Yahoo!ニュース

中国で子供が拾ったお札に「110番して!」のメッセージ。その結末は?

宮崎紀秀ジャーナリスト
子供が拾った中国の札には謎のメッセージが...(写真は人民元のイメージ)(写真:中尾由里子/アフロ)

 子供が拾った札には、「110番して欲しい」などと謎のメッセージが走り書きされていた。警察が札に書かれていた情報を頼りに調べたところ、なんと11人の若者が犯罪集団によって一つの部屋に閉じ込められているのが見つかり、解放につながった。中国でドラマのような救出劇があった。

落ちていた札にはメッセージがびっしりと...

 中国メディアによれば、事件があったのは中国内陸部、内モンゴル自治区の包頭市。5月11日、同市内のとある団地の敷地内で、1人の子供が、1枚の20元札(約380円)を拾った。子供はその札を家に持って帰り、父親に見せた。

 札の表と裏の両面に、何やら謎めいた文言がたくさん書かれていた。

「善意の人へ、110番してほしい」

「彼らはドラッグをやっていて、刃物を持っている」

 更に場所を示唆するメモもあった。

「この棟の3階11人」

「警察に調べてほしい。ドアを開けるとソファがあり、ガラスのティーテーブルがある」

「建物の下には理髪店、バイクの修理店がある」

 父親は不審に思い、警察に通報した。

SOSのメッセージは一体誰が...

 警察は、札に書いてあったメッセージを頼りに、それと思しき棟をローラー作戦で調べた。警察の訪問に応じた部屋では、札に書いてあるような状況は見つからなかった。だが、ノックに応じない部屋も何戸かあった。

 警察は、そうした部屋を夜通し監視した。すると午前2時ごろ、カーテンをしっかり閉めているものの、人影が動いた部屋があった。

 警察は、警戒して翌朝まで待った後、解錠業者を伴ってこの部屋を捜査した。すると若い男性10人と女性1人が閉じ込められているのが見つかった。

 11人の出身地はばらばらで、中には遠く離れた中国南部の海南島や西南部貴州省などから来た者もいた。彼らはSNSを通じて、高収入の仕事があると誘いを受け、包頭まで来たのだった。

 だが、実際は違った。仕事というのはウソでマルチ商法を強いられていたという。

 ある者の話では、身分証や現金を取り上げられ、毎日、話術などの“授業”を受け、洗脳されたという。そして親しい友人などを勧誘するよう強要されていた。逃げられないよう部屋には鍵がかけられていたが、そんな生活を、最も短い者でも2か月余り、中には半年に達していた者もいた。

中国では悪質なマルチ商法が多発...

 20元札でSOSを発した若者は、かつて映画で見たシーンを思い出し、犯人たちがいなくなった隙にこっそりメッセージを記し、札を窓の外に投げ落としたという。すでに逃げ出せる自信を失いかけていたといい、救出してくれた警察官たちに涙を流して感謝したという。警察がさらに実態解明を進めている。

 中国ではマルチ商法はよくある犯罪の一つ。

 マルチ商法の犯行グループが、参加者を半ば監禁状態におき、洗脳や暴力を振るうなどして逃れられなくする悪質な例も後を絶たない。だが、そんな禍に巻き込まれる大多数は、就職難や経済的な困窮などから、「手軽に金儲けができるかも」とふと魔がさしただけの人であろうことは、中国に限らない。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

宮崎紀秀の最近の記事