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宿題もテストも通知表もない!学校に出合って。大人が信じて見守ると子どもは本領を発揮する!

水上賢治映画ライター
「屋根の上に吹く風は」の浅田さかえ監督 筆者撮影

 10月2日(土)にポレポレ東中野で公開がはじまると満員御礼の好スタート!

 現在全国順次公開中のドキュメンタリー映画「屋根の上に吹く風は」は、鳥取県の山あいにある、とある学校の日常の記録だ。

 ただ、わたしたちが思い描く「山村の学校」とはおそらくイメージがかなり違う。

 というか、そもそも、わたしたちがイメージする「学校」そのものからもかけ離れているというか。

 「生徒が一斉に登校して、教室で数十人が一律で同じ授業を受ける」といった通常イメージする学校とはまったく違う。

 豊かな自然に抱かれた、鳥取県智頭町にある「新田(しんでん)サドベリースクール」は、アメリカにあるサドベリー・バレー・スクールをモデルに、子どもたちの主体性を尊重した教育を目指すデモクラティックスクール(民主主義の学校)。

 カリキュラムやテストはなく、通知表のような学業の評価もしない。そもそも教師もいなければ、授業もない。

 子どもたちの意見が最大限尊重され、彼ら自身が好奇心に沿った遊びや体験からそれぞれ何かを学んでいく。

 スクールのルール作りから、運営、スタッフの雇用などもすべて子どもたちの同意のもとで決められ、大人はそれを見守り続ける。

 子どもたちがいろいろなことを自分で考え、自分で行動し、自分で決める。

 もちろん学校は本来、子どもが主役ではあるが、おそらくここまで子どもたちに多くが委ねられた学校はなかったといっていいかもしれない。

 新田サドベリースクールとは、どんな学校なのか?そこからなにが見えてくるのか?

 同校に約1年半にわたって通い、本作を作り上げた浅田さかえ監督に訊くインタビュー(第一回第二回)の第三回へ入る。(全三回)

子どもたちの記録は300時間超え!

 第三回は制作の裏側の話から。

 約1年半、毎月、一週間から十日ぐらい滞在して定期的に「新田(しんでん)サドベリースクール」に足を運んだとのこと。

 1日に数時間カメラを回したとしても、撮影した素材がそうとうな量になったことは想像に難くない。

「そうなんです。300時間を超えたんですよ(笑)」

「屋根の上に吹く風は」より
「屋根の上に吹く風は」より

 その膨大な映像素材をいかにしてひとつに紡いでいったのだろうか?

「おおまかなことを言うと、自分が『おもしろい!』と思ったところからブロック的にまとめていって、それをうまくつなげていったというか。

 とにかく『これを見せたい』とか『これはおもしろい』っていうところを起点に今回はまとめていった感じです。

 これまでいろいろと番組を制作してきましたけど、ここまで映像素材が多かったことはなかった気がします。

 ただ、編集作業に入る前に、なんとなく作品の全体イメージのようなものはできていたんです。

 いままでのテレビでの経験から、方向性やテーマはおぼろげながら見えていた。

 でも、作品の文脈というかストーリーラインまではちょっとみえなかったですね。今回に関しては。

 だから、とりあえず自分がおもしろいと思うシーンをブロックでまずまとめて、それで並べて、どうするかを考えて。

 そんな試行錯誤を何度も繰り返しながら、つなげていったらこうなった感じです」

学校というのは子どもの成長する場ではあるけれど、

大人が成長する場でもある

 300時間から吟味された映像によって紡がれた作品は、「新田(しんでん)サドベリースクール」という学びの場の普段着の姿を映し出すとともに、そこで思い思いの時間を過ごす子どもたちの喜怒哀楽の表情をいきいきと活写している。

 その中で、浅田監督自身は、新田サドベリースクールでの日々の中にこんなことを見い出していたという。

「学校なので、作品においてもやはり子どもたちが主人公。

 子どもの成長していく姿というのは、なんとも魅力的でかけがえのない時間でもある。そういう瞬間は大切に映し出したいと思いました。

 一方で、学校というのは子どもの成長する場ではあるんですけど、大人が成長する場でもあると思うんです。

 これはサドベリーに限らず、先生たちや保護者が子どもたちから教えられること、新しい気づきを与えてくれる瞬間が多々ある。

 ただ、その中でも、サドベリーという学校の場は、大人たちが心を揺さぶられるといいますか。

 いまの大人たちが正しいと信じてきたことと、真逆の発想のことが行われていたりするので、はじめは受けとめきれないところがあったりする

 それで揺さぶられて大人自身も変わっていく。

 子どもの成長をみつめながらも、その実は大人も成長して変化しているところが撮れたのはではないかと思っています。

 あと、わたし自身も痛感したのは、大人が子どもを信じて見守ることの大切さです。

 子どもに対して、大人はついつい口を出したくなってしまう。でも、そこを我慢して見守ると、子どもはどんどん自分らしさを発揮していく。

 たとえば、ちょっと自分の殻にこもってしまった子とかも、自分が受け入れられて居場所ができると、だんだん元気を取り戻していくんですよね。

 否定からはじまると、子どもはやはり萎縮してしまう。

 でも、肯定からはじまると、自分らしくいれて。もともともっている自分の才能を臆せずに出すことができる。

 そのことをサドベリーで実感しました。

「屋根の上に吹く風は」より
「屋根の上に吹く風は」より

 だから、本人に任せるというか委ねるというか。

 大人は、子どもの可能性をもっと信じてあげないといけないなと、自分自身への反省も込めて、思いましたね。

 サドベリーの理念のひとつが『子どもを100%信じる』。

 口で言うのは簡単ですけど、これを大人はなかなか実践できない。あれこれ言いたくなってしまう。

 だから、もうちょっと大人が意識を変えるというか。

 子どもをもっと信じていいんじゃないかなと」

 改めて振り返って、いまこんなことを感じているという。

「子どもそれぞれに性格も興味も違うわけで、今の時代に、それを一律、義務教育におしこめてしまうのはかなり無理がある。

 いまのままでは、子どもにとって学校はますます息苦しい場所になっていってしまうのではないかなと。

 もっと、その子どもにあった学びの場があって、いろいろな子どもの才能の伸ばし方があっていいのではないか。

 こういう学びの場があることをまずは知ってもらえたらと思っています」

「屋根の上に吹く風は」より
「屋根の上に吹く風は」より

「屋根の上に吹く風は」

監督・撮影・編集:浅田さかえ

神奈川・ジャック&ベティ、熊本・Denkikanにて公開中。

長野・上田映劇にて12/4(土)~、

大分・シネマ5で12/11(土)~公開

公式サイト https://www.yane-ue.com/

ポスタービジュアルおよび場面写真はすべて(C)SAKAE ASADA

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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