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わいせつ教員が増えるのはなぜ?わいせつ教員200人超の理由

溝口紀子スポーツ社会学者、教育評論家
中日新聞2014年12月18日

わいせつ教員200人超、懲戒・訓告処分 体罰3953人に倍増

産経新聞によると、

平成25年度に教え子らへのわいせつ行為により懲戒や訓告などの処分を受けた公立学校の教員は205人(前年度186人)に上り、昭和52年度の調査開始以降最多となったことが30日、文部科学省の調査で分かった。処分者が200人を超えたのは初。

出典:産経新聞2015年1月31日

と伝えている。

静岡県教育委員会も全国的な傾向と同じく本年度のわいせつ行為による懲戒・訓告処分が相次いでいる。

とりわけ相次ぐ教職員の不祥事多発を受けて、静岡県教委は臨床心理士と連携した不祥事防止策を2014年度後半から始めた。なぜなら教員のわいせつ行為に懲戒・訓告処分を下すだけの対処療法ではもはや再発防止にならないほど、相次いで発生したからだ。過去三年間でも懲戒事案13件のうち10件が盗撮や生徒の体に触れるなどのわいせつ行為が続いている。

急増しているように思えるが、実は以前から事件は起きていたのにもかかわらず、これまで明らかにならなかっただけで、女性が被害を訴えてこなかったからともいえる。件数が増えているというのは、ポジティブに捉えれば女性が訴えやすくなったこと、すなわち問題が顕在化してきたのではないかとも考えられる。

とはいえ事態は非常に深刻である。

静岡県教委は、再発防止にむけて人事担当者による処分のための聴き取りとは別に、不祥事を起こした当事者と臨床心理士が、カウンセリングのような形式で教員の生い立ちから家族背景にいたるまで面談して多角的に分析をしている。

具体的には心理テストをしたり、不祥事に至った経緯や動機、行為に関する考えなどを聴きとったりすることで行為を引き起こした心理的な動機、さらには教職員や学校ならではの仕事の特性によるストレスなど遠因となる問題を抽出することが目的である。

なぜ教員がわいせつ行為をするのか?

先日、静岡県教職員コンプライアンス委員会にて臨床心理士による中間報告を受けたが、単なる性的傾向だけではない複数の要因がわいせつ教師を作り出していることが徐々に明らかになっている。現在はまだ分析中であるので断言はできないが、複数の事例の共通点を考えるとキーワードは飲酒と自己逃避であると考えられる。

教員のわいせつ事件の場合、お酒を飲んだ機会に起きることが多い傾向にある。また盗撮などの事件は、ギャンブル嗜好の人がより刺激をもとめて悪いことと知っていながら、盗撮行為に及ぶケースである。いずれも職場や家庭で人間関係がうまくいかずストレスとなり自暴自棄になり事件を起こすケースが散見されていた。

なぜ教員は自分を打ちのめすかのように自暴自棄になるのか。

教員のわいせつ事件は、教え子や同僚の教員への社会的信頼、そして大切な家族の信頼も失う悲しい結末が待っている。

民間の人であれば、会社でそれだけ大きなストレスを抱える前に環境を変えるため転職するなど回避することができるが、教職員の場合、安定した聖職(公務員)であるがゆえに、家族に依願退職を言いだせなかったり、専門性が高いため転職が容易でなかったりすることが、教職員を追い込み事態を悪化させる遠因になっているようにも思えた。

とはいえ臨床心理士が面談することで当事者の立ち直りのきっかけにもなるという報告も受けている。幅広い視野で対応し実効性の高い再発防止の取り組みができると期待したい。

スポーツ社会学者、教育評論家

1971年生まれ。スポーツ社会学者(学術博士)日本女子体育大学教授。公社袋井市スポーツ協会会長。学校法人二階堂学園理事、評議員。前静岡県教育委員長。柔道五段。上級スポーツ施設管理士。日本スポーツ協会指導員(柔道コーチ3)。バルセロナ五輪(1992)女子柔道52級銀メダリスト。史上最年少の16歳でグランドスラムのパリ大会で優勝。フランス柔道ナショナルコーチの経験をもとに、スポーツ社会学者として社会科学の視点で柔道やスポーツはもちろん、教育、ジェンダー問題にも斬り込んでいきます。著書『性と柔』河出ブックス、河出書房新社、『日本の柔道 フランスのJUDO』高文研。

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