Yahoo!ニュース

「おちょやん」の小暮役も反響を呼んだ若葉竜也が語る。「僕が敗者を無意識に意識する理由」

水上賢治映画ライター
「街の上で」 若葉竜也 筆者撮影

 下北沢を舞台に、最近彼女にフラれたばかり、もっか失意の中にいる荒川青のありきたりかもしれないけど、なんだか愛おしい日常を描いた映画「街の上で」。

 主人公・荒川青を演じた若葉竜也のインタビューの第二回へ。前回は、役にLoser(敗者)の要素が入る理由についての話で終わったが、ここでも引き続きその話から入る。

寂しさや悲しさ、孤独といた人間の「負」や「陰」の部分を演じる上では

無意識のうちに意識している

 役に人間の「暗」であり「負」の部分が入り込むことを意識したのはかなり若い時分からだと明かす。

「かなり前からなんとなく意識していましたね。

 たとえば、なんで映画をやるのかとか、なんで人と会うのかとか、なんで人に嫌われたくないのかとか、はたまた嫌われたいのかとか、いろいろなことを考えると寂しさに起因している気がするんです。いや、こんな風に言うと芝居の方程式みたいで、すごくイヤなんですが(笑)。誤解しないで欲しいんですが、頭で考えて演じてる訳じゃないんです。

 根底に『人は寂しさを抱えている生きものではないか』と。単純に人間を演じるときに欠かせない要素ではないかと思うんです。

 20代前半ぐらいから感じていましたけど、うまく言語化できなかった。いまもうまく言えているかわからないですけど、つたないながらも説明すると、寂しさや悲しさ、孤独といた人間の『負』や『陰』の部分を演じる上では無意識のうちに意識しているところはあると思います。

 だから、どんなにハッピーな人間だとしても、僕の場合はちょっと悲しみの匂いがついているというか、どうしても出ている気がします。

 ただ、卑屈な人間だったり、悲しみを背負っている人間だったら、もともと負を帯びていることで、逆に少し軽くできている感触もあります。

 哀しいシーンを必要以上に哀しくしたり、辛辣なシーンを必要以上に辛辣にするようなオーバーなことにはしたくない。

 こういう感情がだだもれになるような場面は、少し軽くしたほうが、より伝わるというか。僕自身が映画を観ていても、あまりにオーバーアクションになっているとドン引きしちゃうんですよね。

 だから、演じる上でもそうなってしまう。悲しい場面ほど、真剣さよりもちょっとした恥じらいが必要というか。何度も言いますけど、人間そんなに分かり易くないし、そういったシリアスな場面ほど、ちょっとつまずくじゃないですか。そのあたりを大切にしていることはあります。

 あと、敗者となるとダメ人間がイメージされるわけですけど、ダメな人の一般的なイメージがあるじゃないですか。

 たとえば、髪の毛に寝ぐせついていて目がとろんとしていて、無精ひげがはえていてジャージ姿みたいな。

 僕はそういう人がぜんぜんダメにみえないんですよ。それは見た目がだらしないだけ。そういう人ほど心根は優しくて、裏表がなかったりする。だから、ダメな人間とは思わない。

 僕の思うダメな人は、身なりもそれなりで相手の目をみて『俺、嘘言ってないよ』と真剣に訴えかけてくるような人間の方が信用ならない

 いま、ダメな人のイメージが、ちょっとだらしない人のイメージに固まりつつあって、逆に僕の考えるほんとうにダメな人というのがむしろ誠実にとらえられていたりする

 ほんとうにダメな人は嘘を真実のように言ったり、平然と嘘をつく人だと僕は思う。

 そういうことも踏まえつつ、常に『負』の感情をどこかに抱きながら演じているところはあるかなと思います。

 そして、今回の『街の上で」の青は、そういった自分が考えていることを場面場面でチャレンジできた役でした」

「街の上で」 若葉竜也 筆者撮影
「街の上で」 若葉竜也 筆者撮影

演じるヒントは日常にあるんです

 こうした大きなビジョンを考える一方で、演じる上での細やかな配慮も若葉は忘れていない。

 青は古着屋で働いているが、それを衣服をたたむ所作でこちらを一瞬にして納得させてしまう。

「それけっこう言われるんですよ。あれは、クランクインの数カ月前に知り合いが、下に置かずに服を畳む方法っていうのを教えてくれて、それをやってみただけなんですよね。

 人生で初めてあのシーンでやってみたら、周りに別に突っ込まれることもなく、そのまま場面として成立した。

 あのシーンの撮影に入ったとき、なんとなくその知り合いの教えが思い浮かんでやってみただけ。特に猛特訓したとかいうことはないんです。

 むしろ手馴れているような手馴れてないようなぐらいがいい。素人の真似事ぐらいの。それがはまってくれた。

 ただ、知人に教えてもらっていなかったら、ああなったかはわからない。ほんとうにヒントは日常にあるんです」

僕は現場でめちゃくちゃ緊張するタイプ。

その緊張をフルで出したらああなった

 もうひとつ忘れがたい印象を残すのが、青が映画の出演を頼まれ、実際に撮影に臨むも、ガチガチに緊張してしまう場面。

 その緊張がこちらまで伝わってくる。ここも絶妙の匙加減でガチガチで固まってしまった人間の姿を体現している。

「もともと僕は現場でめちゃくちゃ緊張するタイプなんです。それを普段はどうにかしてひた隠しにしている

 その緊張をフルで出せばいいかなと思ったんです。そうしたらああなってOKとなった。

 だから、あの青のひどい緊張のしようは、ふだん僕が現場で感じている緊張と同じです(苦笑)」

(※第二回終了、第三回へ続く)

「街の上で」より
「街の上で」より

「街の上で」

監督:今泉力哉

脚本:今泉力哉 大橋裕之

出演:若葉竜也 穂志もえか 古川琴音 萩原みのり 中田青渚 成田凌(友情出演)

全国順次公開中

場面写真はすべて(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

水上賢治の最近の記事