実習の科目がたくさんある。

 それぞれの実習科目で、学生たちが少人数のグループに分かれてひとつの作品を作っていく。

 その中に、僕も指導ということで入っていく。すると、いろいろと気づくんですよ。

 やっぱり現場って、頭で考えるだけとは違う。

 実際に体を使って動いて、その場の空気や時間を感じると、いろいろなアイデアが生まれてくる。

 その場で、どうすればいいのか、一生懸命考えることになる。

 また、自分の現場ではなく、指導として立ち合うことになると、客観的な視点に立てて、自分の現場ではみえなかったことにいろいろと気づくんです。

 だから、僕は教える立場になったことで、ほんとうに映画に対する考え方も、芝居に対する考え方も、演出に対する考え方も変わりました。

 ほんとうにこういう場をもてたことにいまは感謝しています。

 あと、自分のゼミの学生たちが監督になっていくというのは、やはりうれしいですよ。

 それは自分が指導したからとかではなく、おもしろい映画を作る存在が身近にいてくれることがうれしい。

 やはり自分も負けてられないと思うし、刺激を受けて、こちらの映画作りのモチベーションもあがりますから」

まだ老け込む必要はないのかなと思っています

 気づけば万田監督も60代半ばを迎えた。今後をどう見据えているのだろうか?

「さすがにいい歳になってきたなと思いますけど、世界を見渡せば僕よりはるか年上の(クリント・)イーストウッドもまだ撮ってますし、まだ老け込む必要もないのかなと思っています。

 今年で立教大学教授職については定年で、少し時間もできると思うので、自主映画でもいいから作りたいなっていまは思っています」

「愛のまなざしを」ポスタービジュアル
「愛のまなざしを」ポスタービジュアル

「愛のまなざしを」

監督:万田邦敏

脚本:万田珠実 万田邦敏

出演:仲村トオル 杉野希妃 斎藤工 中村ゆり 藤原大祐

公式HP:aimana-movie.com

全国順次公開中

場面写真およびポスタービジュアルはすべて(c) Love Mooning Film Partners

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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