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名前は知らなくてもきっとその顔に見覚えアリ!若手バイプレイヤーとして頭角表す前原滉が目指す先

水上賢治映画ライター
「彼女来来」で主演を務めた前原滉  筆者撮影

 朝ドラ「まんぷく」やドラマ「俺の家の話」をはじめ話題のドラマや映画への出演が続き、確かな存在感を示している俳優の前原滉

 3月に公開された「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」に続く最新主演映画「彼女来来」について彼に話を訊くインタビューの後編へ。

正解がひとつの映画ではないと思います

 前回のインタビューから引き続き「彼女来来」の話から。異色の恋愛映画とも不条理劇にも受けとめられる本作だが、前原自身はどう受け止めているのだろうか?

「どう受け止めてもらってもいいのではないかなと。

 僕自身も見方によっていろいろな顔になる映画だと思っています。

 恋愛劇としてみたら、まあ僕が演じた紀夫のへたれな恋物語として楽しめる。

 しかも設定は恋人がある日突然別人に入れ替わるとありえないことですけど、その中で起こることは特殊じゃなくて、リアルな恋愛劇ととらえる人も多いんじゃないかと思うんです。

 転じて、天野さんが演じたマリの視点に立つと、サスペンス、ホラー、ミステリーととらえる人がいても不思議ではない。

 そういうイマジネーションを膨らますことができる余白の大きな映画だと思うので、自由にとらえてもらえればなと思います。

 正解がひとつの映画ではないと思います」

 では、あまり詳細は明かせないがこの物語の結末はどう受け止めただろう?

「『ああ、受け入れちゃうんだ』と思いつつも、実際はみんなあんなことになってしまうんじゃないかなと。

 僕は『俺は絶対にああいうことにはならない』と断言する人の言葉を信じられないです(笑)」

「彼女来来」より
「彼女来来」より

役者の道は、母に導かれたところがあります(笑)

 今年に入って、「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」「彼女来来」と立て続けに主演映画が公開され、ドラマや映画への出演も続く。

 若手バイプレイヤーとして着実な歩を進めるが、もともと俳優を目指していたわけではなかった。

「僕は高校は工業高校に通っていました。

 工業高校なので、当然ですが、手に職をつけて働くことを目指す生徒が多かった。だから、卒業後の進路も多くが就職する。

 ただ、サッカーの強豪校でもあって。僕はサッカーがしたくてその高校に進学した経緯があった。

 でも、ちょっと事情があって、サッカー部に入るのを辞めた。入部すらしなかったんです。

 同学年で入部した友だちがひとりいたんですけど、彼に『一緒に全国目指そう』と言っていたにもかかわらず(苦笑)。

 最終的に彼は、キャプテンを務めて、3年生の時に全国に行ったんですけどね。

 その全国大会に彼が行った姿を見て、『自分もやりたいことをやらないと後悔するぞ』と強く思いました。

 それで、進路を決めなくてはならなくなったとき、ほかの生徒と違って僕は目指す就職先があるわけではなかった。

 で、昔からドラマが好きでよく見ていて、『ああ、お芝居やってみたいな』と思ったんです。

 そのことを母親に伝えたら、仙台でやっていた舞台に連れて行ってくれて、観たらものすごく楽しそう。

 演じているみなさんが全員活き活きしている。

 そう思える仕事にそれまで出合ってないから、『やってみたい』と思い立ってしまった(笑)。

 そこからもう迷いはなくて、何も決めずに東京に行くことを心に決めました。

 でも、母が『どこかに籍を置いてくれたほうが安心する』とのことで、じゃあ映画学校とか、映像専門学校に進もうとなった。

 そうしたら母が『それは違う』と言い出し(笑)、母自らが現在所属している事務所の養成所を見つけてきてくれて、そこに入ることになった。

 そして、その養成所で鍛えられて、今の事務所に入ることもできた。

 だから、ある意味、母に導かれたところがあります(笑)」

「彼女来来」で主演を務めた前原滉  筆者撮影
「彼女来来」で主演を務めた前原滉  筆者撮影

最近、出演していないのに『あの作品出ていたよね』とか、

『あの作品で一緒でしたよね』とかよく言われます(笑)

 傍から見ると、現在、ひっぱりだこ状態というか。さまざまな作品への出演が続き、ドラマや映画に欠かせない俳優になりつつある印象を受ける。が、本人はわからないと明かす。

「そういうことをおっしゃっていただくケースが増えてはいるんですけど、自分ではよくわからないですね。

 とはいえ、この世界に入ったころに比べれば、いまいろいろなことをさせてもらっている感覚はあります。

 今回の『彼女来来』や『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』のように主演を務めさせていただくこともあれば、メインに近い役で声をかけていただけるケースも増えてきました。

 でも、僕自身のスタンスはあまり変わっていない。役の大きい小さい、どんな役とかは関係なくて、基本、スケジュールさえ合えば現場にいくことにしている。

 どんな小さな役でもチャレンジしがいのあるところがある。1日の撮影でも時間さえ合えばいきたいし、その役を演じたい。

 それは変わっていないので、あまり生活が一変したとかはないです。

 ただ、役者仲間から『最近、いろいろ出てるね』みたいなことは以前よりもよく言われるようになって。

 なんとなくいろいろな作品で自分の顔が知られるようになっているのかなと思うときはあります。

 でも、おもしろいんですけど、現場で俳優仲間とかに『あれ出てたよね?』って言われたものの、『僕、それには出てないですけど』というのがちょいちょいある(笑)。

 出てないことを伝えても、『いやいや、何々役だったでしょう』とか言われる。

 この前なんて、あるスタッフさんから『あの作品でご一緒しましたよね』って言われたんですけど、その作品に僕は出ていない(苦笑)。

 いろいろな作品に出演させていただいたおかげで、サブリミナル効果が出ているというか(笑)。

 なんか僕自身を本体とするならば、そのイメージが出ていない作品にまでも出ているような効果を生んでいろいろな人に認識されている感じがあって、うれしいです」

自分で言うのもなんなんですけど、

いろいろな役をやらせてもらえる顔ではないかと思うんです

 今後をこう見据えている。

「ここまでほんとうに作品運に恵まれていると思います。

 先でドラマが大好きでよく見ていたと言いましたけど、それこそ宮藤(官九郎)さんの作品が大好きで一度はと思っていたら『いだてん』で関わることができた。

 ひとつ夢が叶ったと思ったら、『俺の家の話』で再びご一緒できることになった。

 今年は思いがけず主演映画が2本も立て続けに公開を迎えた。ほんとうに幸運が続いていてちょっと怖いです。

 このことにおごらずに続けていかないといけないと思っています。

 自分で言うのもなんなんですけど、いろいろな役をやらせてもらえる顔ではないかと思うんです。

 今回の『彼女来来』のように真面目な普通の青年にもなれれば、何度かありましたけど、なにか闇を抱えた役のルックスでもある。

 その両極に触れるのが自分のいまの武器かなと思っています。年齢も若く見られることもあれば、実年齢よりもずいぶん上にみられることもある。

 そのあたりを最大限に活かしながら、幅広い役を演じていけたらと思っています」

「彼女来来」より
「彼女来来」より

「彼女来来」

監督: 山西竜矢

出演:前原滉 天野はな 奈緒ほか

公式サイト http://sherairai.com

6 月18日(金)より新宿武蔵野館ほかにて全国公開

場面写真およびポスタービジュアルは(C)「彼女来来」製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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