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森喜朗会長の性差別発言とガバナンス問題ー五輪組織委員会の女性評議員は1人だけー

溝口紀子スポーツ社会学者、教育評論家
2月4日の森喜朗氏の謝罪会見(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 オリンピック・パラリンピックは言わずもがな日本だけの大会ではなく国際的な大会。人権保護の国際条約、すなわち国際ルールで行われます。その東京2020の大会組織委のトップが性差別発言をしたことで国際世論からは厳しい目で見られています。

 森会長の性差別発言は、ラグビーであれば、「レッドカード(一発退場)」の反則行為と言っても過言ではないでしょう。悪質な反則を行ったプレイヤーに対して、その場で、審判員から退場処分を言い渡されます。森会長の性差別発言は、明かな反則行為、禁止行為であり、スポーツマンシップから言えば潔く舞台から退く必要があります。

 とはいえ、組織内や周辺からは「余人をもって代えがたいところがあると思いますよ。IOC(国際オリンピック委員会)との人脈、これまでのオリンピックに関する知見、その他を考えたらこの直前のタイミングで、森さん以外に誰かこのオリンピック開催を推進できる方がいらっしゃるでしょうか」と続投を希望しています。

 国際ルールであれば、一発退場であるはずが、内輪のルールを運用し、功労者だからという理由で続投することは、差別を放置しているような印象も受けます。

 森会長の性差別発言は、実はJOCだけでなく、日本社会を反映しているものではないでしょうか?言い換えれば、男社会におけるトップダウン組織としての特徴そのものともいえます。

 JOCの理事会は、女性を増やしたから会議が長くなったのでなく、これまでトップがイエスマンで周りを固めてたから議論になっていなかっただけはないでしょうか。

 女性理事の「発言の時間をある程度、規制をしていかないとなかなか終わらない」のは、見方を変えれば議論が活性化していることですし、むしろ女性理事の性による問題ではなく、会議進行役の技量によるものだと思います。

トップのイエスマンで構成される男性中心のスポーツ界独自の閉塞的な「内輪のルール」

 今回の森会長の性差別発言に対する、周囲の混乱ぶりをみると、2013年の全日本柔道連盟( 全柔連)の不祥事に経緯が類似しています。かつての全柔連は、柔道のマッチョな男性中心のトップのイエスマンで構成され閉塞的な「内輪のルール」のみによって運営されていました。トップに忖度し改善点や問題点を進言できないことが自浄能力やガバナンスの欠如につながっていたのです。その結果、相次ぐ子どもたちの柔道事故や体罰の問題が放置されてきました。その後、全柔連だけに限らずスポーツ団体でも不祥事が相次ぎました。スポーツ団体の体質として、法令遵守よりも組織内の慣習や人間関係への配慮が優先され、選手選考や公金不正などガバナンスに問題があると指摘されました。

 そこで現在、再発防止策として、スポーツ界ではスポーツ団体ガバナンスコードの実務的な運用がされています。とりわけ外部有識者や『女性理事の目標割合を40%以上』を設定することで、会議を活性化することが求められています。

森会長の五輪組織委員会の女性役員構成を調べてみました。

 現在、組織委員会の女性の人数は、理事30人中、女性は7人(23%)、評議員6人中、女性は1人(16%)でした。

この構成は、前述のガバナンスコード『女性理事の目標割合を40%以上』を鑑みると、目標には届いておらず、女性がわきまえている場合ではないことがわかります。さらに理事を選任・解任する組織である評議会では女性1名のみです。これでは女性理事を登用したくても数で圧倒的に不利な状況です。

 また、森会長から「女性は競争意識が強い。誰か手を挙げると、自分も言わないといけないと思うんでしょうね」「私どもの組織委員会に女性は7人くらいか。7人くらいおりますが、みなさん、わきまえておられて」という発言がありました。

 この発言から、「女はわきまえておく」ことが組織委員会やJOCの中で暗黙のルールになっているのではないかと思いました。また、議決権を持っている女性役員の人数が少ないことからも、「組織の中にいてもマイノリティの女は黙っとけ」というメッセージにも受け取れます。

女性が活躍しているのに活用されていないのはなぜ?

図1 夏季オリンピック出場選手数の男女別推移
図1 夏季オリンピック出場選手数の男女別推移

出典:https://graph-stock.com/graph/female-athletes-in-summer-olympics-2016/

図2 五輪金メダルの男女獲得数の推移
図2 五輪金メダルの男女獲得数の推移

出典 http://honkawa2.sakura.ne.jp/3980.html

 五輪における女性の躍進について2つの図から説明します。女性の参加率は、回数を重ねるたびに上昇し前回の2016年リオデジャネイロ五輪は45・6%となり、男女比は同率に近づいてきました(図1)。近年、IOCも男女混合種目を積極的に採用することで男女参画を促しています。また、女性の金メダル数も、近年の20年間では女性の方が男性を上回っております(図2)。

 このように近年、五輪での女性の活躍は男性と変わらないにもかかわらず女性役員の数は適切とはいえず、ジェンダーの平等は道半ばと言えるでしょう。公益法人として女性の理事、評議員の役員数を増やすことは喫緊の課題です。

「男女平等」のために「沈黙しないで」

 森会長の謝罪会見後、欧州各国の在日大使館などがツイッターに、片手を挙げた写真に「#dontbesilent(沈黙しないで)」「#GenderEquality」「#男女平等」のハッシュタグを付けて投稿していました。森会長(83)による女性蔑視発言に対する抗議とみられます。

 五輪組織委員会の役員、J O Cの役員の方々はこれらの世論を無視はできないと思います。沈黙することではなく、是々非々で議論できる自助能力のある組織として活動していくためにも、五輪の精神に反する不適切な言動をした森会長を解任をするこではないでしょうか。とりわけ、6人(うち一人女性)の評議員は、以下の理由により、過半数の3人の同意があれば、森会長を解任することができます。

第28条 理事又は監事が次の各号の一に該当するときは、評議員会の決議によって解任することができる。

(1) 職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき。

(2) 心身の故障のため、職務の執行に支障があり、又はこれに堪えないとき。

 組織委員会やJOCは、選手や競技団体に対して、金メダル30個と高い目標を課すのなら自らも襟を正し、オリンピック憲章を尊重し、ガバナンスでも金メダルを取れるよう、女性の理事や評議員の40%以上の実現を目指していただきたいです。

 そのためにも、役員構成においてもジェンダーバランスを適正にし、五輪の精神であるフェアープレイで、多様性を受け入れ議論が活発になるような風通しの良い組織になることを切に希望します。

スポーツ社会学者、教育評論家

1971年生まれ。スポーツ社会学者(学術博士)日本女子体育大学教授。公社袋井市スポーツ協会会長。学校法人二階堂学園理事、評議員。前静岡県教育委員長。柔道五段。上級スポーツ施設管理士。日本スポーツ協会指導員(柔道コーチ3)。バルセロナ五輪(1992)女子柔道52級銀メダリスト。史上最年少の16歳でグランドスラムのパリ大会で優勝。フランス柔道ナショナルコーチの経験をもとに、スポーツ社会学者として社会科学の視点で柔道やスポーツはもちろん、教育、ジェンダー問題にも斬り込んでいきます。著書『性と柔』河出ブックス、河出書房新社、『日本の柔道 フランスのJUDO』高文研。

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